自分の地図をかきなおせ

第7回

生活は法よりも広い

2020.07.11更新

(前回感情に波に乗って新幹線に乗りながら書いたことを第6回の文としてしまったので、ここから第5回の続きです)

 何度か機会を得ながらも「広告看板の家」プロジェクトをなかなか実現できないまま引きずっていた僕の元に、去年の2月香川県の高松市美術館から「高松コンテンポラリーアート・アニュアル」というグループ展への招待メールが届いた(こうやって突然招待が来るようなことは滅多に無い)。この展覧会は1年に1度、高松市美術館が最近の現代美術の作家を紹介するために企画しているもので、僕が誘われたのはvol.08「社会を解剖する」というテーマだった。この機会を使って「広告看板の家」をやってみることにした。

美術館という場所

 最初は美術館主催の展覧会という枠の中でこのプロジェクトをやることには抵抗があった。美術館は法律やら慣習やらで守られている存在であり、そこで行われる展覧会は僕の日々の生活と地続きの場所にはない。僕が眠り、食事を作り、服を着るあの野ざらしの社会からは少し隔離されているのが美術館という場所だ。去年これを象徴する印象深い出来事があった。

 「移住を生活する」プロジェクトで使った発泡スチロールの家・ドローイング・写真などの一部が金沢の美術館に収蔵されたのだけど、普段僕の家は寝ぐらとして外で使っているので雨にも風にも晒されて、外装のペンキはあちこち剥がれている。しかし美術館は収蔵時の作品の状態を永久に保つのが仕事である。なので収蔵前に、僕と学芸員は時間をかけて家を隅々まで確認する作業を行うことになった。風に吹かれたらすぐにでも落ちてしまいそうな微細なペンキの剥がれを見て学芸員が「このペンキ剥がれちゃいそうだけど、どうしましょう?」と聞き、僕が「これはもう剥がしちゃいましょう」と言って、その場でペリッと剥がす。もしこれが展示中に剥がれたら修復しなければいけなくなるからだ。そうやって状態を整えてから、薫蒸という殺菌処理を施してようやく収蔵される。つい先日まではフェリーで運ぶときに船員にぶん投げられてめちゃめちゃに破壊され、100円ショップで買ったガムテープでどうにか直して使っていた僕の家が、美術館に入った途端に手も触れられない、ペンキが1cm剥がれ落ちたら修復されるようなものに変わった。美術館はそんな場所だ。

 「広告看板の家」をそんな中でやっても面白くない。生活は博物館法で守られてはいない。「看板の中で広告費を使って暮らす」というアイデアは、日々食事やお金について悩んだりする、この野ざらしの社会の中だから活きてくる。しかし既に実現できないまま数年経ってしまっていたので、とにかく一度形にしてみたいとも思った。そこで美術館というスポンサーを得た僕が外に向けて展覧会の広告をするという形をとることにした。美術館の外、野ざらしの場所で、普通に道を歩いている人々に向けたものにすればいい。この「高松コンテンポラリーアート・アニュアル」という展覧会を広告する看板を美術館の外に作り、そこに住むことにした。

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「建築物」として扱われたくない

 美術館の予算は年々えぐられるように削られているという。少ない予算の中で看板を作り、さらに生活費も賄う必要があるので、住む期間は1週間ほどしか取れなかった。また写真をみて気付いた人もいると思うけれど、法律の問題で屋根をつくることができなかった。

 基本的に屋根と柱もしくは壁があり、その下を屋内として使う物は全て建築基準法第2条で建築物と定義されていて、それを設置するには「当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。(建基法第6条1項)」と決められている。僕は建築士の免許を持っていないので確認申請を書くことはできない。そこで最初は「前項の規定は、防火地域及び準防火地域外において建築物を増築し、改築し、又は移転しようとする場合で、その増築、改築又は移転に係る部分の床面積の合計が十平方メートル以内であるときについては、適用しない。(建基法第6条2項)」を根拠にして、床面積10平米以内で作ればよかろうと思っていたのだけど、高松市美術館は市街地のど真ん中にあり「準防火地域」なので、これが使えなった。

 「土地に定着していないもの」にしてしまえば建築物ではなくなるだろうということで車輪をつければいいかと思ったのだけど、美術館を通して高松市と話し合ったところ、車輪をつけても毎日どこか屋内にしまわないと建築物になってしまうと言われた。そうすると看板内で寝泊りすることができない(ちなみに後で調べてわかったのだけど、2013年に日本建築行政会議のなかで「車両を利用した工作物」の規定が更新されている。いくら車輪をつけていても、移動することに支障のある階段がついていたり、適法に公道を移動できないものは車両ではなく建築物として扱うということになった。これは主にトレーラーハウスの扱いを明確にするために行われた更新だが、店舗や倉庫用のコンテナに小さな車輪をつけて確認申請を免れようとするトラブルに対応するためという面もあるという。今回の「広告看板の家」もここには引っかかりそうだ)。

 なのでやむなく屋根をつくらないという方法をとった。そうすれば建築物ではなくなる。ただし屋根を付けない場合でも、その上に屋根がかかっているようなところ(庇の下など)に置いてしまうと、「増築」扱いになってしまう。最終的に庇の外に、屋根も作らない状態で設置することになった。なので雨が降ってしまったら看板内に滞在するのは困難である。そのときは看板を庇の下に入れ、僕は中に滞在せず、近所のサウナ等に泊まる。外出するときは雨が降りそうかどうか常に空を気にして行動し、雨が降ったらすぐさま看板を軒下に入れるために走って美術館に戻る生活を送ることになった。なんとも愛おしい家だ。

 このような法律的な問題に加えて、いくら展示作家とはいえ部外者が公共施設の敷地内に寝泊りするのはいかがなものかというコンプライアンスの問題があった。これについても学芸員と話し合い、68項目のQ&Aリストを作成し、これも上記のプロセスと合わせて公開した。

「不在時に入室希望者が来たらどうするか」
断る。

「洗濯はどうするか。」
作家に任せる。洗濯物を来館者から見える場所に干すのはNG。

「本プロジェクトによって何が得られるのか。」
やってみないと分からない。目標は広告看板で生活することで、〈広告〉と〈私〉の関係を一週間かけて考察すること。

「美術館敷地内に滞在する希望者が現れた場合はどうするか。」
趣旨を説明し、お断りする。

などなど。

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(ここまでの写真の撮影:木奥恵三)

ルールや基準を見下ろすこと

 こうして看板の家を公的施設の敷地内に設置してみることで、そこがどういう規制のもとに存在している場所なのかがよくわかる。先ほど書いたように、原則としてこの国では屋根があってその下を屋内的に使う構築物は全て「建築物」とされているのだけど、法律が適用されない曖昧な領域がある。僕としてはそこを最大限利用して、素人の枠を出ないようにしながら建築を扱うことで、街をこちら側の手に引き戻したいと思っている。ちなみに札幌で今年の冬に行う予定の「広告看板の家」は、壁と天井に農業用ビニールを使う。床面積が小さく、季節性の構築物で、緊急時にはカッターナイフなどで膜材そのものを破ることができれば「テント工作物」であり、「建築物」としては扱わないことを利用する。

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(撮影:村上慧)

 ここに住んでいるあいだは、近所でWifiが使えるカフェ3軒(ドトール、サンマルク、ガスト)を見つけオフィスとして使い、銭湯2軒(吉野湯とニューグランデみまつ)を風呂場とし、トイレは日中は美術館のトイレ、夜間は歩いて2分のところにあるファミリーマートを使い、洗濯は吉野湯のコインランドリーを使った。昼は近所にドローイングに出かけ、夜はIHクッキングヒーターで鍋を作って食べ、蚊帳に入って眠る。これら全ての作業を雨が降らないか気をつけながら行う生活は大変だったけれど、新型コロナの状況下の今思うとまだ気楽だ。札幌で行う「広告看板の家」ではこの新型コロナ状況下の街の中でどんな生活ができるのか、色々と試してみたいと思っている。

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(続く)


お知らせ

札幌及び名古屋で今年の冬~来年の春にかけて行う予定の「広告看板の家」のスポンサーを募集しています。個人でも、法人でも構いません。名前を出したくないという方は匿名でもかまいません。名乗り出てくれた方にはプロジェクト終了後に、制作した看板とドローイング一点を差し上げます。お金の集まりによっては東京でも実現させたいと思っています。日本の都市をもっと面白い場所にしたいと思っている方と共にプロジェクトを動かしたいです。どうかよろしくお願いします。

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村上 慧

村上 慧
(むらかみ・さとし)

1988年生まれ。2011年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。2014年より自作した発泡スチロール製の家に住む「移住を生活する」プロジェクトを始める。著書に『家をせおって歩く』(福音館書店/2019年)、『家をせおって歩いた』(夕書房/2017年)などがある。

satoshimurakami

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