昭和生まれ、アナウンサー西靖の育休日記

第8回

赤ちゃんがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!

2021.08.01更新

 勝手に男一人育児で自分を追い詰め、人生初のお弁当を4歳長男と2歳次男に持たせ、完食してくれたことに感動して落涙している49歳の父が切り盛りするニシ家ですが、いよいよ出産した妻が退院、新生児の三男がやってきます。

 このときの私の気持ちは、得も言われぬ複雑なものでした。第三子の誕生はめっちゃくちゃにうれしいです。抱っこしたい! そして妻の退院ももちろんうれしい。
 でも、これまで経験した新生児との生活は、『うれしい! たのしい! 大好き!』だけの日々ではありませんでした。食べるのも寝るのもウンチをするのも初心者の赤ちゃんを家庭に迎えます。すでに二人の赤ちゃんを育てた経験があるとはいえ、楽な日々ではないことは重々承知です。それに、赤ちゃんはみんなびっくりするくらい違うということを、まさにその二人に教えてもらったわけで、これまでと同じようにすれば万事OKとはいかないだろうことも想像できます。とりわけ、新生児は夜8時に『愛しい人よGood night』と眠ったら朝の7時までぐっすり、というわけでは全然ない(少なくとも我が家の長男次男のやんちゃコンビが赤ちゃんだったときは)ということが親にとっては小さくない要素です。愛しい我が子よ、なぜ寝ない(涙)という寝不足の日々がたぶん待っています。あな恐ろしや。
 次は妻の帰還。もちろん100%うれしいんですが、産後しばらくはゆっくり養生してもらわなければなりません。私にどれくらいのことができるのか、妻にどれくらい頼っていいのか、手探りの日々がしばらく続くはずです。手探りの日々というのは、すり合わせの日々でもあるわけで、妻にしてみれば「言わなくてもやってくれていると思ってたのに」ということがあるでしょうし、私からすれば、よかれと思って言われなくてもやったことが、かえって家事を増やすようなこともあるでしょう。(そもそも産後に限らず、すり合わせって無限に続くんだよな、、、)
 もうひとつは、父親の慣れぬ家事になんとなく協力してくれた長男次男が、ママが帰ってきて、でもそのママはけっこう赤ちゃんに掛かりきりになるなかで、どんなふうに感じ、どんなふうに変化するかということです。お兄ちゃんだよ~! と赤ちゃんをかわいがるのか、自分が受け取るはずの愛情を横取りされているような気分になって拗ねるのか、それともなにかしらのステップアップがあるのか、ちょっと想像がつきません。想像はつきませんが、ちょっと楽しみでもあります。

 肩で息するようなギリギリの5日間を終えた安堵感と達成感、妻が帰ってきてくれる安心感、赤ちゃんを迎えるうれしさと覚悟、家族のバランスがどんなふうに再構成されるのかという難しい予想。つまりまあ、複雑な気持ちってそういうことです。

 お疲れ様、と妻に渡す花を途中の花屋さんで長男次男に選んでもらい、小さな花束を二つ作って、お昼前に妻と赤ちゃんを産院に迎えにいきます。コロナ禍の出産で、赤ちゃんとの(オンラインでなくリアルな)対面も初めてです。たすく、さとるの長男次男コンビに「いい? ママに会ったら、おめでとうって言ってこのお花を渡すんだよ」と伝えていた『愛をこめて花束を』作戦ですが、当然ながら思ったようにはいかず、ママー! と駆け寄った次男は花束を渡すことを忘れ、長男はなんかモジモジしていて、それぞれが「らしさ」を発揮したお迎えでした。私たちは母がいないとはいえ3人で過ごしていましたが、妻のほうは、赤ちゃんと過ごす時間はあるものの、慣れた我が家から離れて5日間を過ごしたわけで、長男次男のでこぼこコンビのお迎えはやっぱりうれしそうです。
 私はというと、妻にお疲れ様、と声をかけ、おくるみに包まれた赤ちゃんと対面。初めての外の風にふわふわと髪の毛が揺れています。曇りの日でしたがちょっとまぶしそうに顔をしかめています。はじめまして。お父さんだよ。生まれてから5日間も会えないのは初めてなので、なんだか変な感じです。

 余談ですが、最近は妊婦健診のエコー検査で、お腹のなかの赤ちゃんを陰影のついた立体的な写真(といってもエコーのデータをもとにコンピューター作画したものですが)を見ることができます。5年前、長男たすくがお腹にいるとき、これを見た妻は「いやーん! めっちゃかわいい!! 鼻が高いのはあなた似かな。うちの弟にも似てるかも。もうけっこうおっきいんだって。ほら、この写真なんて、あくびしてるねん。やーん! かわいいわぁ」と嬉しそうでした。ただ、すべての女性を敵に回しそうですが、その写真を初めて見たときの私の第一印象はというと、

「う、宇宙人?」

 コンピューターでピンクに色付けされた、不鮮明なのに妙にリアルな写真は、キュートな赤ちゃんのイメージよりも、大きな目を持つグレイの宇宙人(とされるアレ)を想像させました。少なくとも私の場合。
 あまり男女の違いで物事を論じたくないと普段は思っているんですが、この写真を前にした妻との反応の違いはかなり印象的でしたし、あまりに反応が違うので周囲の子どものいる男性の同僚に聞くと、案の定というかなんというか「そうやねん、かわいい我が子のはずやのに、あの段階でなかなか、めっちゃかわいいやん! とはなられへんよな」という複数の証言を得ました。一方で同じ3Dエコーの写真を、女性の同僚に見てもらうと、みなさん「うわ、ちっちゃいお手々! かわいい! けっこうしっかりした顔立ちやね! この時点ですでにちょっとニシに似てない?」と(気づかいかもしれませんが)ちやほやリアクションが返ってきます。こうなると、どうも男女で子どもに対する愛着が生まれるタイミングが違うのは間違いなさそうです。
 生まれたあとも実は同じようなギャップは感じていて、長男たすくが我が家にやってきたとき、この「愛情が立ち上がる時間差」にけっこう振り回されたように思います。壊れそうな華奢な赤ちゃんをどう扱えばいいのかわからない戸惑い、やらなければならないことが次々に現れる戸惑い、首が座らずグネグネの赤ちゃんをお風呂に入れることの戸惑い、「妻」が「母」に急激に変わることへの戸惑い(これはデカい)などなど、戸惑いばかりが先に立ち、何より、すぐに「愛情いっぱいモード」にならない自分に対していちばん戸惑う。あれ? 俺って冷たいのかな? ちょっとおかしいのかな? とさえ思いました。もちろん、その後、寝食を共にし、目が動いたといっては喜び、座れたといっては喜び、離乳食を食べてくれたといっては喜び、といった日々を重ね、どんどん我が子がかわいくなってきたことは言うまでもありません。いまでは、おもちゃを片付けないことの言い訳をする姿すら愛おしく感じます。生まれる子どもへの愛着についての研究は山のようにあるでしょうから、私がずいぶん遅れてその経験をしているということだと思いますが。

 さて、待望の三男が我が家にやってきた日にもどります。前日のお弁当で知力と体力を使い果たし、豪華ランチで妻を迎える余裕などあろうはずもなく、それは妻も重々理解してくれていて、ニコニコと車に乗り込み、『希望の轍』を愛しの我が家へ。帰宅するとすぐに、家にあるものをちょちょいと料理してくれてお昼ご飯。この、あるものをちょちょいと料理するというのが、いかほどにすごいことかということを学んだ育休スタートでもありました。
 そして、私のこの日の大きな関心事だった、長男と次男が赤ちゃんに対してどんな反応を示すかということですが、長男は実にやさしく「赤ちゃんがこっちを向いたよ!」「お口開けてるね! お腹空いたんかな?」とニコニコ。一方の次男は、「赤ちゃん! 抱っこしたい! こっち向かせたい!」と同じく愛情いっぱいの様子なれど、赤ちゃんの扱いが恐ろしく荒くて親たちはハラハラ。いや、兄弟って違うもんだな、と改めて認識。ま、10分もすると二人そろって「どろんこ遊びしたい」と公園にむかうマイペースな長男次男で、ちょっと拍子抜けするやらホッとするやらでしたが。

 そんな感じで5人家族(!)の生活が始まったのです。『こんにちは赤ちゃん』!

 ちなみに今回はドリカムと B'z と Superfly とサザンオールスターズと梓みちよさんのお力添えをいただきお届けしました。微妙に選曲が古い? いやだから昭和生まれなんだってば!

西 靖

西 靖
(にし・やすし)

1971年岡山県生まれ。毎日放送(MBS)アナウンサー。大阪大学法学部卒業後、1994年にMBS入社。『ちちんぷいぷい』(2011年~2021年)、報道番組『VOICE』(2014年~2019年)、『ミント!』(2019~2021年)といった人気番組の司会やキャスターを務める。現在はMBSアナウンスセンター長。相愛大学客員教授。2021年6月から9月までおよそ4ヵ月間の育児休業を取得。著書に『西靖の60日間世界一周旅の軌跡』(ぴあ)、『辺境ラジオ』(内田樹・名越康文との共著、140B)、『地球を一周! せかいのこども』(朝日新聞出版)、『聞き手・西靖、 道なき道をおもしろく。』(140B)。

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