MS Live! 制作室

第21回

後藤正文×藤原辰史 公害をめぐる対話――1976年12月2日の新聞から

2021.07.02更新

 来る7月5日(月)、MSLive! で後藤正文さんと藤原辰史さんの対談イベント「公害・分解・ロック〜同年同日に生まれた二人の対談〜」を開催します! 同年同日に生まれ同じ時間を生きてきたお二人が、生まれた日(1976年12月2日)と現在(2020年12月2日)の新聞をじっくり読んだうえで、「この45年間、わたしたちは何を乗り越え、何を先延ばしにしてきたのか?」という問いをめぐって語り合います。

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 今日はイベント開催を記念して、お二人が過去に重ねた対話の一部をミシマガに公開いたします。2020年12月11日、後藤正文さんと藤原辰史さんは生まれた日(1976年12月2日)の新聞各紙を読みながら、こんな話をされました。

公害、原発、基地――日本近代史の急所を訪問する

後藤 公害に関する記事が随所に出てきますね。毎日新聞13面の「家庭 生活の科学」の欄には「公害新手帳」という連載があって、「産業廃棄物(中) こわい人体汚染」と見出しが付いています。どの紙面を見ていても、喘息の記事とか、瀬戸内海にどれくらい汚水を流していいかのルールで揉めているという話とか、これ以上埋め立てをしないための条例を作るべきかどうかの論争とかが散見されました。やっぱり公害に対する意識があるんだなと。

藤原 私も公害の話をしたいなと思っていました。「公害」という言葉がやっとこのあたりで根づきはじめているんですね。読売新聞3面に「悲痛な叫び 忘れられた争点」とあります。「今度の選挙は、ロッキード事件を契機とした政界浄化を中心課題に(...)。だが、四年前の中心課題だった公害や開発問題などは "忘れられた争点" になってしまった」。市民や活動家への取材をもとに、公害・開発問題についてレポートしています。これについては後藤さんと喋りたいなと思っていました。原発の話も出てきているので。

後藤 一番最後のところで、原発が「未来のエネルギー」として言及されていますよね。

藤原 柏崎と福井原発についてですね。記事では、まず四日市と川崎のぜんそく、そして、イタイイタイ病のことが書かれています。イタイイタイ病は、旧財閥系の三井金属鉱業によるカドミウム汚染です。そのあとに、青森の六ヶ所村の工業地帯開発計画が取り上げられています。六ヶ所村は、本当に日本近代を象徴すると場所だと思います。

後藤 記事には、陸奥の開発が列島改造論の目玉だと書いてありますね。結果として、六ヶ所村のあたり、下北半島は原発銀座になっていく。僕は、以前ここに行ったことがあるんですよ。

藤原 ほんとですか、僕は行ったことないんです。

後藤 なかなか遠いですよ。青森市からもけっこう時間がかかりました。やはり、六ヶ所村に近づくと突然道路が広くなるんですよね。車線が増えて、明らかに雰囲気が変わる。すごく辺鄙なところに、なんというか、その距離感とはかけ離れた規模のものが急に立ち上がるんです。インフラがよくて、お金が落ちているという感じがしました。

藤原 そうか、そんな感じだとは知りませんでした。

後藤 2010年くらいでした。ツアー期間中に自分で「大人の社会科見学」というのをやっていたんです。沖縄の基地めぐりもして、辺野古や普天間や嘉手納に行きました。嘉手納という、東アジアでも最大規模の軍事空港があるのに、なぜ普天間が必要なのかがよくわからないですね。あんな海沿いにヘリポートを作る意味もわからない。カーナビの地図を見ながらまわったのですが、沖縄では多くの土地がグレーで塗りつぶされているんです。

藤原 そうですよね。

燃えちゃった、で見えなくなっている問題

後藤 ゴミと直結する問題として、1990年代ごろにダイオキシンの問題が出てきます。ダイオキシンはゴミを捨てて燃やすことによって生まれるものだから、ゴミ問題処理の解決を目指しつつ新しい公害を作ってしまうみたいな、すごく不思議な話です。いまでは、高温で燃やせばダイオキシンは出ないということになってきたんですが、今度はマイクロプラスチックという新しい問題が出てきましたよね。僕はゴミの問題にすごく興味があって、だから藤原さんの本もとても興味深く読みました。こんなに多くのゴミを捨てている社会は問題だと思います。

藤原 たしかに1970年代から環境系の社会運動が強くなっていきます。ゴミをどんどん捨てて海を埋め立てたりしていた時期ですから、そのことがもっと新聞に出てきていていいと思うんですけど。

後藤 「夢の島」とか、社会の教科書には絶対載ってましたよね。

藤原 載ってました。

後藤 東京の人たちすごいな、と思いましたけどね。

藤原 何をこんなに捨ててんだ? みたいな。

後藤 「夢の島」。すごい皮肉ですよね。夢じゃなくて悪夢だろ、みたいな。

藤原 ゴミでできた場所って、たとえば、都市からの廃棄物で丘を造成して、ウィンタースポーツの施設を作ったライプツィヒの事例や、同様にスキー場を作ったトロントの事例などがありますね。そういう場所はけっこういろんなところにあります。

後藤 でも、ゴミの問題を解決しようという機運は一切無いですよね。リサイクルという方法はあるけど、名ばかりなかんじがするというか。

藤原 解決の機運はないですね。

後藤 食べ物もどんどん小分けにされて、過剰包装されていますし。自分の家のゴミの量を見ながら、これが何万世帯ってあったらどうなるのかと自省します。

藤原 焼却所も大きな問題なんです。日本にある焼却所の数は、全世界の数の半分なんですって。ほとんどが日本で燃やされているということです。食べ物も燃やしているし、水を含んでいるものも結局火を使って燃やしている。そのためには重油を使わなきゃいけないので、エネルギーの問題になります。でも、ああきれいに燃えちゃった、みたいな感じで問題がよく見えなくなっているんですよね。

自治体でできることはたくさんある

後藤 ゴミを燃やしたときの熱も、再利用されているかというとそうでもありません。ちょっと進んでいるところでも、温水プールに利用しているくらいです。
佐賀県に「佐賀市清掃工場」というめちゃくちゃ先進的なゴミ処理場があって、いつか行ってみたいと思っているんですよ。そこは藻を栽培して、ゴミ焼却のときに出る二酸化炭素を吸収させて、さらに藻のバイオエネルギーも活用しているんです。植物を使ったカーボンオフセットに取り組んでいます。
 徳島県上勝町の「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」にも行きたい。上勝町はゴミ収集をしないんですよ。住民が自分たちでゴミを運んでくるという方法にしたら、ゴミがめちゃくちゃ減ったそうです。あとは、おばあちゃんたちが地元の葉っぱを料亭に卸して利益を得るとか、変わったビジネスもしていて面白い町です。

藤原 そういうのはぜひ実際に見てみたいですね。やっぱり歩かないといけませんね。

後藤 数年前の『FUTURE TIMES』にも載せたのですが、産業廃棄物としての食品残渣ざんさがいっぱいあるんです。ちょっと形がちがうだけで捨てられてしまう食品がたくさんある。大手カフェチェーンのチョコバーなんかが廃棄されてめちゃくちゃ山積みになっていて。それを微生物に食べさせて、ガスや液体肥料を作るという試みもあります。こういう事業はすばらしいし、一般家庭のゴミにも拡げられるいいと思います。食品残渣は、化粧品会社や製薬会社からも出るそうです。カプセルとかに豚のゼラチンを使っているからですね。そういうものは本来すべて再利用できるはず。僕らの社会はとんでもない量のゴミを捨てているんだなと感じます。
 あと、排泄物ももっと利用できるはずです。たとえば神戸市はかなり先進的で、大阪ガスと一緒にバイオガス事業をやっています。汚泥を再利用したガスでバス走らせているんです。これは震災が発端になっているそうです。下水処理場を使えなくなって運河に汚泥を溜めていたのですが、処理場を新設するときにバイオガスの設備を作った。カロリーをとにかく全部エネルギーに変えていく、というのすごくいいなと思います。僕が住んでいる家では生ごみをディスポーザーで流していて、発酵したものを下水処理場が回収します。そういうふうに肥料になっていくといいですよね。

藤原 そうですね。

後藤 震災の経験をもとに舵を切っているところがすごいです。自治体の取り組みって大きいんだなと。ミュニシパリズムにも関係しますが、自治体の管轄でできることはけっこうありますよね。

藤原 国だと規模が大きすぎて動けないんですよね。

後藤 面白いことしている自治体にも興味があるので見に行ってみたいです。民俗学の手法でやれることがたくさんあると思います。

 
 ・・・この対話をふまえ、7月5日(月)にMSLive!「後藤正文×藤原辰史『公害・分解・ロック〜同年同日に生まれた二人の対談〜』」を開催します! 前半は、近代日本の公害をめぐる藤原さんの歴史講義。そして、後半ではお二人に対談いただきます。同じ時代を生き、表現者として活動してきたお二人だからこそ生み出せる対話。ぜひ、多くの方にご参加いただき、過去・現在・未来を共に考えたいと願っています。


後藤正文(ごとう・まさふみ)
1976年静岡県生まれ。日本のロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATION のボーカル&ギターを担当し、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。ソロでは「Gotch」名義で活動。また、新しい時代とこれからの社会を考える新聞『THE FUTURE TIMES』の編集長を務める。レーベル「only in dreams」主宰。2020年12月に最新作となる3rdアルバム『Lives By The Sea』を配信 (CD / LP は2021年3月3日発売)。 著書に『何度でもオールライトと歌え』、『凍った脳みそ』、『銀河鉄道の星』(ミシマ社)、『YOROZU妄想の民俗史』(ロッキング・オン)、『ゴッチ語録』(ちくま文庫)がある。

藤原辰史(ふじはら・たつし)
1976年生まれ。京都大学人文科学研究所准教授。専門は農業史、食の思想史。2006年『ナチス・ドイツの有機農業』で日本ドイツ学会奨励賞、2013年『ナチスのキッチン』で河合隼雄学芸賞、2019年日本学術振興会賞、同年『給食の歴史』で辻静雄食文化賞、『分解の哲学』でサントリー学芸賞を受賞。『カブラの冬』『稲の大東亜共栄圏』『食べること考えること』『トラクターの世界史』『食べるとはどういうことか』『縁食論』『農の原理の史的研究』ほか著書多数。

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(えむえすらいぶ せいさくしつ)

2020年4月より、空間を超えて「生きた言葉」を届ける、ミシマ社主催のオンラインライブ(通称 MSLive!)がスタート。

これから開催するイベントや、開催したイベントのあれこれについて制作チームがお届けします!

編集部からのお知らせ

MSLive! 後藤正文×藤原辰史「公害・分解・ロック〜同年同日に生まれた二人の対談〜」にぜひご参加ください!

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本記事の対話をふまえたオンラインイベントを、7月5日(月)に開催します。ぜひご参加くださいませ!

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