35歳大学院生

第4回

祖父母の田んぼの食育

2023.12.14更新

 こんにちは。市川いずみです。あっという間に2023年も終わろうとしていますね。みなさんにとって今年はどんな一年だったでしょうか? 私は、阪神タイガースがA.R.Eを達成したり、自分にとっても大きな転換期となったり、忘れがたい一年でした。
 さて、前回は、私の "ド真面目" ゆえに起こった問題だらけの事件をご紹介しました。友人から「想像がつく」「あんたらしい」というコメントをいただき、今もド真面目ゆえの問題を起こしているのだろうなと再確認しました。今回は私のふるさとについてご紹介します。一日24時間のうち、ほとんどを "食" について考えているほど、食べることが大好き。それは自然と用意された最高の食育環境にあります。

 生まれも育ちも京都市内。小学校はひと学年5クラスあり、全校児童は1000人を超える大規模学校でした。住宅が多く、親が農家というクラスメイトもほとんどいません。そんな環境で暮らした私が食に興味を持ったのは、父の影響でした。
 父の実家、私の祖父母の家は、兵庫県の北部に位置する豊岡市にあります。城崎温泉が一番メジャーな観光地だと思います。市町村合併で豊岡市も広くなりましたが、うちの田舎は旧豊岡市内。私が高校生になるころまでは汲み取り式のぼっとん便所で、もちろん携帯電話の電波もつながりませんでした。集落を下っていくと、一面には田んぼが広がり、現在でもその中をコウノトリが優雅に飛んでいる自然豊かな地域です。祖父母はそこで農業を営んでいて、メインは田んぼ。広大な田んぼでいくつもの種類のお米を作り、畑では旬の野菜を作り、山では梨などの果物も作っていました。私は日々の生活こそ豊岡では過ごしてはいませんでしたが、連休があると必ず田舎に帰り、食べ物を作る過程を目の当たりにしてきたわけです。夏休みのお昼ご飯に祖母がそうめんを湯がいてくれると「ネギとってきて!」と、裏の畑に穫りにいきました。
 ゴールデンウィークは、孫たちも大事な仕事があります。植え終わった苗の箱、苗箱を洗う作業です。小学校でも田植え体験はありましたが、それは育苗された苗を手で植えていくだけ。しかし、田舎に帰ると苗代作りからすべてを目にできるのです。祖父や父が田植えして空いた苗箱をいとこたちと並んで家の裏で洗う。そして、しっかりお小遣いをもらう!(笑)。それを握りしめておやつを買いに行く! これが、幼少期からのゴールデンウィークの過ごし方でした。白いタンクトップに半ズボン、芦屋雁之助さんが演じた画家・山下清さんをモデルにした裸の大将放浪記にあこがれ、畦畔に座って笹に包んだおにぎりを食べたのはいい思い出です。稲刈りの時期にはコンバインに乗せてもらい、「チクチクして痒い」と一往復でコンバインから降りたこともあります。大学生になって自動車運転免許を取得してからは、祖父監視のもと、トラクターで耕起作業をしたことも。爪の深さやスピードがとても重要で、「速いんだがな」とか「爪が浅いで」とか、いろいろ言われた記憶がありますが、おいしいお米を作るための大切な作業を経験させてもらえたことは今の年齢になってすごくよかったと思えます。
 豊岡市は雪深い街としても知られていて、毎年10月ごろになると家の中でも吐息が白くなります。そのころに祖母と畑に行き、里芋を掘り起こして、凍える指先を温めながら土を落とした作業は本当に親指が疲れました。「小さな里芋なのに、収穫するのってこんなにも大変なんだなぁ」。畑に腰掛けながらそんな感想を持ったものです。食卓に並ぶ料理の食材は祖父母や父が手塩にかけて育ててくれたもの。幼少期はそのような意識を持っていただいていた記憶はあまりありませんが、年を重ねるごとに食物の大切さを感じています。今では父がメインとなり米作りをしていて、私はスーパーでお米を買うことなく送ってくれたものをいただいています。お茶碗や炊飯器に米粒1つでもくっついていると、ふと農作業をしている父の姿が頭をよぎり、残せないなと思うわけです。
 これは、父が作ったものだけでに限らず、外食する際も同じです。少しお腹が膨れてきても、その食材を作った方や調理をした方のことを考えると、「残せないな」と思い、平らげます。以前、ビュッフェに行った際に、お皿に半分以上残して「お腹いっぱい」と言っている友人をみて、とても気分が悪くなりました(これもド真面目ゆえなのかも(笑))。ビュッフェなんて、自分で好きな量をとれるわけですし、食べられる分だけとって、足りなければまたとりに行けばいいだけの話。ずらりと並ぶおいしそうなお料理に「あれもこれも」という気持ちになるのはもちろんわかるのですが、自分で取ったなら責任をもって食べないと申し訳ないと私は思ってしまうのです。と、やや愚痴っぽくなってしまいましたが、お米や野菜ができる過程を知っているからこそ、食への想いは強いのだと思います。
 出張が決まると、まず調べるのはそこのご当地の食べ物。おいしそうなお店を検索し、いつそれを食べに行くのか、食のスケジュールを組みます。現地で時間がある際に必ず寄るのはローカルスーパー。自分の居住地のスーパーでは売っていないような野菜や、ブランド肉などがあるとテンションは爆上がりです。
 食のスケジュールは普段も組んでいます。朝食を食べているときにはすでに「昼食や夕食は何にしよう?」。夕食の準備をしている段階で「翌朝は何にしようかな」。頭の中は食のことでいっぱいです。これだけ食べることばかり考えている人間なので、終日ロケのお仕事の際に、昼食のことを考えていないディレクターさんが担当だと、仕事のモチベーションも下がってしまいます(笑)。腹が減っては、戦はできぬ。逆に楽屋のお弁当が豪華だと、それだけでモチベーションは増幅。餌を与えておけば働くという単純な人間です(笑)。ちなみに、好きな楽屋弁当は "魚屋さんのお弁当 金兵衛" さんのお弁当です。
 このように、食への関心が高じて、アスリートフードマイスターや栄養コンシェルジュの資格もとりました。仕事で家を空けない限りは三食自炊。料理も大好きで、むしろ無心になれる時間なので、ストレス発散になっているくらいです。一日中キッチンに立っていても苦になりません。料理は面倒くさい、そもそも食べるのも面倒くさいという方もいらっしゃると思います。でも、"食" って "人" を "良" くするって書きません? 私はこの考え方がすごく好き。いつか "ひとよし" という名前のお店でも開こうかなぁ~(笑)。
 食への想いはまだまだあるのですが、今回はこの辺で。次回は大食いすぎる中学生時代についてご紹介します。

市川 いずみ

市川 いずみ
(いちかわ・いずみ)

京都府出身。職業は、アナウンサー/ライター/ピラティストレーナー/研究者/広報(どれも本業)。2010年に山口朝日放送に入社し、アナウンサーとして5年間、野球実況やJリーグ取材などを務めた後、フリーアナウンサーに転身。現在は株式会社オフィスキイワード所属。ピラティストレーナーとして、プロ野球選手や大学・高校野球部の指導も行う。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了(スポーツ医学専攻)。スポーツ紙やウェブにて野球コラムを執筆中。アスリートのセカンドキャリア支援事業で広報も担い、多方面からアスリートをサポートしている。阪神タイガースをこよなく愛す。

Twitter:@ichy_izumiru

Instagram:@izumichikawa

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • 『中学生から知りたいパレスチナのこと』を発刊します

    『中学生から知りたいパレスチナのこと』を発刊します

    ミシマガ編集部

    発刊に際し、岡真理さんによる「はじめに」を全文公開いたします。この本が、中学生から大人まであらゆる方にとって、パレスチナ問題の根源にある植民地主義とレイシズムが私たちの日常のなかで続いていることをもういちど知り、歴史に出会い直すきっかけとなりましたら幸いです。

  • 仲野徹×若林理砂 

    仲野徹×若林理砂 "ほどほどの健康"でご機嫌に暮らそう

    ミシマガ編集部

    5月刊『謎の症状――心身の不思議を東洋医学からみると?』著者の若林理砂先生と、3月刊『仲野教授の この座右の銘が効きまっせ!』著者の仲野徹先生。それぞれ医学のプロフェッショナルでありながら、アプローチをまったく異にするお二人による爆笑の対談を、復活記事としてお届けします!

  • 戦争のさなかに踊ること─ヘミングウェイ『蝶々と戦車』

    戦争のさなかに踊ること─ヘミングウェイ『蝶々と戦車』

    下西風澄

     海の向こうで戦争が起きている。  インターネットはドローンの爆撃を手のひらに映し、避難する難民たちを羊の群れのように俯瞰する。

  • この世がでっかい競馬場すぎる

    この世がでっかい競馬場すぎる

    佐藤ゆき乃

     この世がでっかい競馬場すぎる。もう本当に早くここから出たい。  脳のキャパシティが小さい、寝つきが悪い、友だちも少ない、貧乏、口下手、花粉症、知覚過敏、さらには性格が暗いなどの理由で、自分の場合はけっこう頻繁に…

ページトップへ