昭和生まれ、アナウンサー西靖の育休日記

第10回

ああ、寝不足

2021.08.16更新

 最近、長男が幼稚園の同級生からカブトムシをもらってきたニシ家です。山でたくさん捕ってきたのかと思いきや、去年捕まえたカブトムシがイチャイチャして卵を産み、その結果、家に50匹くらいカブトムシがいるんだそうです。私も田舎育ちなのでカブトムシを捕まえたことはありますが、50匹のカブトムシを飼ったことはありません。どうやって飼育しているんでしょう。そして来年はどうなるんでしょう。ちなみに我が家のカブトムシもイチャイチャしてたんですが、どうなるのでしょうか、、、

 育休をとったことを知人に話すと、「育メンですね~」と言われることがあります。相手は褒めてくれているのだと思うので「どうも」と応じるんですけど、微妙にしっくりこない感じです。育メンというのは「育児に積極的に関わっている(素敵な?)男性」ってことだと思います。さして主義主張があって育休を取得したわけではないとこの連載の始めにも書きましたが、育児への関与を評価されると居心地が悪いというのは我ながら不思議です。そもそも男性は育児に関わらないもの、という前提がチラつくせいかもしれませんし、そんなにあっさり評価せんといてよ、というちょっとひねくれた気分があるのかもしれません。育休を取らなかった長男、次男の誕生後にも、自分なりに精一杯に育児には関わったつもりですし、逆に育休を取ったとしても、育児や家事にどう関わるか、それが家族にとっていいものになるかどうかは、これからの私の行動次第です。まあ、育休をとっている時点で積極的に育児に関わるつもりなのだろうということは推測できるわけで、素直に受け取ればいいんでしょうけどね。

 さて、妻と赤ちゃんが自宅に戻ってきて、長男、次男のときと同じ、赤ちゃんとの生活が始まりました。赤ちゃんによって多少の差はあると思いますが、うちの子は2, 3時間おきにおっぱいを飲みます。おっぱいを飲んだらすぐにすやすや寝るとは限らなくて、なだめたりすかしたりして寝かしつけなくてはなりませんし、飲めばやっぱり出るものは出るので、おむつも換えなくてはなりません。そして、それは夜でも変わりません。
 そう。夜でも変わらないのです。当たり前やん、と思われる方もいらっしゃるでしょうが、長男たすくが生まれたときは、え? そうなん? 24時間? と夫婦そろって愕然としました。だって、大人は朝まで寝るじゃないですか。夜中にトイレにいくことはあっても、1回か2回でしょ? お腹が空いて目が覚めるなんて、私、年に1回もありません。まあ、端的に言えば覚悟が足りなかったんですが、赤ちゃんの親がこんなに寝られないものなのかと痛烈に思い知らされたのでした。
 そんなわけで、赤ちゃんとの生活はすなわち、妻にとっては寝不足の日々でもあります。って、何? 母親だけがそれを背負うわけ? とお思いの方もいらっしゃると思います。もちろん、ミルクで子育てをすれば男性が赤ちゃんの要求に応えることはできますし、実際にやっているというご家庭も多いはずです。母乳で育てるかどうかについてはいろんな事情や考え方があって、軽々に評価することはできません。うちの夫婦は母乳至上主義というわけでは全然ありませんが、しっかりと母乳が出る妻が「せっかくおっぱいが出るんだから、おっぱいで育てたい」という気持ちでいるので、長男も次男も、朝も昼も夜も、妻が直接、授乳しました。本当に大変だと思いますが、今回、三男も基本的には同じように妻のおっぱいで育てる方針です。

 ちなみに我が家では、長男が生まれた後から、私だけ寝室とは別の部屋に布団を敷いて寝ています。妻は「とにかく夜はしっかり寝て。寝ぼけ顔で仕事に行かせたくないから」とありがたいことを言ってくれますが、ぼそっと「イビキうるさいねん」と言ったこともあります。どちらがリアルな本音なのかはわかりません。
 三人目の息子を迎えるにあたっては、寝る場所をどうするか、夫婦でけっこう話し合いましたが、とりあえずということで長男、次男、妻に加えて、ベビーベッドも寝室に、私だけが相変わらず別の部屋で寝ています。妻がいろいろ背負いすぎではないかと思っているのですが、いずれ子どもたちが大きくなってくるといろいろ変わってくるのでしょう。

 朝6時半、長男、次男が寝室からタタタッと廊下を走ってきて、寝ている私の上に容赦なくのしかかってきます。無理やり起こされるわけではありますが、私にとっては至福のスキンシップ時間でもあります。しばらく寝床のなかで、なぞなぞをしたり、レスリングごっこをしたり。その後しばらくして赤ちゃんを抱っこして妻がリビングに来るのですが、かわいそうに7割くらいの確率で「全然、寝られへんかった、、、」と低い声でつぶやきます。その表情は本当にしんどそうです。そうなのです。この寝不足の妻とどう向き合うかというのは、今回の育休の、ある意味で最大のテーマです。

 夫婦生活はすり合わせの連続と以前にも書きました。例えば、寝不足の妻の助けになればと、彼女が寝ている間に洗濯物を洗濯機に放り込み、ベランダに干したとします。すると、あるときは「え! やってくれたん? ありがとう!」と言われ、あるときは「私のやり方があるねんから、いらんことせんといてよ、もう」と言われたりします。なんという不条理でしょう。夫婦初心者のころは「なんでやねん、言うてることちゃうやんけー」などとぶつかることもしばしばでした。それほどに寝不足は人の余裕を奪います。それに、不条理と夫は思っていても、妻のほうは「なんと空気の読めない旦那だろう」と思っているはずなのです。知らんけど。

 夫婦生活7年、子育ても3人目ともなれば、それくらいでイラっとしたりはしないぞ! と強い決意をもってこのたびの三男を迎えたのに、夜の間に起こるすべてのことを背負ってくれている妻に対しては超ウルトラ最大限の敬意と感謝の気持ちを持っている私なのに、ああそれなのに、なぜかなにかの地雷を踏んでしまい、踏んだほうもなぜだかムキになり、じつに取るに足らない諍いがしばしば起こります。それはもう、朝食のデザートはバナナやろ? いやさっきキウイにするって言うたやん、とか、子どもたちの食事のときの態度に対する注意の言い方がきつすぎる、いやそんなことない、とか、もう書くのも恥ずかしいくらいどうでもいいことばかりです。そこにもってきて、私のほうも、自覚はないのですがけっこう理屈っぽいらしく(よく職場でも言われるので、じっさいそうなんでしょうけど)、「キウイにすると言ったあとに子どもたちがバナナがいいと言ったんだ。食べるのは子どもたちなんだからバナナでいいと俺は思う」とか「先日は子どもの同じ態度をニコニコと見守っていたのに今日はきつく注意するというのはよくないよ」などと杓子定規なことをいうものですから、余計に話がややこしくなります。

 先日も、子どもたちが寝てからの束の間の静寂のなかで私はビールを、妻はノンアルコールビールを傾けながら、どうすればあのトゲトゲしたやり取りをなくせるだろうと話し合ったのですが、妻が「もう、寝不足の私は別人やと思って。あれは私じゃないねん。スルーしてくれていいから」などと言います。本当にスルーで解決できるのならこんな楽な話はありませんが、「ああ、はいはい、別人格だからスルーね」などという態度をとろうものなら、これはもうえらいことになります。だからもう少しぶつかり合わないルールを作ってだね、なんていう理屈っぽさがまたあかんのでしょう。知らんけど。

西 靖

西 靖
(にし・やすし)

1971年岡山県生まれ。毎日放送(MBS)アナウンサー。大阪大学法学部卒業後、1994年にMBS入社。『ちちんぷいぷい』(2011年~2021年)、報道番組『VOICE』(2014年~2019年)、『ミント!』(2019~2021年)といった人気番組の司会やキャスターを務める。現在はMBSアナウンスセンター長。相愛大学客員教授。2021年6月から9月までおよそ4ヵ月間の育児休業を取得。著書に『西靖の60日間世界一周旅の軌跡』(ぴあ)、『辺境ラジオ』(内田樹・名越康文との共著、140B)、『地球を一周! せかいのこども』(朝日新聞出版)、『聞き手・西靖、 道なき道をおもしろく。』(140B)。

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