暮らしと浄土

第14回

ウキンボ(2)

2022.11.15更新

内田健太郎さんによる連載「暮らしと浄土」。本日掲載するのは聞き書き「ウキンボ」の後編です。内田さんが、薬草に詳しい85歳の山本さんに「赤本」について、島の民間医療について、尋ねます。ぜひ前編からぜひお読みください。

 それはそうとハブ草よね。あんた草ん中でもいいから、ハブ草の種を蒔いときんさい。したらできるんじゃけえ。

――ハブ草って、豆茶のことですよね?

 そうそう豆茶。いっぱいできるよ。お宅は除草剤やらんのんじゃけえ、どっか畑のギシ(石垣の近く)の方とか、邪魔んならんとこへでも植えちょったらええよ。
 豆茶なんかはね、草の間へでも撒いちょったら、次の年に芽が出る。
豆茶の葉っぱね。ハチに刺されたとか、そうしたときに、あの豆茶の葉っぱを、青いのをすりつぶして、それをつけたらええ。
 うちの主人がハチに刺されたんですよ、みんなでみかんの摘果しよった時に。ギシの方が草が伸びて入られん。じゃけえ主人が草を刈ってくれよったんですよ。したら、上の方に巣があったんでしょう。スズメバチの。そのすぐ下を刈よるもんじゃけえ、刺された。
 それで、やれ痛いのなんの言うて帰って、病院連れて行ってもろうたんじゃ。あれ昼前に刺されたんやけどね。病院から帰っても痛い痛い言いよって。
 私は蜂に刺されても病院行きゃあせんが、主人は病院まで行ったんじゃけえ、世話ない、治るよ。そう思うて、知らん顔して寝ちょったんよ(笑)。
 したら夜中の2時ぐらいまでね、うんころ、うんころ言いよるんよ。
 やかましいのお。こりゃあどうでも痛いんじゃのう思うて。
 じゃけえ赤本よね。今読むとどこに書いてあるんか分からんのじゃけど、あんときは一瞬で見つけたんよね。ハブ草がええと書いてある。今度は、私、長靴履いてから、あっこの畑に豆茶の葉っぱがある。あっこ取りに行こうやあ言うて、2人が長靴履いて取りに行って。夜じゃけえ恐ろしいね。2時ごろ。それで持って帰って、すり鉢ですりつぶして、それを(主人に)つけちゃったらね、2分も経ちゃあせん。すぐ治った。何にも言わなくなって、そのまま静かになった。
 やっぱり薬草って、効けばすごいもんよね。・・・虫が多い時期にやっぱり豆茶もできる。やっぱ自然って、ええ具合にできてるもんじゃと思うんですよ。

――本当ですね。上手くできてるんですねえ。

 この本はなかなかね、私らみたいに、すぐやってみようとかって言うんなら、そりゃ世話ないんじゃがね。
 だけど、子供はなかなかそうはいかん。うちの息子の嫁が薬局におるんじゃがね。今頃こないなこと言うてもね全然聞かんけえね。じゃけえ教えちゃらんのんよ。言わんのんよ(笑)。
 騙されたと思ってやってくれるとすぐ話すんじゃがね。なかなかそうもいかんけえ。

――いやでも、ものすごい知恵だと思いますけどね。今はそれこそ本当になくなってしまったのかもしれないですけど。

 そうそう、昔にね、お正月31日になったらみんなで三社参り行きよったんですよ、九州の方とかね。そういうときに30日にお餅つきよるときに、子供が寒い寒いって言いよったんですよ。風邪ひいてから困ったもんじゃって言いながら、クド(釜戸)の前に座らせちょった。子供が熱があるんじゃけえ、風呂へでも入れんでもええのに、明日は正月じゃあ思うて風呂入れた。したら震え出して。熱がひどかったんじゃろ。で翌る日に、正月じゃけえ行こうか行くまいか思うたんじゃけど、病院連れて行ったんよ。熱がひどいし。したら先生が、ジフテリアになりよる! って言うちゃったんですよ。私は正月じゃけえ、よう連れてこんだったとか言うたら、怒り怒られた。それで帰ってからすぐに赤本を読んだ。したらニンニク。ニンニク擦ったんを飲ませたらええ。そう書いてある。昔はうちはニンニクやなんか食べんかったけえ。みんなに聞いたんじゃろうと思う。必死になってニンニクを手に入れて、それで擦って飲ませたんですよ。子供がニンニクを嫌じゃ嫌じゃ言うて泣くんよね。
 私は「死んでしまうー!」言うて怒って飲ました(笑)。ニンニク擦って飲ませたら、どないにか(喉が)痛かったじゃろう思うたけど私も必死じゃったけえ、飲ませた。したら、一発で治った。

――・・・治った?

 そうよ、その日の晩には熱が下がった。そんで病院行かんかった。行かんでもええほどになった。もうピリピリ震えおったんが嘘のように。
 効くときは効くんよね。そういう時にこの本が役に立つんよね。じゃけえあんまり使うことがあっちゃあいけんけど、じゃけど、騙されたと思うて人に知らしてあげるんも、ええかも分からん。
 ・・・今頃、砂糖水も使う人は居らんねえ。

――砂糖水?

 打っても砂糖水がいい、それから喉が痛うなっても砂糖水がええ。口内炎でも砂糖水。
虫に刺されても砂糖水がええ。
 ・・・いつじゃったか、豆かを干しちょったら夜中に、曇って雨が降りそうじゃった。
 ああこりゃあ大変じゃあ、中に入れにゃあ思うて、眠たい目で歩きよったら、あそこの溝に足を突っ込んで、ばったー! って転んだんですよ。ああ動かれん言うてから。死ぬっつうのはこうなるんかー思うて、長い間寝ちょった。動かれんで。身体中打ち上げて。これはどうもならん、やっとこさ起きてから、もう痛いから、砂糖水すぐつけたんですよ。それで、次の日、どっこも黒うになってなかった。じゃけど、一応病院行ったんやね。それで砂糖水つけたんよ言うたら、「あんた、砂糖水で治るなら医者いらんじゃあ!」言われて(笑)。ここで言うべきじゃなかったって(笑)。

――(笑)。

 小郡に自動車学校があるんじゃろう。あそこへね、講習に行ったんですよ。そしたらあの講習の中でね、スピード出したら自動車の中でどんなことが起こるかいう、体験する言うて、
 私ら乗ったんですよ。私は話を聞いちょったけえ、もう恐ろしいけえ、しっかり持っちょった。したら若いもんがフワッと持っちょったんじゃろう。車がバーっと動いて急ブレーキかけたら、カッチーン!!頭打ち上げたんよ。
 したら、痛い痛い言うて。
 こりゃ大ごとじゃあ思うて、すぐ砂糖ね。自動車学校でお願いして、砂糖をもらって、溶いてつけてやったんですよ。したら翌る日、ケロッとしちょるんよ。
 あんたどうしたん? 治った? と聞いたら、「うん全然痛うない」言うんですよ。
 砂糖水はすごいええ。のどが痛いときとかでも、口内炎の時も砂糖水。氷砂糖があるじゃろう、あれをパッと口に入れるんよ。とにかく早かったらすぐ治る。咳も軽くなるしね。
 子供がやけどしても、砂糖水がええ。

――それは砂糖をお湯で溶くんですか?

 ほいじゃけえね。砂糖を手にとって、ちょっと水入れて、練るんよ。
 垂れるんじゃあいけんし、かといって、あんまり固うてもいけんね。熱を取るんよ。
 だから、ちいとべちゃべちゃぐらいでつける。
 遠足とか。ああ言う時に豆茶の葉っぱとか、それから砂糖とかね。ちょこっと持たせて、子供に言うて聞かしとったらええよね。

――すごい知恵だと思いますよ。なくなってしまうのが勿体無いですよね。病院だけが頼られるよりも、治せるものは治せたらいいですよね。

 今は不足ないけえね。昔なんて、こない夢のようなことが、あろうはずがない。なんでもある。
 ・・・じゃけど、この戦争でから、また何が起こるんか知らんけど、物が上がっていくし、物がなくなる、言いよるけえ。これは待て待て、子供たちに、「土地は大小置いちょかんと、世の中がどうなるか分からんよ」っていっつも言いよったが、ちょっとまた考えにゃあいけん時代かなあと思うけど。
 ロシアみたいにね、ついやってきてから、ウクライナかわいそうに。ロシアどんだけ土地があったらええんか、あがに広い国が。日本もどうなることか。

――ロシアは食料もエネルギーも自給率がものすごく高いですよね。日本はその点、ものすごく低い。

 そうそう。あんた自給自足やろうったって、畑をこないジャングルにしたら、あんたどうにもならんじゃ?
 昔はみんな開いたのに、開いて畑にしたと思うたら、またこないにジャングルにしちゃう。昔からこんなじゃなかった。みなジャングルだったんじゃろうが、これやっとこさ開いて畑にしたと思ったら、世の中が変わってから百姓どころじゃない。こがいな馬鹿げたことはせん言うて、皆やめたら、こうなった。

――・・・残念ですよね、せっかく作れたものが作れなくなってしまった。

 食べ物が作れるけえ、ええわね、ええわねって昔には言いよったんじゃけどねえ。うちらのおじいさんらが働いて、お金稼いできてから。おばあさんは、お金で置いちょいた方がええ言うたが、おじいさんはお金はすぐなくなるんじゃけえって言うて、土地をいっぱい買うたんじゃけどねえ。機械とか何からね。その時は子供がようけおったけえ、それでよかったんじゃけど、今度は子供が少のうなって、それこそ子供や孫の代になったら、よう作らん言うて、みんなほったらかすんよ。
 自分らは、はあ、もうちょっとじゃが、子供や孫らがあんた、かわいそうなことよね。
 もう戦争の恐ろしさも知らんのにから、やってこられたら、あんたどうにもなりゃせんがね。
 どうするんか知らんが、どうも怪しいような気がしてね。

――その恐ろしさを知ってる人が、この国を動かしてる人の中にもいなくなっちゃいましたね。

 そうよ、困ったもんじゃ。
 また今頃は宗教問題。金もありもせん者が、金を皆出してから、お金がのうても、借金してでも、払えっつんじゃろう。家も財産もみんなはたいてしまうほど。
 偉い人がみな、関わってからね。馬鹿じゃあるまいか思うて。日本の偉い人は何をしよるんか。私はもう何十年て自民党を信じちょったのに、これじゃあ、今までの時間も戻してもらわにゃいけんよ。偉い人が皆が忘れたって。世話ないもんじゃね(笑)。子供じゃあるまいし。ようだましたもんじゃ思うてから。よう今まで黙っちょったもんじゃ。今始まったもんじゃあるまいし。
 考えたらよ、あの人のおじいさんのときに私らは選挙権が始まったような気がするけえ。どうでもこりゃあ60年も70年も私が騙されておったんかあ思うてね。もう選挙なんか行くんは嫌じゃ思うて。なんか情けのうてからね。

――・・・そう思ってる人が日本中にたくさんいるんじゃないですかね。

 ねえ。勿体無かったのう思うて。
 偉い人が皆、忘れた、覚えがないって。我々が何かやったらちょっとのことでも、突き回されて、縛り上げられて、はねつけられるのに。
 あがに偉いもんが、忘れました、忘れました、覚えがありません。
 もう、国民を騙すんにも程があると思って。自民党ってそんなつまらん党じゃったんじゃろうかと思うて。
 困ったもんじゃ。新興宗教したらダメよ、迷うたらダメよ。
 お金や、みんなの弱ったところをついてから。話すだけじゃけえ、すぐ迷うてしまってね。
 日本人は日本のええとこ、皆捨ててから。外国の中途半端なことばかり真似してから、困ったもんじゃのう思うけど。
 今からの子供たちが大変じゃろう思うよ。こげなことが起こり出したけえね。
 戦争にしてしもうたりしたらいけん。
 したら、日本の国は皆とられるよ。

内田 健太郎

内田 健太郎
(うちだ・けんたろう)

1983年神奈川県生まれ。東日本大震災をきっかけに、周防大島に移住。養蜂家。「瀬戸内タカノスファーム」を主宰。2020年より、周防大島に暮らす人々への聞き書きとそこから考えたことを綴るプロジェクト「暮らしと浄土 JODO&LIFE」を開始。

瀬戸内タカノスファーム

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