本屋さんはじめました

第19回

本屋 象の旅(横浜)

2023.06.14更新

 こんにちは。横浜の下町、横浜橋通商店街のすぐ脇で、「本屋 象の旅」を営んでおります。2022年11月にオープンしましたので、これを書いている時点で7ヶ月ほどが経ちました。まだまだはじまったばかりのお店ですし、そもそも本屋という厳しい商売で、この先いったいどうなるのやらという気持ちを持ちあわせてはおりますが、すこしだけお店の紹介をさせていただきたいと思います。

 「なんでここに本屋をひらいたのですか?」と、いまだによく聞かれます。住んでいるところからわりと近く、なんとか家賃が払えるかなと思えた物件が、たまたまここにあったから、という身もふたもない理由しかないのですが、この場所で本屋をひらくことは、かなりもの珍しいこととして受け止められているようです。

 もとは魚屋さんが使っていたこの物件。どうりで開放的で、本屋としては棚の置きかたに迷いましたが、北向きの大きな窓で、お店の中がよく見えるようにつくってもらいました。小さなお店に入ることの抵抗感をすこしでも減らしたいとの思いと、たとえお店には入らなくとも、窓に向けられた本の表紙を見ることで、本に触れる機会をすこしでも増やしたいとの思いからです。おかげさまで、お店にもたくさんの方にお入りいただいておりますが、窓をのぞいてそのまま行かれる方は、それ以上にいらっしゃいます。

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 窓に並べる本は、目をひく絵本や写真集、料理本などが中心となりますが、店内にはさまざまなジャンルの本を並べております。「食」や「旅」、「暮らし」に関するエッセイから、日本や海外の文芸作品、また、「動物」や「自然」をテーマにした本や、「ジェンダー」「差別」といった社会問題を論じる本、「哲学」「歴史」「政治・経済」にいたるまで、見ただけで楽しめる本や好奇心をくすぐる本、読むひとが増えたらいいなと思える本を中心に取り揃えております。

 フィクションやノンフィクション、歴史や文化といったジャンルにかかわらず、なんとなく関連付けできるような、ゆるいつながりがあるのかなと思えるような、そんな並びの棚になっているかと思います。小さなお店ですので、ゆっくりと背表紙を楽しみながら、お目当ての本をみつけていただければありがたいです。

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 規模のわりには、海外の文芸作品が多めかもしれません。好みもありますが、世界の広さを本で感じてほしいとの思いもあります。行ったことのない国の作品を読むたびに、こんな世界があるのかとおどろき、多様な考えを知り、みずからの視野の狭さを痛感します。翻訳、出版をされる方々のおかげで、今では日本語でさまざまな言語で書かれた作品を楽しむことができます。いながらにして楽しめるという意味では、今がいちばん幸せといえるでしょう。

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 お店の名前『象の旅』も、ポルトガルの作家、ジョゼ・サラマーゴの作品から拝借しました。由来はお店のウェブサイトにも記載しましたが、この作品が好きというだけではなく、この時代に小さな本屋をひらくという自身の心持ちと、作品を読み終えたときの感情が共鳴したのでしょう。店名をきっかけに『象の旅』という作品を知り、手にとっていただく方も多くいらっしゃいます。この作品にかぎったことではありませんが、何かをきっかけに本に触れていただくことは、本屋としてとても嬉しいことです。

 お店としてはようやくスタートしたばかりですが、それこそ毎週のように足を運んでいただいたり、わざわざ遠くからお越しくださったり、急ぎではないからと時間のかかるお取り寄せをお願いしていただいたりと、ご来店されるお客さまに感謝しながら、日々を過ごしております。読まれた本のご感想や最近気になっていること、ご家族やご自身のことなど、お客さまのお話を聞く機会も多く、以前よりもまちに暮らす方々との距離が近くなったことを実感しています。

 お客さまと直接触れあえる「場」としての本屋は、何事にも代えがたい「力」を有しているように思えますし、ここから何かが生まれそうだな、という予感のようなものも感じはじめております。お店をひらいたことで、本を好きなひとがあつまり、本を介したコミュニティがつくられ、それぞれが触発されることで、何かがすこしずつ動きはじめる。まだ耕されただけで種もまかれてはおりませんが、いつの日か芽がでるだろうと確信しながら、お店のカウンターに立っております。

 とはいえ、「本」や「本屋」を取り巻く環境も、経済をはじめとする世の中そのものの情勢も、厳しいのが現実です。安定という文字とは縁のない、まちの小さな本屋ですから、来てくださるだけでありがたいとは思いつつ、来てくださるだけでは続かないのもまた事実です。

 消費社会に消費されないで生きていくためにはどうすればいいのか、小さなまちの本屋にいったい何ができるのか、はたして本屋はこれからも必要とされるのか。窓から本を眺めることもなく、お店の外観を撮影して立ち去って行かれる方を今日も窓から眺めつつ、ぼんやりと考えつづけています。

 住んでみたいまちで必ず上位にランクインする横浜市。華やかな海沿いの観光地をイメージされての結果だと思いますが、海を背に、すこし内陸へ足を延ばすだけでも、そのディープさを感じることができるでしょう。横浜へお越しの際は、ぜひ深さも体感してください。散策のついでにお店にもお立ち寄りいただければありがたいです。本とともにお待ちしております。

本屋 象の旅
〒232-0024
神奈川県横浜市南区浦舟町1-1-39
(横浜市営地下鉄ブルーライン「阪東橋」駅から徒歩5分)
営業時間:10:30~19:00
定休日:毎週火曜日と第3水曜日
HP:https://zounotabi.com/
Twitter:https://twitter.com/zounotabi
Instagram:https://www.instagram.com/zounotabi/

ミシマガ編集部
(みしまがへんしゅうぶ)

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