昭和生まれ、アナウンサー西靖の育休日記

第3回

体操服の輪廻、そして

2021.06.26更新

 妻、キョウさんの出産にむけてそろそろと準備を進めているニシ家です。先日、ベビーベッドをレンタルしました。店舗で受け取ると配送料もかからないので(そのへん、わりと細かい我が家です)、雨のなか車で受け取りに行きましたが、長期レンタル割引もあって、半年で7,500円ほどでした。ひと月1,000円ちょっと。探せば安く買えるものもあるようですが、我が家ではレンタルがよいと判断しました。ちなみに長男のときは妻が添い寝でベビーベッドは使わず、次男のときは妻の知人から借りました。
 子育てにはいろんな「期間限定グッズ」があります。ベビーベッドも長くて1年程度しか使わないし、ベビーカーもチャイルドシートも、幼稚園の制服も体操服も、ついでにいえば多くの場合プラレールやトミカも、ずっと使い続けるものではありません。長男が生まれるときにいろいろと見聞きする必要なグッズの多さに、けっこう物入りやなぁと思っていたのですが、コミュニケーション上手で友達の多い妻が「マツモトさんがさ、お兄ちゃんがもう卒園したからって体操服くれてん!」「これ見て! ノリタケさんのところ4人きょうだいやん? ママがお裁縫めっちゃ上手でさ、いろいろ手作りベビーグッズもらった!」と次から次に制服や体操服その他諸々をもらってきて、ゼッケンを付け替えたり、ちょっとサイズの大きいものはストックしたりして、盤石のローテーションを構築しています。私の知人からも「あんなに熱中したプラレールなのに、もう見向きもしないんですよ。いります?」みたいな話が頻繁にあります。(もちろんありがたく頂きます)
 中古グルグルは、まずもって経済的にたいへんありがたいです。また、家によってこんなに洗剤の匂いが違うのか、とか、どんなアクロバットをやればここが擦り切れるのか、などなど、体操服ひとつにもそれなりの歴史があります。さらによく見れば、うちと同じマンションでお子さんが3人いるヤマダ家から来た制服は、タグのところにヤマダと書いている裏に消えかかった別の名前が書いてあったりして、なんとこれを着るのはうちで3代目か! と楽しい発見が。3人のそれぞれ個性の違う男の子が、この制服を着て走り回ったり、牛乳をこぼしたり、遠足に行ったりしたのかと思うと、思わず笑いがこみ上げてきます。
 もちろん、新品を着せてやりたいものもありますから、すべてを近所のおさがりでやり繰りするわけではありませんが、このサークルというかローテーションのようなものに入ることの発見は、他にもたくさんあります。
 例えば、妻は制服や体操服のお返しにお気に入りの焼き菓子や、先方のお子さんの気に入りそうな本をお渡ししています。そういうのって、服を服屋さんで買う、おもちゃをおもちゃ屋さんで買う、というシンプルな商行為よりもお金が「回っている」感じがしますし、そこには相手のことを考えるという要素が加わります。結果としては体操服のやり取りが終わってもお菓子のやり取りが続いていたりします。マツモトさんからは「鬼滅の刃」のコミックも借り、そのお返しに鬼滅キャラの子ども用マスクをお返し。幼稚園の年中組でうちの長男と同級のコタニさん(女の子2人姉妹)からはベビーカーをいただき、とりあえず女の子が好きそうなヘアアクセサリーをお返しし、それだけでは釣り合わないので他になにか渡すものはないか思案中。中古であってもフリマアプリで手に入れるのとはずいぶん違って、やり取りされるグッズそのものよりも、それを介したコミュニケーションのほうがメインのようです。(フリマアプリももちろん使ってますけどね。)
 ニュースを扱う私の仕事では、よく「地域社会」とか「地域の支え合い」のような言葉が出てくるんですけど、正直、独身時代はピンときてなかったんですね。賃貸マンションの隣の部屋の人とは会えば挨拶する程度、ボランティアを取材した経験はあっても参加した経験はないし、自治会ってなんですか? というレベル。でも、こうして結婚して子どもを授かって幼稚園に通わせて、というなかで、ああ、たしかにここには「地域のつながり」があるんだな、と思います。子どもたちが幼稚園や小学校、中学校を出てしまえば途切れてしまうかもしれないし、途切れないご縁もあるかもしれません。いずれにせよ、同じ年頃の子育てを経験している親の間には、体操服のやり取り以上の共感性と支え合いがあるのを感じますし、前にも書きましたが、マンションの向かいのおばあちゃんは妻や子どもたちに「退屈したらうちにおいで。うちも年寄り二人で退屈やから」と声をかけてくれて、本当にお邪魔したりしていますから、これはママ友などという言葉を超えて「『地域』のひとつのかたちかも、という気がします。妻はもとの職場の仲間や高校の同級生とも同様のやり取りをしていますから、地域というのは言葉の意味を軽々と超えた繋がりなのかもしれません。
 私自身も、子どものころにたまに隣のカトウさんの家でご飯を食べさせてもらって、うちのカレーよりジャガイモがずいぶん大きいな、などと思っていたのをふいに思い出したりしています。

 さて、取ると決めただけでまだ育休には入っていないのにいきなり戸惑っていることがひとつありまして、それは「男の育休は入口がわかりづらい!」ということです。働く(勤務という意味です)女性の場合、まず出産予定日の数週間前から産休に入りますよね。ところが、当たり前ですけど男性には産休はなくて、制度上、育休は「生まれた日」が起点になります。先日、法改正があって、出産直後から仕事を休みやすくなったようですが、生まれる前から育休が取れるようになったわけではありません。これまた当たり前ですが。
 予定日はあっても予定通りに赤ちゃんが生まれてくれるわけではないので、1カ月前までに育休取得の申請をしたうえで、妻と「どう? そろそろ?」「そんなん、突然くるんやから、私にもわからん」という会話をしながらソワソワと待つことになります。職場でもシフトを組む先輩から「どう? そろそろ?」と聞かれ、妻に言われたままに「いやぁ、突然くるもんですからなんとも」と答えます。かなり理解のある職場だとは思うのですが、取るほうも受け止めるほうも、男の育休には慣れっこというわけではないようです。

 なんて思いながら仕事をしている予定日1週間前、お昼ご飯を食べて午後の仕事にとりかかったところで、妻から携帯に連絡が。

「ちょっとお腹が痛いんやけど、早く帰ってこられる?」

 そうなんです。突然くるんです。

西 靖

西 靖
(にし・やすし)

1971年岡山県生まれ。毎日放送(MBS)アナウンサー。大阪大学法学部卒業後、1994年にMBS入社。『ちちんぷいぷい』(2011年~2021年)、報道番組『VOICE』(2014年~2019年)、『ミント!』(2019~2021年)といった人気番組の司会やキャスターを務める。現在はMBSアナウンスセンター長。相愛大学客員教授。2021年6月から9月までおよそ4ヵ月間の育児休業を取得。著書に『西靖の60日間世界一周旅の軌跡』(ぴあ)、『辺境ラジオ』(内田樹・名越康文との共著、140B)、『地球を一周! せかいのこども』(朝日新聞出版)、『聞き手・西靖、 道なき道をおもしろく。』(140B)。

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