第29回
百戦錬磨の監督がいない......〈西村健〉
2025.11.25更新
5年以上のキャリアを持つ監督がいないのは、戦後初めてのこと
ヤクルト、DeNA、ロッテで監督が交代することになった。池山監督、相川監督、サブロー監督、いずれも一軍監督未経験、内部昇格である。
NPBではこのところ、監督交代の際、「監督未経験の人物を内部昇格で監督に抜擢する」というケースが多くなっている。過去監督を経験した人物を新監督に据えるというケースは、2014年以降に限ると、監督交代全45ケースのうち7ケースに留まる。
そのうち、監督としてリーグ優勝を複数回果たした人物に交代したのは、2016年の楽天・梨田監督と、2019年の巨人・原監督への交代の、2回だけである。
その結果どういうことが起きているかというと、2026年シーズンの12球団監督で、監督としてリーグ優勝を複数回果たした人物は、ソフトバンクの小久保監督だけになってしまった。
このような事態になったのは、1950年の2リーグ分裂後、4シーズン目のことである。直近は2015年で、巨人の原監督しかいなかった。
さらに、監督としてチームを日本一に導いた経験のある監督も、小久保だけになってしまった。2024年は、岡田監督、中嶋監督、高津監督、渡辺監督(途中交代)と4人もいたのに......。
こちらは、1950年の2リーグ制開始以降、77年間で6シーズン目である。直近は33年前の1993年で、西武の森祇晶監督しかいなかった。
何が言いたいかというと、2026年シーズンは、「百戦錬磨の名監督」がほとんどいないシーズンになる、ということである。
極めつけのデータを挙げると、「5年以上NPBの監督を経験している監督」がいない(最長は新庄監督の4年)というのは、1950年の2リーグ分裂以降、初めてのことで、82年前の1944年以来の事態である。当時は1リーグ時代で、そもそも1936年にプロ野球が創立されてから8年しか経っていない。2025年シーズンは、辛うじてヤクルト・高津監督がキャリア5年を経験している監督であったのだが、辞任してしまった。
内部昇格が増えている理由については知らないのだが、フロント主導の傾向が強くなっていることが影響しているのだろうか。
いずれにせよ、監督としての地位を確立している人物が1人しかいないシーズンというのは、寂しいと言わずにいられない。直近では中嶋監督や原監督、過去をさかのぼれば野村監督や落合監督など、老練な監督の存在が、ペナントレースに深みを与えてくれるのではないだろうか。
名監督だらけのシーズン
では、来年とは真逆の「名監督だらけ」のシーズンが、どのような様相を呈していたか、見てみよう。

上のグラフは、各シーズンの、「監督として日本一を経験している監督」「監督として日本一は経験していないが、リーグ制覇をしたことがある監督」「監督として、リーグ制覇は経験していないが、日本一は経験している監督」の数をまとめたものである。
私の見たところ、史上もっとも名監督が多かったシーズンは1963年-67年で、5年連続で6人の名監督がひしめき合っていた。川上哲治監督(巨人、V9監督、「哲のカーテン」)、藤本定義監督(当時阪神、1リーグ時代に巨人で7度リーグ制覇、「伊予の古ダヌキ」)、三原脩監督(当時大洋、3年連続日本一など西鉄黄金時代を築く、「三原マジック」)、水原茂監督(当時東映、巨人で3年連続日本一、シベリア帰り)、鶴岡一人監督(南海、監督として通算1773勝は史上最多、「グラウンドには銭が落ちている」)、西本幸雄監督(当時阪急、監督として日本シリーズに通算8度出場するも一度も勝てず、「悲劇の将」)である。
あまりにも濃密な5年間だといえるが、このような事態になったのは、プロ野球創立後30年が経ち、実績を残した名監督が複数輩出したことと、一方で監督候補となる人材はまだまだ不足していたためだと考えられる。
ちなみに、63年-67年の戦績は、下記の通りである。

こうしてみると、実はこの期間は三原大洋や水原東映よりも、西沢道夫監督率いる中日や、中西太監督率いる西鉄のほうが強いといえる。ただ、三原が大洋を、水原が東映を、西本が阪急を初優勝に導いていることを考えれば、これらのチームが実績ある監督を指揮官として迎え入れたことは正解だったといえよう。
工藤、中嶋、緒方らの再登板に期待
もちろん、実績を残した人物を監督に据えれば必ずうまくいくわけではなく、野村克也監督が率いた阪神のように一度もAクラスに入れなかった例もある。そこでデータをとってみよう。
監督としてリーグ優勝を2度以上経験した人物を監督に据えたのに、一度もAクラスに入れなかったケースを数えてみると、1971-73のヤクルト(三原脩監督)、1987-89の大洋(古葉竹識監督)、1999-2001の阪神(野村克也監督)、2005年のオリックス(仰木彬監督)など8ケース。ドラフト会議が導入され、各球団の戦力差が縮みはじめた1965年以降に限ると上記の4ケース。1965年以降、監督としてリーグ優勝を2度以上経験した人物を新監督に据えたケースは全部で18回あるから、確率としては4/18で22%になる。
一方、監督としての優勝経験が1回以下の人物が新監督に就任した際、一度もAクラスに入れなかったパターンは、1965年以降、72ケースある。監督としての優勝経験が1回以下の人物を新監督に据えたケースは全部で187回あり、確率は72/187で39%である(シーズンの途中で監督を代行し、同年限りで辞任した人物は除く。直近であれば2024年の西武・渡辺監督のケース)。
ならば、監督未経験の人物を監督に据えるより、監督としてリーグ優勝を2度以上経験した人物を監督に据えたほうが、在任期間中に一度以上Aクラスに入る確率が高くなるのではないか。
その条件に該当する存命人物を挙げてみよう。
広岡達朗(93歳)。森祇晶(88)。王貞治(85)。東尾修(75)。梨田昌孝(72)。落合博満(71)。原辰徳(67)。辻発彦(67)。岡田彰布(67)。栗山英樹(64)。秋山幸二(63)。トレイ・ヒルマン(62)。工藤公康(62)。中嶋聡(56)。緒方孝市(56)。高津臣吾(56)。小久保裕紀(54)。
私は、70歳以下の方は再登板してもいいのではないかと思っている。2005年、野村克也が楽天の監督を引き受けたとき、彼は70歳だった。その中でも、より若い秋山・工藤・中嶋・緒方・高津の5人は、是非どこかでまた采配をふるってほしいものである。
ここでちゃぶ台をひっくり返すようなことを言うと、もし26年中にどこかの球団の監督が、上述の広岡~高津の誰かに途中交代したら、第1節「5年以上のキャリアを持つ監督がいないのは、戦後初めてのこと」で述べたことは雲散霧消する(東尾、梨田、辻、緒方は日本一を経験していないが)。
また、26年にもし阪神が日本一になれば、2027年シーズンは監督としてリーグ優勝を2度以上経験した監督、日本一を経験した監督が2人以上になる可能性が高くなる。25年シーズン、2位に13ゲーム差をつけてセ・リーグを制覇し、さらに創価大学の立石正広を獲得した阪神が、リーグ優勝の筆頭候補であると考える人は少なくない。ただ、タイガースが連覇を果たしたのは、1937年―38年の1度きりのことである。藤川阪神がチーム88年ぶりの連覇を達成し、パ・リーグ優勝チームの厚い壁も突破して日本一になれるのかどうか、来シーズンの戦いぶりに注目したい。
文・西村健
某出版社の某新書レーベルの編集者。プロ野球の昔の記録を調べるのが好きです。




