第16回
百年の二度寝(東京・江古田)
2022.12.04更新
東京都練馬区の「百年の二度寝」です。変わった名前ですが、書店員経験のある私と、突然段ボールというバンドでドラムを叩いているパートナーの2人で運営している本屋です。昨年の3月にオープンしましたので、開店から約1年半になります。
私は大学卒業後、非正規雇用で書店に勤め始めて、それから7年ほど大型店で勤務していました。本屋の仕事は本当に大好きで、薄給ながら天職に出会えたと思っていたのですが、うつ病を発症してしまい無念のドロップアウト。その後、右往左往しているうちに、なぜか自分の店が出来ていました。
二度寝の特徴のひとつが、極めて特殊な立地です。オイルライフというおしゃれな雑貨屋さんの奥に位置しているため、店にたどり着くにはその雑貨屋さんを突っ切る必要があります。
まさかお店の奥にもうひとつのお店、しかも書店があるとは思いもよらないらしく、初めてのお客様にはだいぶビックリされます。
オイルライフ店主さんのご厚意で店の奥に間借りしているので、こういった立地になっているのですが、「隠れ家」的なよさを生かしつつ、特に地域の方に認知していただくにはどうするか、ひたすら模索の日々です。
品揃えに関しては、お客様のニーズを考えつつ、随所で思いっきり趣味に走るようにしています。なので、プロレス、ペーパークラフト、昭和レトロ、喫茶店の本などが妙に充実しています。
もともと大型店の書店員でしたので、自分たちのテイストを前面に出すことに若干のためらいがあったのですが、やはり自分が好きで選んで熱のあるご紹介ができる本の方が、売れ行きもよい傾向があります。
新刊書籍、古本、ともに扱っていますが、私は新刊書店員として経験を積んだ人間ですし、骨格はあくまでも新刊書籍で、古本は肉付け、くらいのバランスで考えています。最初は肉の方が多いメタボ体型でしたが、古本を扱うには新刊とは全く異なる経験知が必要だと思い知る日々を経て、いまは新刊6対古本4くらいになっています。
もっとも、古本がゼロになることもなさそうです。新刊書籍に古本を組み合わせると、新刊だけではなかなか出せない「幅」が出せますし、仕入れ代も圧倒的に低く抑えられます。それに、お金がない学生さんにも安く本を売りたいからです。
もうひとつ欠かせない存在が、個人や小規模のグループが刊行するリトルプレス。うちの店ならではの品揃えを模索する上で、有効な武器になってくれています。
おかげさまで、売り込みのご連絡などもよくいただくのですが、置く場所が限られているのもあって、選定基準はかなりシビアです。いただいた売り込みの半分以上は泣く泣くお断りしています。
その一方で、自分が素晴らしいと感じたり、うちの店の雰囲気によく合うと思ったものに関しては、こちらから置かせてもらうようアプローチもします。座して売り込みを待っているだけだと、売り込みに熱心で(それはもちろん素晴らしい事なのですが)他の書店さんにも在庫しているリトルプレスしか置けず、結果的に品揃えの差別化が難しくなると考えているからです。
人見知り気味なので作家さんにこっちからアプローチするのはしんどいし、他の書店さんで売れてるものを手堅く売っていく方が商売としては正解かもしれないのですが、現状はそういった方針です。
ちなみにリトルプレスの中で最も売り上げた品は、私が自分で出したコピー本だったりします。確かに他の店では売ってない・・・。
手前が雑貨屋さんなのもあって、雑貨にも力を入れています。仕入れに制約があってメーカーものは置くことが出来ないので、ほぼすべてが作家さんと直接取引を行って仕入れた一点物です。元々知り合いだった作家さんもいらっしゃいますが、Instagramで素敵な作品を発表している方に直接声をかけて、一本釣りしたりもします。
年に2回、雑貨のイベント(5月が紙モノ雑貨、11月がブローチの特集)もやっています。その期間中だけ、二度寝はにわかに繁盛店になります。何年も閉店セールを続けている店みたいに、永久に雑貨イベントをしていたいくらいです。
雑貨の品揃えにも私なりのこだわりはありますが、こちらに関しても私は所詮素人なので、整然としてスマートな売り方は出来ません。カオスなのを売りにしようと開き直っております。
なぜかこけしがいるし、親戚から託された中国の土人形がズラっと並んでいますし、6歳の女の子の絵を「当店最年少作家さんの肉筆画」と称して100円で売ってます。私は悪い大人ではないので、最年少作家さんとはちゃんと委託契約を結んで、売上のうち一定の割合を支払ってますよ。念のため。
こうやってこの店の成り立ちを捉え直してみると、本当に好き勝手にやっちゃってるなあ、としみじみと思います。そして、その「好き勝手」を経済的な利益につなげることが、残念ながらなかなかうまく出来ずにいます。
ただ好き勝手にやっているだけでは、おままごとにしかならない。出版社さんや個人で表現活動を頑張っている作家さんたちの作品を預かり、うちの店を好いて来てくれる方がいる以上、私たちには最低限であっても経済的な利益を出し、お店を継続させる義務があると考えています。
その一方で、うっかり本屋になってしまった人間や、ただただ本屋がしたいだけの人間が、本屋としてちゃんとご飯を食べていける社会を何とか作っていけないかな、と夢想してもいます。
そして、そういう社会を作るうえで、「本」が果たす役割って、かなり大きいんじゃないかな、と。
まだまだ店も私たちもひよっこです。これから店の方針も品ぞろえの傾向も変わっていくと思います。それでも、一人のお客様に一冊ずつ本を手渡してゆくのが私たちの本分であることは変わりません。
東京の片隅の江古田のさらに片隅で、みなさんをお待ちしています。