第1回
完全にイメージと思い込みだけで語る「WBC各球団の戦略分析」 〈松樟太郎〉
2023.02.19更新
ステレオタイプにあえてはまってみる
WBC(ワールドベースボールクラシック)がいよいよ開幕します。
今回の大会では「歴代最強」ともいわれる日本チームの強さばかりに注目が集まっていますが、やはり国際大会というものは国ごとのお国柄を味わうのが楽しさの一つです。
ワールドカップほどの多様性がないのが残念ですが、日本ではあまりメジャーではない国や、野球のイメージがあまりない国も出場しており、いったいどんな野球を見せてくれるのかに注目が集まります。
実際には、日本代表にヌートバー選手が選ばれたように、各国にルーツを持つメジャーリーガーなどが多数参戦するため、厳密にその国の野球事情がわかるというものでもないとは思います。
しかし、ここではそんな実情に全力で背を向けて、あえて「国のイメージだけから」戦力を分析してみたいと思います。
チェコ――機械のように精密な野球
私はスラヴ系民族の特徴ある人名が大好きです。サッカーワールドカップでは「モドリッチ」「ペリシッチ」など、ほとんどが「ッチ」で終わるクロアチア代表の選手名にしびれたものです。
もっとも、スラヴ系ではあってもチェコ人の名前はそこまで画一的ではありません。あくまで私の印象ですが、人名の画一性の高さはクロアチア、セルビア>ロシア>ウクライナ、ポーランド>チェコ、スロバキア、といった感じです。今回、選ばれたチェコ代表選手の名前を見ても、「ノバク」「トメク」「ミナリク」など、語尾に「ク」がつく名前が目立つくらいです。
そして「ク」がつく著名なチェコ人と言えばなんといっても、国民的作家のカレル・チャペックでしょう。「ロボット」という言葉の生みの親としても知られています。
そんなチェコ代表ですから、画一的かつロボットのように機械的な野球をやってくると思われます。
ランナー1塁でのバントは必須でしょう。ピッチャー陣は球速よりもコントロール重視。なんなら一人くらい野球ロボが混じっている可能性もあります。
日本代表としてはその逆を行き、エンドランなど意外な攻撃をしかけていくことが求められそうです。機械では予測不能な野球をすれば、ロボットがオーバーヒートして「ボムッ」となるかもしれません。
イスラエル――主力の弱点はバレていると考えよ
2017年大会で旋風を巻き起こしたイスラエル代表。イスラエルといえば忘れてはならないのが、世界トップレベルの諜報機関「モサド」の存在です。そんなイスラエルの情報力をもってすれば、日本代表の主力選手の特徴や弱点は、すでに丸裸にされていると考えたほうがいいでしょう。いまだ発見されていない村上選手の弱点についても、すでに暴かれている可能性があります。ぜひこっそり教えてもらいたいところです。
この情報戦に勝つために、イスラエル戦ではあえて、意表をついたメンバーで固めるという手が考えられます。湯浅投手や大勢投手など、データがまだ多くない選手の活用がカギを握るでしょう。あるいは、元中日の三ツ間選手あたりを予備登録して代打で使う、くらいの意外な手を打っていく必要があるかもしれません。
オランダ――初球打ちに警戒
実はヨーロッパでは野球大国として知られるオランダ。以前、そんなオランダの野球リーグを見に行ったことがあります。アムステルダム郊外や、南部のオーステルハウトという小さな街の球場などに出向いて観戦したのですが、アットホームな雰囲気で、球場に併設されたバーでビールを飲みながら楽しく観戦できるという、素敵なリーグでした。
もっとも、所属する日本人選手に聞いたところ、「審判の質がまちまちで、ストライク・ボールが安定しない」とのこと。そのため、どんなボールでも積極的に振っていくことが求められるようです。
また、オランダ代表には実はカリブ海のオランダ領であるキュラソーの出身者が多く、あのバレンティンも同島の出身者。意外とカリブのノリなのです。
というわけで、オランダという国の落ち着いたイメージに反して、かなり早めのカウントから積極的に勝負してくると考えられます。初球の入り方がポイントとなりそうです。
メキシコ――やんちゃで予想外のプレーに注意
ベイスターズファンにとってメキシコというとどうしても思い出されるのが、乙坂智選手のことです。横浜高校出身の地元選手として大いに期待され、2017年オフにメキシコリーグに挑戦すると大爆発。大きな期待を背負って帰国するもいまいちブレイクせず、ちょっとしたやんちゃもあって自宅謹慎処分、そして退団。2022年は再びメキシコリーグで活躍しました。どうも、日本よりメキシコの水のほうがあっているような選手です。
もう一人印象的なのが、楽天に所属していたアマダー選手です。日本プロ野球史上最重量選手として知られますが、これまたちょっとしたやんちゃのせいで出場停止になり、メキシコに帰国しました。
行ってみると感じますが、メキシコという国は思った以上に多様な国です。きっとメキシコ代表には、そんなやんちゃで多様な選手が多数いることでしょう。「代打・乙坂」とか急に出てきても驚いてはいけません。日本としては平常心で挑みたいところです。多様性に理解があるダルビッシュ投手の落ち着きに期待したいところです。
イタリア――「酔拳」に気を付けよ
イタリア野球で印象深いのは、イタリアの球団の所属したことのあるG・G・佐藤選手による「試合の間にワインを飲んでいた」という証言です。まさにイタリアらしさ全開のエピソード。なんならピザとかも食べていそうです。
今回のWBCのイタリア代表監督はあのマイク・ピアザだったりするので、そんないい加減なチームであるはずがないのですが、まるで「酔拳」のような予測のつかない攻撃を仕掛けてくると考えておいたほうがいいでしょう。
酔拳で怖いのが、一度倒れたと思ったら急に起き上がって攻撃してくること。大量の点差で勝っていても油断禁物です。リリーフ陣の運用がカギになるでしょう。
イギリス――タテの変化で翻弄する
イギリスと言えばクリケット。イギリス人はみな「野球なんてクリケットの亜流でしょ?」と考えていると思っていたのでWBC出場は意外です。
クリケットではボールは下手投げが基本で、バッターはバットをすくい上げるようにして打つのが特徴です。そう考えるとクリケット出身者はアンダースローに強く、去年投手三冠の青柳投手(アンダースロー気味に投げる)をWBCメンバーに入れなかったのは、対イギリス戦を見越しての栗山監督の深慮遠謀だと思われます。もっとも、日本とイギリスの対戦は決勝ラウンドまでなく、可能性は限りなく低いのですが。
また、すくい上げる打撃が得意だと思われるので、佐々木朗希投手のフォークなど、意外とアジャストしてくる可能性も。松井投手など横の変化が得意な投手の使い方がポイントになってきそうです。
あと、イギリスと言えば紳士。紳士的な野球をやってくると思います。周東選手や中野選手の足で、非紳士的に試合をかき回したいところです。
ニカラグア――革命的な野球を
大変申し訳ないのですが、ニカラグアという国に対してほぼ、知識がありません。唯一の印象が、学生の頃に読んだ小説の影響で、ニカラグアの革命家であるサンディーノを知り、しばらく中南米の革命家列伝を読み漁ったことです。チェ・ゲバラが有名ですが、メキシコのサパタとかパンチョ・ビリャとか、他にもいろいろと興味深い人が多いです。
ちなみにサンディーノ自身は失意のうちに倒れたのですが、その思想を受け継いだサンディニスタ民族解放戦線は革命を成功させ、現在でも政府の主要な地位を占めています。
ということで、まったくこの断片的な知識だけから、ニカラグア代表は革命的な野球をやってくると考えます。革命的な野球とは何か? 打ったら左に向かって走るとか、バットをさかさまに持つ、とかでしょうか。
急に三塁に向かって選手が走り出しても動揺しないよう、甲斐選手の落ち着いた内野陣への指示がカギを握りそうです。もっとも、三塁に向かって走ったらどのみちアウトですが。
パナマ――「ウンガー」
パナマと言えばパナマ運河。パナマ運河と言えば元ソフトバンクのフリオ・ズレータ選手の「パナマウンガー」というギャグでしょう。
ズレータ選手は長距離砲のイメージがありますが、私は2006年のパ・リーグのプレーオフ第二ステージ、日本シリーズ進出をかけたソフトバンク対日本ハム戦で、力投の甲斐なくサヨナラ負けしマウンドに崩れ落ちた斉藤和巳投手をカブレラ選手とともに支えたズレータ選手の繊細な優しさを忘れません。
そもそも、あんなに細い運河に船を通すには、繊細さが必須です。そう、パナマは非常に繊細な国であり、パナマ野球も非常に繊細なのです。多分。
ピッチャーは針の穴を通すようなコントロールを誇り、打撃陣は一二塁間や三遊間の狭い隙間を抜けてくるような鋭い当たりを量産してくると思われます。守備職人、源田選手のフィールディングに期待したいところです。
アメリカ、ドミニカ共和国、韓国、台湾のようなおなじみの国との対戦も楽しみですが、これら特徴ある国々との対戦もまた、WBCの楽しみと言えるでしょう。
「じゃあ、日本代表は着物着てバットの代わりに刀でボールを打つのか?」という話ですが、いっそそこまでやってくれると、野球人気も世界的になりそうです。そんな妄想とともに、WBCを楽しみたいと思います。
文・松樟太郎
1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ビジネス書の編集をする傍ら、新たな文字情報がないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。著書に『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)、『究極の文字を求めて』(ミシマ社)がある。「みんなのミシマガジン」で、『語尾砂漠』を連載中。