人生に効く!医学古典の知恵

第18回

不老不死になりたい人たち

2026.08.11更新

 私はカポエイラとブラジリアン柔術を併修中なのですが、この間、所属カポエイラ団体の昇段式が執り行われました。私は昇段しなかったのですが、そこで「カポエイラやってる人って見た目若いよね」と中高生が話しており。うちの団体の最高指導者であるブラジル人のジェアン・パンゴリン師が51歳だって話から、

「あー、ジェアンのいっこ下だね私。50歳だよ」

・・・と言ったら、

「え????」

と言ったきり、その場の中高生全員の目が泳いでしまい。一瞬止まってから

「嘘でしょう!?」

「いやほんとだって1976年生まれだもの」

 ・・・ああ、なんか30歳後半かそこらに思ってたんだろうなあ・・・と。最近このやりとりあっちこっちでしています。そりゃそうか、50歳のおばさんが側宙飛ばないもんな、普通。

 50歳になったのを機に、バカバカしいことを積極的にやっていこうと、観光スポットなどを中心にとりあえず一回だけ側宙を飛ぶ動画を撮って載せ続ける&キャプションをAIで作ってそのまま掲載・・・というInstagramアカウントを作りました。このように、私は空中を飛ぶ50歳のおばさんなのです。バク転も挑戦中。補助ありなら回れます。

 この技術はカポエイラの技術です。なので、この技術で、ホーダと呼ばれる手合わせの最中に飛ぶんです。相手の目の前で。本来は飛ぶだけの技術ではなく、飛びながら相手を薙ぎ倒す蹴りなのだそうです。わあ怖い。

 とはいえちゃんと50歳なので閉経期です。更年期です。時々ホットフラッシュもありますよ! これは東洋医学では、体の陰の気が減って来ている証拠と考えられています。なので、見た感じ若くてもちゃんと中身は50年分年取っております。だからそのうちちゃんと死にますよ。

 死・・・これから逃れようとしたのが、東洋医学の源泉の一つである「仙道」です。道教の1部門でもあります。前回「発財」の話をしましたが、できるだけ健康に現世で長生きして、お金を儲けて楽しく暮らすことが道教での目標に近いのです。その究極の姿が仙人・・・生身のまま不老不死になって超能力を身につけること、なのです。

 東洋医学における薬草図鑑は「本草書」と呼ばれます。『神農本草経』は、後漢時代(1~2世紀頃)に成立したとされる現存最古の中国本草書です。365種の薬物を上・中・下の三品に分類し、効能や性質を体系的に記しました。原本は失われていますが、後世の引用から復元され、中国・日本の本草学や漢方医学の基礎となった重要な古典です。この書物で紹介されている薬物に仙人になる薬として紹介されているものが山ほど含まれているのです。

<原文>

『神農本草経』玉石部上品

玉泉.一名玉札.味甘平.生山谷.治五藏百病.柔筋強骨.安魂魄.長肌肉.益氣.久服耐寒暑.不飢渇.不老神仙.人臨死服五斤.死三年色不變.

丹沙.味甘微寒.生山谷.治身體五藏百病.養精神.安魂魄.益氣明目.殺精魅邪惡鬼.久服通神明不老.能化爲汞.

水銀.味辛寒.生平土.治疥瘙痂瘍白禿.殺皮膚中蟲蝨.墮胎.除熱.殺金銀銅錫毒.鎔化還復爲丹.久服神仙不死.

空青.味甘寒.生山谷.治青盲耳聾.明目.利九竅.通血脉.養精神.久服輕身延年不老.能化銅鐵鉛錫作金.

<現代語訳>

玉泉(ぎょくせん)

またの名を玉札(ぎょくさつ)という。味は甘、性は平。山谷に生じる。五臓のあらゆる病を治し、筋をしなやかにして骨を強くする。魂魄を安定させ、筋肉を充実させ、気を補う。長く服用すると寒暑に耐え、飢えや渇きを感じず、老いることなく仙人となる。人が死に臨んで五斤を服用すると、死後三年を経ても顔色が変わらない。

丹沙(たんしゃ、辰砂)

味は甘、性はやや寒。山谷に生じる。身体および五臓のあらゆる病を治し、精神を養い、魂魄を安定させ、気を補い、目を明らかにする。精魅や邪悪な鬼を殺す。長く服用すると神明と通じ、老いることがなく、水銀に変化させることができる。

水銀(すいぎん)

味は辛、性は寒。平地に生じる。疥癬、かゆみ、かさぶたを伴う瘡瘍、白禿を治し、皮膚の虫やシラミを殺す。堕胎させ、熱を除き、金・銀・銅・錫による中毒を解する。溶かして再び丹砂に戻すことができる。長く服用すると仙人となり、不死になる。

空青(くうせい)

味は甘、性は寒。山谷に生じる。青盲(失明)、耳聾を治し、目を明らかにし、九竅(身体の九つの開口部)の働きをよくし、血脈を通じさせ、精神を養う。長く服用すると身が軽くなり、寿命が延び、老いることがない。また、銅・鉄・鉛・錫を黄金に変えることができる。

 ・・・これは『神農本草経』の薬物が紹介される中巻の冒頭部分です。仙人になる薬ばかりでしょう? 大昔の薬は仙人になる薬を含んでいたのです。しかも、「上品」とは常に用いて害がなく効果が高いとされる薬物です。書籍の冒頭に鉱物薬が紹介され、しかも良い薬だから常に用いるべきだと考えていたということなのです。ちょっと怖いですね。

 前回、「死んだらだいたい地獄行き」という世界観だとお話ししました。なので、老いることと死ぬことは忌避すべきことなのです。ここから逃れるためにあらゆる手段を講じようとして発達したのが中国の古代医学であり、現代の東洋医学のご先祖さまなのです。

 そして、私が一番大切としている「養生」の概念も、道教由来のものです。不老不死は叶わなくとも、できる限りの長寿を実現する方法として発達しました。道教は宗教ですので、宗教的な考え方の一つである、天人合一思想・・・天の動きと人の体を一致させることが長寿を約束すると考えてもいました。天地は終わることはないので、それにピッタリ合っているなら人間も寿命が終わることがないと考えたのでしょう。

 現在私はある程度天人合一の部分を取り入れつつも、二十四節気・・・暦に合わせることは捨て去っています。また、天の気の流れである「五運六気」に合わせた行動もやめてしまいました。

 五運六気説は、『黄帝内経』に記された古代中国の気候医学理論で、毎年の気候変化と人体への影響を予測する考え方です。木・火・土・金・水の「五運」と、風・寒・暑・湿・燥・火の「六気」の組み合わせから、その年に現れやすい気象の特徴や、起こりやすい疾病、養生法を考察します。

 2026年(令和8年・丙午)は、五運六気では「水運太過」の年にあたり、水や寒の性質が平年より強く現れやすいとされます。この場合の前半は大寒(2026年1月20日頃)~大暑(2026年7月23日頃)まで。寒暖差が激しくて冷えのぼせが入り混じる寒熱の変動が出やすい気候になると。後半は「陽明在泉」となり、乾燥の性質が強まり、喉や鼻、皮膚の乾燥、肺や大腸の不調が現れやすいとされます。

 ・・・こういう年の気の巡りが六十種類想定されていて、順番に巡っていくと考えていたのです。美しいじゃない? 整然としていて。

 でもさあ、もう最近は読めないじゃない。たった60種類の気の流れで全部説明できる状況じゃないもの。ということでもうやめてしまったのですよ。その年のその時々に合わせ、気象庁の天気の予測も眺めつつ養生の方法を決めていっています。大まかな季節の動きに対応する養生は外さずに、です。

若林 理砂

若林 理砂
(わかばやし・りさ)

臨床家・鍼灸師。1976年生まれ。高校卒業後に鍼灸免許を取得。早稲田大学第二文学部卒(思想宗教系専修)。2004年にアシル治療室を開院。予約のとれない人気治療室となる。古武術を学び、現在の趣味はカポエイラとブラジリアン柔術。著書に『絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話』 『気のはなし』 『謎の症状』(ミシマ社)、『安心のペットボトル温灸』(夜間飛行)、『決定版 からだの教養12ヵ月――食とからだの養生訓』(晶文社)など多数。

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