第28回
三浦監督辞任と、古き良き(?)チケット窓口販売の話〈松樟太郎〉
2025.10.24更新
「なんで三浦監督は辞めるのか?」
という質問を、人と会うたびにされます。
自分がベイスターズファンであることがそれほど認知されているからなのか、それともベイスターズファンである以外に何の個性もないからなのかはわかりませんが、そのたびに悲しそうな顔をして「辛いです」と答えています。三浦大輔が好きだから......。
でも、正直に言うと、このニュースを聞いた時に真っ先に思ったのは、ハマの番長・三浦大輔への惜別でも、「4年連続Aクラスなのになぜ?」という疑問でもなく、「チケット」の件だったのです。
三浦監督辞任のニュースが流れたのは、9月29日。
私がそれを知ったのは、朝一のネットニュースでした。
その日、胸騒ぎがしたというか、単に老化で朝が早くなっただけというか、朝5時台に目が覚めました。で、ベッドの中でこのニュースを見たわけです。まさに「なんやて!」という話です。
その瞬間に思ったのが、ホームである横浜スタジアムでの最終戦である9月30日の試合のこと。数日前に奥さんと「この試合を見に行くかどうか」を検討したのですが、「今年はもういいんじゃないか」ということでやめたのです。あの時買っていれば......
急いでチケットサイトにアクセスしながら、ふと、9年前の2016年のことを思い出しました。
この年は三浦大輔が現役引退を表明した年で、この年のホーム最終戦に現役最終登板とセレモニーが予定されていました。
ただ、9月22日の試合が雨で延期となり、ホーム最終戦の日程が変更に。スライドする形で番長の最終戦も延期となったのです。
それとほぼ同時に、その順延された日のチケットを「今から横浜スタジアムのチケット売り場で売ります」というアナウンスが急遽行われました。確かその日の11時頃だったと思います。
おいおい、と思いながら急いで向かうと(自宅からは30分強)、すでに長蛇の列。ハマスタのある横浜公園の中を何度も折り返して、最後尾はほとんど公園の外に出ていました。
そして、列は全くと言っていいほど進まない。でも、誰も文句は言いません。だって、あんなにお世話になった三浦大輔だぜ。このくらい待つのは当然だろ。むしろ、待つことで番長への信仰心を試されているんだ、と。
その時、神が降臨しました。突然、番長の声が流れてきたのです。「雨男ですいません。ヨ・ロ・シ・ク」みたいな内容だったと思います。後で知ったのですが、長蛇の列になっていることを知って、わざわざアナウンスを買って出てくれたのだとか。本当に神かよ。
結局、そのまま10時間以上並び、チケットを買えたのは夜の23時ごろ。その後の報道で、0時を回ってもまだ列が続いていたと知りました。
そんな記憶が走馬灯のように流れる中、チケットサイトにアクセス。チケットの残数は△。「いける」と思って見てみると、「試合は見れないけど球場内には入れる」という微妙なチケットが残っていただけ。さすがに意味ないだろと諦めた次第です。
そして、朝6時頃のベッドの中で、つくづく思ったわけです。
最近、並んでチケットを買うことなんてなくなってしまったよなぁ、と。
かつては会社帰りにしばしば、神宮球場のチケット売り場で当日券を買い求めたものですが、最近は神宮の当日券もあまり見かけなくなりました。
ずっと窓口販売にこだわり続けてきたカープも、すでにネット販売が主流になっています。
「並ぶ」という行為は時間の無駄でしかありません。今さら「窓口販売に戻します」とか言われても困ります。
でも、なんというか、チケットを求めて並んでいるあの時間は、野球観戦の一部だったような気がしないでもないのです。
大阪万博で並んでいた時間もまた、大切な思い出になるように......。
まぁ、万博行ってないんですけど。
今後、
「なんで三浦監督は辞めるのか?」
と聞かれたら、こう答えようと思います。
「三浦監督は我々の罪を背負って退任されたが、いずれ復活する。神だから」
もっとも、最近はむしろ
「なぜ相川が次の監督なんだ」
と聞かれることのほうが多くなっています。
これに対する答えはもう「知らんがな」のひと言です。
文・松樟太郎
1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ビジネス書の編集をする傍ら、新たな文字情報がないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。著書に『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)、『究極の文字を求めて』(ミシマ社)がある。「みんなのミシマガジン」で、『語尾砂漠』を連載中。





