大地との遭遇

第25回

小貫大輔さんを訪ねて

2024.05.01更新

 大地を訪ねてくださった三砂ちづるさんが帰り際につぶやいた「シュタイナー活動といえば、小貫大輔さん」という言葉に僕は反応した。この頃、僕は大地での保護者勉強会で「シュタイナー教育」についてみんなで学んでいて、夢中になっていた。ドイツに教授職として赴任する友人のともさんと話していて「僕もドイツに行きたい!」と思わず口から出たのは、ドイツがシュタイナー教育発祥の地であり、今も活動の震源地であるからというのも大きかった。

 「小貫大輔さん」は、ブラジルで三砂先生が「出産のヒューマニゼーション」プロジェクトに取り組んでいた時の同僚だった。現在は、東海大学で教えながら、「性教育」「外国人学校」、そして「シュタイナー教育」をテーマに多彩な活動を展開している。

 三砂先生から「小貫大輔さん」の名前を聞いて、しばらくしてから「俺、小貫さんに会ったことあったじゃん!」と思い出した。それは僕が、e-Educationプロジェクトの代表として五大陸ドラゴン桜に取り組んでいた2014年。ブラジルのファベーラで映像教育のプロジェクトを立ち上げられないかと、相談に訪ねたのが、小貫さんだった。当時はシュタイナーに興味がなかった僕は、小貫さんのことをブラジルのファベーラでの活動や性教育の専門家だと思っていた。だから、三砂先生から「シュタイナー運動といえば小貫大輔さん」と言われても、すぐに記憶がつながらなかったのだ。

 小貫さんは、27歳の時にブラジルのサンパウロを訪れ、ウテ・クレーマーさんと出会う。ウテさんは「モンチアズール」というコミュニティ組織を主宰し、ファベーラで活動していた(出会いのいきさつは、小貫さんの著書『耳をすまして聞いてごらん ブラジル貧民街でシュタイナーの教育学を学んだ日々』(ほんの木)に詳しい)。

「モンチアズール」はシュタイナーの思想(人智学)を根底に、学校、保育園、学童保育、障害者のデイケア、診療所、助産師所、職業訓練所、小さい農場など多岐な活動を展開していた。ウテさんは、ドイツ出身のシュタイナー学校の先生だ。サンパウロ市内で教えていたが、職を辞して、1979年に仲間たちとモンチアズールを立ち上げた。小貫さんによれば、「ブラジルのコミュニティ活動の草分け的存在」だという。

 小貫さんは、ウテさんとの出会いをきっかけに、5年間モンチアズールで、エイズをテーマに活動。その後も人生を通して、モンチアズールと携わってきた。小貫さんに続くように、たくさんの日本人が、モンチアズールで働き、関わりを持ち続けている。

 早速小貫さんに連絡し、久しぶりに会いに行きたいことを伝えた。すると、「授業に遊びにおいで!」と返事が来た。2023年、4月28日。僕は、長野から東京へ行き、東海大学を訪ねた(ここからは、敬愛の念をこめて大輔さんと書こう)。僕は大輔さんに約10年ぶりに再会し、彼の授業に参加した。その後、研究室へ。大輔さんの研究室は、ブラジル人学校でのボランティアや、性教育、LGBTQなど様々な活動に携わる学生のみなさんで賑わっていた。僕は、息子たちが生まれ、長野に引っ越したこと、大地をきっかけにシュタイナー教育に興味を持ったこと、シュタイナーを探求するためにドイツに引っ越したいと思っていることを、伝えた。

 大輔さんからは、彼のブラジルでの「お産のヒューマニゼーション」プロジェクトの話から、日本、世界のシュタイナー学校の今のことまで、話は多岐に渡った。

「ドイツで、多文化共生を掲げて成功しているシュタイナー学校がカールスルーエにある」

「世界に広まったシュタイナーのムーブメントで、一番エネルギッシュな国はブラジルかもしれない。オイリュトミーも、サンバの影響を受けて独自の進化を遂げている」

 など、僕は大輔さんの話を聞きながらワクワクと想像力が世界中に広がっていくのを感じた。「シュタイナー教育の新しい種はブラジルで大きく育っているのか!モンチアズール熱いぞ!!!」と僕は興奮した。

 その後、大輔さんのご自宅に伺ってご家族と一緒にブラジル料理に舌鼓を打った。大輔さんとの会話の中で、何度もモンチアズールを主宰するウテさんの話になった。大輔さんによればウテさんは「シュタイナー教育が『他者』に開かれた教育運動となることを、実践を通じて世界のシュタイナー学校に呼びかけてきた人」だという。

 強烈にウテさんに会いたくなってきた。僕は2014年に大輔さんにブラジルでのプロジェクト立ち上げの相談に行ったあとに、大輔さんの紹介を得てサンパウロを訪問していた。リンダウバさんという「モンチアズールのお母さん」というような方のおうちに滞在させてもらいながら、現地の予備校や塾などのことを聞き込み調査していた。僕は、モンチアズールの活動の中心地に滞在していたことがあったのだ。いかんせん、当時はモンチアズールに自分の興味関心がなかった。だから、活動を主宰するウテさんを訪ねたり、モンチアズールの活動現場を見学に行かなかった。僕は、e-Educationのブラジル立ち上げに夢中だった。あー、なんてもったいないことをしたんだ、自分よ。ばかもの!

 話は盛り上がり、気が付くと長野に帰る最終電車の時間が迫っていた。大輔さんは、駅まで車で送ってくれた。僕が車から降りるときに大輔さんは言った。

「僕の親友が、スイスのドルナッハにいて、シュタイナーの活動をずっとやってるよ。まさっていうんだ」

 まささん・・・。小貫さんの親友ということは、きっと魅力的な人に違いない。一体どんな方なんだろう。近々、ぜひまささんに会いに行こう。

税所篤快

税所篤快
(さいしょ・あつよし)

19歳のとき、失恋と一冊の本をきっかけにバングラデシュへ。同国初の映像授業プログラムe-Educationを立ち上げ、最貧の村ハムチャーから国内最高峰ダッカ大学への合格者を10年以上輩出する。その後、中東のパレスチナ難民キャンプやガザ、アフリカのルワンダやソマリランドなどでプロジェクトを展開。2016年、人生に迷い、リクルート入社。売上ゼロのまま木更津で消息をたち、エチオピアで発見される「税所アフリカ脱走事件」など数々の逸話を残す。2021年、地域おこし協力隊ゼロカーボン推進員として、長野県小布施町へ。著書に、『前へ!前へ!前へ!』『最高の授業を世界の果てまで届けよう』『突破力と無力』の青春三部作。『若者が社会を動かすために』『未来の学校のつくりかた』『僕、育休いただきたいっす!』の社会人三部作などがある。

写真:五味貴志

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