一晩でなんとかなりすぎる

第22回

朝食が酒に合いすぎる

2026.01.22更新

 新年早々ろくでもない話題で恐縮だが、かねてより強く問題視しているテーマについて、この機会に述べたい。
 なぜ朝食は、こんなにも酒に合ってしまうのか?
 ものすごく理不尽だと思う。おかしいと思う。常識に照らせば、朝から酔っぱらってはいけないことなど自明の理。それなのに、朝から酔っぱらわずにはいられないようにできているのである、この世の中が。
 小人は大いなる天の原理、マクロコスモスの横暴に弄ばれて、やむを得ず人の道を踏み外させられているに過ぎない。すなわち、私が目覚めて20秒後に酒を飲んでしまうのは、私自身のせいではなく、宇宙のせいである。果てしなく巨大で揺るぎない環境要因に対して、いちホモサピエンスの分際で、いったいどうやって抗えというのでしょう?
 こちらは悪くない。あくまで毅然と、世界の側の設計ミスを指摘したいところである。
 酒肴朝食メニュー番付を真剣に考えたので、ここで披露する。
 横綱は、なんといっても朝マック。
 この一見爽やかなモーニングメニューが孕む、超悪魔的な真の問題点を、私は、どうしてもどうしても、どうしても、世の中に訴え続けていきたいと思っている。
 朝マック、あまりにも酒との相性がよすぎる。なんらかの陰謀を疑わざるを得ないほどに。
 あの軽やかな、ふんわり、それでいてもっちりとしたマフィンの「ちょうど良い感」。個性が強すぎず、かといって弱すぎもしない、絶妙なバランス感覚。白く清潔でやわらかい感じのする表面を、しかしがぶっとかじってみると、意外と粗忽な感じの歯ごたえがあるのも、多層の楽しみがある感じで嬉しい。ほのかな甘みが重要なアクセントとなり、次の一口を連綿と誘い続ける点も、酒肴としての素質に富んでいる。
 それから、ソーセージパティのグッとくる旨味、塩気。セットで付けられるハッシュポテトの脂味と合わせて食えば、もう完璧な「ジャンキートライアングル」の完成である。
 ここへ、卵のコクと丸み、チーズの乳脂肪がやさしく加わり、朝の悪魔はいよいよ完全体となる。
「食事」と呼ぶほどには重くない、軽やかでさりげない質量がまた憎い。いかにも朝食然としたふんわり感に騙されて、我々は、恐ろしいつまみを食べさせられているのだ。
 ビールの炭酸と合わせてすっきりと流し込むのもよし。レモンサワーの酸味で脂を凌駕しながらさっぱり食べるのもよし。ハイボールで香ばしさを引き立てるのもよし、どっしりしたワインで脂と塩を受け止めるもよし。
 なにより恐ろしいのは、こんなにも晩酌向きのメニューが、なぜか朝5時~10時までしか販売されていない点である。
 すなわち朝、飲めと言われているのだ。マクドナルドに。マクロコスモスに。到底抗うことのできない、大いなる存在に。
 続いて大関、ドトールのミラノサンドA(生ハム・ボンレスハム・ボローニャソーセージ・チーズ・レタスのサンドイッチ)。
 これは別に朝食専用として売り出されているメニューではないのだが、軽いサンドイッチである以上、夕食というよりは朝食・昼食向きの食べ物としてこの度の俎上に上げたい。
 私が愛してやまない地元の大型書店の中に、ドトールが入っていた。そこでよく勉強したり、ものを書いたり、諸々の作業を一気に片付けたり......集中したいタイミングで利用していたのだが、いつも不思議に思うことがあった。
 ミラノサンドAを食べるとき、無性にワインが飲みたくなるのだ。
 なぜなのか? 長年考え続けてきたが、先日、衝撃的な事実に気が付いた。
 このサンドイッチに挟まれている具材「生ハム・サラミ・チーズ・生野菜」、そして「香ばしくトーストしたパン」。
 このラインナップは、完全に、ワインバーの前菜さながらの構成なのである。
 恐ろしいこと。我々は、無害で小粋な面をしたサンドイッチを食べているつもりで、知らず知らずに、実は酒を飲むための前菜を食べさせられているのだ。
 いったい誰が、どういう思惑でこんなトラップを仕掛けてきているのか? 世界は本当に油断ならない。
 関脇は少し趣向を変えて、ガストで食べられる朝食を挙げたい。
 マクドナルド、ドトールと来て、酒飲みは洋風のモーニングの前に無力であることがわかる。では米飯献立なら平気なのか? というと、そう単純な話でもない。
 ガストのモーニングで一番好きなのは「スクランブルエッグ&ベーコンソーセージセット」である。メニュー表の写真にはトーストが載っているが、これをライス(小)に変更して注文する。
 この店にも悪魔が潜んでいる。トリガーはすぐ目の前にいるのだ。そう、卓上に置かれている「瀬戸のほんじお 焼き塩」の瓶。
 お手上げである。塩を振って食べられるなら、どんな食べ物もすべて酒のあてになるに決まっているではないか。
 私は米が大好きで、同時にとろとろのスクランブルエッグも好きである。二品に共通するのは「塩との相性が抜群に良い」ということ。これらはもはや、塩を食うための皿であるいっても過言ではない。
 その米と卵が同時に出てきて、なおかつ目の前には塩の瓶がある。考えるまでもなく、今すぐに酒を飲めという啓示が完成している。
 ところがここに落とし穴がある。景気よくボトルワイン等のでっかい酒でもあけようかとはりきってメニュー番号を検索するも、悲しいかな、なんとガストでは、朝はアルコールの提供をかなり絞っているのであった。
 残念極まりないことに、ワインやハイボール、レモンサワー等の酒は、10時半以降のハッピーアワーの時間帯からしか出してもらえない。朝食の時間帯に飲めるのは、実はビール一択。
 なぜビールだけ......、という疑問の答えも、きちんと皿の上に載っている。スクランブルエッグに添えられた、かりかりのベーコンとぷりぷりのソーセージ。
 それで一気に合点がいく。やはりガストも、酒飲みを陥れるための朝食を提供しているわけだ。米と卵に塩を振って酒肴を完成させ、ベーコンやソーセージ、添え野菜等のアクセントも挟みながらビールを飲みましょうと、この献立にマッチするのはまさしくビールであり、それ以外の酒はありませんと、そこまでわかりやすいメッセージを表現してくれているのだ。
 意味不明な番付の結びに。この「平たい皿に盛られたライス(米ではなく、ライス)に塩を振って食べる」という行為には、なんともプレミアムな感慨を覚えるので、必ずやりたくなってしまう。
 江國香織の小説で最も好きな作品が『抱擁、あるいはライスには塩を』という物語なのだが、こんなにも秀逸なタイトルがあろうか? まったくその通り。それが一番おいしい食べ方だと、完全同意する。
『ライスには塩を』というパンチラインは、作中で「大人になったから許される自由」を意味する。非常にグッとくる、瀟洒なメタファーである。
 かつて子どもだったころ、塩分は許されざるものだった。どこで何を食べていても、母に「しょっぱいからやめなさい」と注意されたものである(私は、醤油でもふりかけでもドレッシングでも、なんでもかけすぎる子どもだったため)。
 朝食とともに酒を飲むという行為はおそらく間違っている。マックもドトールもガストも、そんな反社会的行為のために朝食を供しているのではないということも当然知っている。なにもかも自分の愚かさのせいだと自覚しているが、それでも、休日限定の大切な楽しみとして、これがどうしてもやめられない。
 もう誰にも怒られる筋合いはないという解放感と、もう誰も、私を止めてくれないのだという寂しさが同時にある。

佐藤ゆき乃

佐藤ゆき乃
(さとう・ゆきの)

1998年岩手県生まれ。立命館大学文学部卒業。第3回京都文学賞一般部門最優秀賞を受賞し、2023年にデビュー作となる小説『ビボう六』(ちいさいミシマ社)を上梓。小説「ながれる」で岩手・宮城・福島MIRAI文学賞2022を受賞。

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