本屋さんはじめました

第9回

COYAMA(川崎)

2021.12.04更新

 今回紹介するのは、神奈川県川崎市のCOYAMAさん。
 カフェと本屋、そしてギャラリーを併設した綺麗なお店が、住宅街の中で静かにお客さんを待っています。

1204_1.jpg


 しかしCOYAMAさん、2019年のオープンから苦難の連続でした。
 開業から半年たたないうちに台風で床上浸水。3ヶ月かけて修理しやっと営業再開したら、コロナ禍で緊急事態宣言に。

 逆境の中で走り続けてきた若きオーナー、奥真理子(おく・まりこ)さんの思いを聞いてきました。
 聞き手は、COYAMAさんの近所に住んで通っている営業モリこと岡田森です。

書店もカフェもギャラリーも未経験からのスタート

――改めて、お店を始めたきっかけを教えてください。

奥 もともと、デザイン事務所に勤めていたんです。でも、組織で仕事をするのが性に合わず、「自分で仕切れる店をやりたい」という気持ちがムクムクと出てきて、「店をやるので辞めます!」と言って数年で退職したんです。
 お店のことを考える中で、祖父母が経営する印刷所だったこの建物をリノベーションすれば使えるのでは、と考えてここで開業しました。
 今はフリーのデザイナーとして働きつつ、週に3日お店を開けています。

1204_2.jpeg本に囲まれてコーヒーが飲める店内

1204_6.jpeg

店内各地に印刷所の名残が

――なぜ「書店+カフェ+ギャラリー」という業態を選んだのですか?

奥 自分がデザイン事務所に勤めていたときの休日に、美術館を巡って図録とか買って、カフェで読むというのが至福のルーチンだったんです。それの小さい版を自分でやりたいなと。
 デザイン事務所の仕事で空間デザインはできたので、「まぁ、カタチは出来るな」と思ったんです。

――ということは、書店もカフェもギャラリーも、まったくの未経験だったんですか!?

奥 はい。カフェの経験を積もうとバイトしたことがあったんですが、そこがひどい店で(笑)
 すぐに辞めて、もうバイトはしない! と思ってあとは本を読んで勉強しました。
 そんなわけで、お店のカタチを作れる見通しはあったんですが、中身がスカスカだったんです。

――その状態からどうやってお店を・・・?

奥 自分にできないものはすっぱり諦めて、プロの力を借りています。おいしいパンは焼けないから、みのや(地元のパン屋さん)のパンを使ったり、焙煎はとても手が出せるものじゃないから、SHIBACOFFEE(地元のロースターさん)の豆を使ったり。本については、書店経験のある友達がいて、選書を手伝ってもらったり。ギャラリーも自分から声をかけるのではなく、やりたい!と手を挙げてくれた人に育ててもらった感じです。

――そこは普段、ミシマ社が取引しているような書店とは違っておもしろいです。チェーンの書店に勤めていた人が、自分の好きなように本を並べたくて独立した、というのが一つの王道パターンなんですが、奥さんの場合は「こういう店がほしい!」という思いが先にあって、そこに人が集まってきた流れなんですね。
 全部自分がやりたい! みたいな気持ちはないんですよね?

奥 全然ないですね。
 仕切りたがりなんです。幹事とか好きです。独立はしましたけど、1人でお店をやりたいわけではなくて、仕切りたいんだと思います(笑)

――そうやって1人で燃え上がっているうちに、必要な人が現れたんですね。

奥 そうですね。前職のころからお店のことを考えていたので、時間をかけてお店のカタチを構想して、それを実現する方法を探していました。
 お店の内装も、ほとんどは知り合いか、知り合いの知り合いくらいでできる人を見つけてやってもらっています。
 どうしよっかな~と思って困っていたら、必要な人が、なんかいて。で、よっしゃー! と思って頼る、ということをいまも繰り返しています。

1204_3_3.JPG

オーナー・奥真理子さん

店をやめるという選択肢がなかった

――やっとの思いで開業してから半年で、台風による床上浸水に見舞われましたね。

奥 はい。被災したときはあまりわかってなくて、何日か掃除して再開しようかな、くらいの気持ちでいたんですが、実際には3ヶ月かかりましたね。

――そして再開してすぐ、新型コロナウィルスの感染拡大による緊急事態宣言で、またもやお店を閉めざるをえない状況になりました。
 この逆境の中で、なぜお店を続けて来られたのでしょうか?

奥 うーん、そもそも、自分の中にお店をやめるという選択肢がまったくなかったんですよね。
 常に続ける前提で考えていました。床上浸水したときも、床張り替えか~、あ、ちょうど断熱材入れたかったんだよね。ついでに入れよう! と思ったり。

――すごいプラス思考ですね。

奥 あとは、ギャラリーで展示があったのも大きかったですね。作家さんに申し訳ないと思って、閉めていた期間に予定していた展示の日程をずらしていったらかなり先まで予定が埋まって。これはもう再開するしかない、と。
 床上浸水を乗り越えたあと、緊急事態宣言中はある意味で気が楽でした。もう修理する必要はないので、ただ店を閉めているだけで、もちろん、これは資金的には賃貸ではないので家賃が発生しないというのも大きいんですが。

 あとは、緊急事態宣言中も、お店を開けない代わりにオンラインで古本市をやったり、お店を開けるタイミングでは地域の人がたくさん来てくださって忙しかったりと、活動は充実していました。

1204_4.JPG

店内にはミシマ社本も

「わーい、私の店で楽しんでくれてるぞー」

――最近はスタッフの方も増えていますね。

奥 そうですね。最初は何も募集していないのに、フリーのライターの子が突然来て「働きたい!」と言ってくれたんです。
 私、文章書くの苦手なので、よっしゃ、任せた! と思って、展示のときの記事とか書いてもらっています。

――募集してないのに熱い人が来たんですね。

 そうなんです。じつは最近、はじめての採用募集もしました。
 「平日はデザイナー仕事、土日はCOYAMAでの仕事」という生活を2年ほどして、「これはしんどいな」とやっと気づいて・・・。で、SNSで募集したら、5人くらい申し込んでくれたので、みんな採ったんです。

――みんな採った!?

奥 はい(笑) 1人は一度お客さんとして来てくれただけで、面接すらしませんでした。
 でも、そうしたらみんな、なんというか、魂が熱い人たちで、すごくやりやすいんです。
 やっぱり、何かをしたい! と思っている人があちこちにいて、店を開いていると、そういうバイタリティがある人が来てくれるんだと思います。

――店を構えると不思議な出会いがある、というのは、書店員さんからも聞く話ではあります。やはり、お客さんと接する中で新しいことが起こるんでしょうね。

奥 でも、じつは私、接客が苦手で・・・。

――接客が苦手なのに店を始めたんですか!?

奥 そうなんですよ・・・。接客したいわけじゃないんです。
 他の子に接客してもらって、自分は店の奥から眺めているのが理想なんです。「わーい、私の店で楽しんでくれてるぞー」みたいな。で、知ってるお客さんが来たときだけ出ていく感じで・・・。

――人見知りの猫みたいな・・・。

奥 最初は自分でやるしかなかったんですが、最近は任せるって大事だなと思って、他の人に任せてます。
 その辺りは得意な人に頼って、自分は新メニューの設計とか、選書とかに力を入れていきたいなーと思っています。
 開店から2年たって、そういうことができる体制ができつつあります。
 前職のデザイン事務所では家電量販店のPOPを作ったりしていたんですが、最近ようやく、自分のお店用のPOPを作り始めたんです。

1204_7.jpeg

カウンターに並ぶPOPたち

 自作POPをカウンターにつけたら、活字中毒の人はやっぱりコーヒー飲みながら読んでしまうみたいで、いままで動かなかった本が急に売れたりして、嬉しいです。

――最初は本当にカタチしかなかったお店が、どんどん充実していっているんですね。これからどんなお店になっていくか、楽しみです!

ミシマ社のヒミツ展inCOYAMA 開催します!

 本日12/4(土)から、COYAMAさんのギャラリーでミシマ社のヒミツ展inCOYAMAを開催します!

 昨年メリーゴーランド京都店で開催され大好評だった「ミシマ社のヒミツ展」の一部巡回に加えて、「コーヒーと一冊」とCOYAMAさんのコーヒー豆のコラボコーナー、絵本コーナー、"ミシマ社クリスマスツリー"など大充実でお届けします!

 さらに、カフェコーナーではコラボメニューも!

 COYAMAさんの「書店」「カフェ」「ギャラリー」とミシマ社の全面的コラボ、ぜひ遊びにきてください!

<お店情報>
COYAMA

〒211ー0002
神奈川県川崎市中原区上丸子山王町2ー1314
・向河原駅 徒歩3分
・武蔵小杉駅・新丸子駅 徒歩10分

オープン日:土、日、水 12:00~18:00
*水曜はドリンクの一部のみ提供、飲食お持ち込み可、お席代1H¥300頂戴しています
*祝日の営業しておりません

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • 『小さき者たちの』いよいよ発刊!!

    『小さき者たちの』いよいよ発刊!!

    ミシマガ編集部

    2017年刊の『うしろめたさの人類学』と2021年刊の『くらしのアナキズム』では、エチオピアでの長年のフィールドワークをもとに、私たちが前提としている考え方の枠組みを外して、日常の暮らしを通して社会を変えていく可能性について綴られた、松村圭一郎さん。『小さき者たちの』では、初めて、生まれ育った故郷である熊本をテーマに執筆されました。「はじめに」で、松村さんは本書での試みの意図を、下記のように綴られています。

  • 一冊の本ができるまで~新人全力レポート(1)

    一冊の本ができるまで~新人全力レポート(1)

    ミシマガ編集部

     こんにちは。ミシマ社新人のオオボリです。本日よりなんと月一連載を務めさせていただくことになりました! その名も「一冊の本ができるまで~新人全力レポート」。つたないながらも新人による全力レポート、楽しんでいただけたら嬉しいです! どうぞよろしくお願いします!

  • 『幸せに長生きするための今週のメニュー』刊行記念  ロビン・ロイドさん、中川学さんインタビュー

    『幸せに長生きするための今週のメニュー』刊行記念  ロビン・ロイドさん、中川学さんインタビュー

    ミシマガ編集部

    先日ちいさいミシマ社から発刊した『幸せに長生きするための今週のメニュー』。アメリカ出身の民族楽器奏者、詩人のロビン・ロイドさんと、京都のお寺の住職兼イラストレーターの中川学さんによる日英併記の詩画集です。  自然の移りかわりや、日常のささやかなよろこびを丁寧にすくい上げるロビンさんの詩と、中川さんの温かく想像力がかきたてられる鉛筆画がやさしく心に届き、折に触れて読み返したくなる一冊です。

  • 魚屋の息子

    魚屋の息子

    前田エマ

     家の近所に、同級生の家族が営んでいる魚屋がある。たまに買いに行くと、心地よい明るさのお母さんが「美容室で読んだ雑誌に、エマちゃん載ってたよ〜」と声をかけてくれる。バレーボールとかハンドボールの選手だったのかな、と思うような、快活でショートカットが似合う素敵な女性だ。私は「ありがとうございます。うれしい〜」と言って、刺身の盛り合わせをお願いしたり、南蛮漬けにするアジを捌いてもらったりして、あたたかい気持ちで家に帰る。住宅街に文字通りポツンと現れる個人商店で、駅からも遠いのに週末には長蛇の列ができる。この店の次男と私は、小中学校が同じだった。

この記事のバックナンバー

01月22日
第18回 Punto 本と珈琲(千葉・千葉市稲毛区) ミシマガ編集部
12月18日
第17回 OLD FACTORY BOOKS(和歌山・海南市) ミシマガ編集部
12月04日
第16回 百年の二度寝(東京・江古田) ミシマガ編集部
11月25日
第15回 自分の物語を生きるには「言葉」が必要だ ――BOOKSライデン(長崎) ミシマガ編集部
09月22日
第14回 Jeans Shop LOKKI(北海道・小樽市) ミシマガ編集部
08月16日
第13回 ハタハタショボウ(吉祥寺/西荻窪/糸島) ミシマガ編集部
04月03日
第12回 本屋ともひさし(京都市烏丸六条) ミシマガ編集部
03月13日
第11回 子どもの本屋ぽてと(大阪) ミシマガ編集部
02月08日
第10回 本と羊(福岡・六本松) ミシマガ編集部
12月04日
第9回 COYAMA(川崎) ミシマガ編集部
11月16日
第8回 句読点(出雲) ミシマガ編集部
10月14日
第7回 Finefine(岡山・総社) ミシマガ編集部
08月26日
第6回 考えるパンKOPPE(氷見) ミシマガ編集部
02月20日
第5回 「本」のお店スタントン ミシマガ編集部
03月16日
第4回 高久書店(静岡) ミシマガ編集部
12月09日
第3回 わおん書房(福井) ミシマガ編集部
09月16日
第2回 toi books(大阪) ミシマガ編集部
06月22日
第1回 本屋と活版印刷所(天草) ミシマガ編集部
ページトップへ