ミシマガ野球部

第27回

2025年のロッテジャイアンツ失速劇(ミシマ社・須賀紘也)

2025.09.25更新

 こんにちは。営業チームのスガです。
 阪神タイガースファンのみなさま、優勝おめでとうございます! 一時はこの5人でリーグの出塁率5傑を占めていた、近本・中野・森下・佐藤・大山全員生え抜きの上位打線を誇る打撃陣に、チーム防御率2.18(9/25時点)という異次元の数字を叩き出した投手陣。特に及川・石井・岩崎のブルペンが羨ましいと思わない他球団のファンはいないと思われます。
 さて、本日のミシマガ野球部は、韓国プロ野球を取り上げます。勝手に「タイガースと似ているなあ」と考えている韓国の野球チームがあるのです。

 韓国の阪神タイガース、それはロッテジャイアンツです。私はライブ配信(SOOP LIVE)やハイライト(YouTube)を見ながら、ジャイアンツを応援しています。
 本拠地は釜山で、阪神ファンが多い大阪と重なります。どちらもソウル・東京という首都に次ぐ二番目の都市です。
 時に「キツい」聞こえる方言をもつところも共通してます。ジャイアンツの応援でお馴染みなのが「마!(マ!)」、釜山方言で日本語だと「コラ!」というような意味です。相手投手に牽制球を投げられた時に叫ばれます。

마!

 ジャイアンツは1982年に韓国プロ野球の歴史が幕を開けた時からある6チームの内の1つ。43年間一度も球団名が変わっていないチームは、ロッテジャイアンツとサムスンライオンズの2チームだけ。読売ジャイアンツとの戦いが「伝統の一戦」と称される阪神タイガースとは、歴史あるチームというところも近いです。
 本拠地と歴史によって、リーグ内の立ち位置が近いこの2チーム。今年は両チームとも好スタートを切ったのですが、ジャイアンツの後半戦の失速ぶりはタイガースと対照的な曲線を描きました。今シーズンのロッテの失速は語り継がれて行くのではないかと思われます。というのも、ジャイアンツとタイガースには決定的な違いもあり、2年前にリーグ優勝からクライマックスシリーズ・日本シリーズを勝ち抜いたタイガースに対して、ジャイアンツは42年間一度もリーグ戦1位に輝いたことがないのです(1984年と1992年にプレーオフを勝ち抜いて逆転優勝)。創設11年のKTウィズ、15年のNCダイノスの両チームさえリーグ戦1位からの優勝を達成しているにもかかわらず、一度も経験がないのです。それが今年チャンスが巡ってきて、まさに狙いに動いた瞬間の転落劇はこれから韓国野球ファンの間で語り継がれて行くのではないかと思います。悲哀と人間らしさを大いに含むジャイアンツの失速は、ある一日をきっかけに起きてしまったのです。

欲を出してはいけなかった

 8月6日、ロッテジャイアンツはKIAタイガースに6対1で勝利し、58勝42敗で貯金を13としました。10球団のリーグ戦で3位、1位と4.5ゲーム差で逆転の範囲内です。
 この試合の勝ち投手は、助っ人外国人のタッカー・デービッドソン。188センチの長身を活かし角度のついた腕の振りで投げ下ろす速球と、多彩な変化球を投げ分け、笑顔が素敵なイケメン。この試合先発投手として一つの大台である2ケタ10勝目を挙げた彼が、なんとこの試合の直後に解雇となります。彼が負傷や問題を起こしたわけではありません。
外国人選手枠が3人分しかなく、別の投手を連れてくるためにクビにしたのです。
 結果は劇的でした。翌日の試合から12連敗し、貯金はたったの1つに。そして今では借金4の7位、優勝どころか5位まで出場できるプレーオフへの8年ぶりの出場もかなり厳しい状態となっています。貯金13あったチームが、解雇後は7勝24敗。2ヶ月弱かけてデービッドソン1人で挙げた10勝も勝てなかったとは、8月上旬には誰も想像ができなかった事態です。

 13個も貯金があり、8月上旬までの今年のジャイアンツは「強いチーム」でした。長年実績を積んでいる選手が多いわけではないのですが、若手選手が次々出てきて、誰が打席に立っていても「ここで一本打ってほしい」という時にヒットが出て、勢いを感じさせていました。しかし、この8月6日を境にして勝負強さは鳴りを潜め、リリーフ陣は勝利目前の8回に誰が投げても「ここを抑えれば勝てる」という場面で打たれ続けました。
 推測でしかないのですが、球団首脳陣の大人たちが優勝を目指して、一定の成績を残してきた選手を思い切って代えたことが、「球団は優勝を目指しているんだ。なんとしても勝たなければ」とプレッシャーを与えるメッセージになってしまったのかもしれません。残酷ですが、若いチームの繊細さが見えてこれも野球の面白さといえなくもないです。
 結果としては、初リーグ1位という悲願がチラついてしまった。そのためには、「このままじゃだめだ!」「こんなチャンスはもう何年もとないかもしれない!」「もっといいピッチャーを!」という焦りもあったのではないかと思います。2ケタ勝った投手をシーズン中に解雇するということが異例、その上勝ち投手を試合後に解雇するというのはもっと異例です。
功労者をセオリー外の解雇を行い、翌日からの転落劇。「欲をかいてはいけない」と寓話のような教訓を与えるシーズンとなり、ベーブ・ルースをトレードに出してから86年間ワールドチャンピオンになれなかったボストンレッドソックスの「バンビーノ(ルースの愛称)の呪い」よろしく、「デービッドソンの呪い」と囁かれるようになりました。
 あっ、阪神タイガースには「カーネルサンダースの呪い」があったので、呪いが存在するという点も共通してますね・・・。タイガースと同じく、リーグで一番と言われる熱狂的なファンを持つジャイアンツ、来年こそ強さも似せることができるでしょうか。

ミシマガ野球部
(みしまがやきゅうぶ)

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