46歳で父になった社会学者

第29回

『46歳で父になった社会学者』工藤保則さんインタビュー(1)

2021.03.19更新

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 こんにちは、ミシマガ編集部です。みんなのミシマガジンで2018年11月から連載をしていた、工藤保則さんによる「46歳で父になった社会学者」が、一冊の本になりました。いよいよ本日、発売日を迎えます。

 「工藤先生ってどんな人?」そんな思いを抱かれる方へ、これまで担当してきたミシマ社のアライとノザキが、あらためて工藤先生に迫ります! 2日にわたるインタビュー、ぜひお楽しみください。

(聞き手:新居未希・野崎敬乃、構成:野崎敬乃)

工藤先生ってどんな人?

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工藤 工藤保則です。7歳の息子と、2歳の娘がいます。妻もいます。仕事は、大学で社会学の教員をしています。教員になって、かれこれ23~24年になります。

 最初に勤めた大学の所属学部は工芸学部でした。デザインと建築からなる学科の中に人文が含まれていて、そこの助手を2年やりました。次の大学では人間学部に所属して、6年間勤めました。小さい大学で、広く教養を身につけましょうという学部だったので、学生に高校とは違う学び方や調べ方を教えたりしていましたね。「社会学」というのとは遠い感じがしますよね。もっと言うと、私は経営学部卒なんです。しかも3年間ぐらい大学に行っていない時期があって、大学を7年かけて卒業したんです。

――大学に行ってなかった3年間、何をされていたんですか?

工藤 ブラブラしてましたね。映画館に行ったり、本を読んだり。大学に行きながらでも、そういうことはできると思うんです。経営学部というのが合わなかったのでしょうね。ちゃんと勉強したら面白いと思うんですが、その面白さがわからなかったんです。

 大学をやめる一歩手前の状況になっていたんですけど、たまたま本屋さんで手に取った本の著者が、行っていた(実際にはあまり行っていなかった)大学の文学部の先生だったんですよ。それで、ああこんな先生がいるんだ、と知って授業を覗きに行ったら面白くて。それをきっかけに、ちょっとずつ大学に戻り始めたんです。経営学部生ではあったのですが、文学部の社会学や人類学の先生たちのまわりをウロウロしながらなんとか卒業して、その先生たちがいた文学部の大学院に進んだんです。

社会のなかの子どもを考える

――社会学の中にもテーマがいろいろあると思うのですが、大学院ではどんなことをされていたんですか?

工藤 修士論文は、子どもの社会化(socialization)について取り上げました。何もできない赤ちゃんが、子どもから大人へと成長していく過程で、社会のいろんな規範を身につけていくんですよね。誰がそれを教えるのかって言ったら、最初は親が、そして友だちが、先生が、というふうに。だんだんと社会の一員になっていくというのが面白いなと思ったんです。

 年齢は10歳ぐらいが面白いなと。このぐらいの年齢は、抽象的な思考ができるようになる頃なんですね。算数では分数とかをやりだすのがこのぐらいで、絵を描くのでも遠近法を使って描けるようになったりとか、遊びは、複雑なルールが理解できるようになって集団遊びを楽しむようになったりとか。それまでは具体性の世界の住人だったのが抽象性も含んだ世界の住人になるというような、大きく世界が転換するのが10歳ぐらいだという研究がいろんな分野であって、社会学でなんとかそれをできないかなと思って調査をしました。

 小学生にアンケートをした結果、その時期に対人関係のあれこれがそこでぐっと伸びるんだということが出たんです。それで修士論文を書きました。博士課程では10歳の後にあたる、中学生、高校生の調査や、都市と地方の比較調査なんかをしました。

――そのときから、「子ども」がテーマだったんですね。

工藤 後付けをすると、ずっと「子どもの社会化」のことをやっていることになるんです。でも、まあ、それは、やはり後付けですね。

観察と記録

――今回、帯に吉本ばななさんからコメントをいただいたんですが、その一部に「とにかく観察と記録のあり方がすごいです」と書いてくださっています。工藤先生の「観察と記録」は私も、驚異的だなと思いました。日々の育児、家事、仕事のなかで記録をつけつづけるのはそう簡単なことではないとは思うんですが、いまの工藤先生のお話を伺っていると、工藤先生のこれまでが、育児にも通じているんだなと感じます。

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工藤 話を聞いて、記録して、ということが面白いんですよね。考えることが面白い人もいると思うんですが、私はどちらかというと、見たり聞いたり記録したりすることに面白さを感じます。今、ふと、大学院生の時に人類学の先生が、「工藤くんなあ、残るんは記録やぞ」「記録しておいたら、後で誰かが何か考えるかもしれんぞ」と言ってくれたのを思い出しました。

 自分で言うのもヘンですが、この本は考察がほとんどないように思うんです。事実の記録なんですね。あまりこねずに、素材をそのまま出している感じがしています。いつか誰かが考察してくれるかもしれませんね。

――だからこそ唯一無二の内容に、響くものがあって、淡々とした態度で出来事のひとつひとつと向き合って書かれているのが、この本の素晴らしいところだと思います。

工藤 書いた私が言うのもおかしいと思うんですけど、押し付けがましさはないと思います。素材として読んでもらえたらいいなというのがあって、そういう点では、これはある種の資料かもしれないですね。

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(息子じゅんくんの一年間の記録をまとめた自家製本。書籍の中でこの自家製本についても触れらています。)

語りに、ドヤがない

――本の中でも書かれていますが、父親の子育てについては、基本、やったらやるだけ「えらいね」「すごいね」と褒められるような傾向がまだ今の世の中にはあると思うんです。だからこそ男性が子育てのことを語るときに、「僕はこんなにやっています!」という感じが出ていると、共にやっている側からすると「いやいや、こっちもやってるんですけど」という感情が生まれてしまうというのが、子育て中の身(聞き手のひとり、新居は現在子育て中)として感じる正直な気持ちです。でも、この本のなかには「ドヤ」がないといいますか、それが男性にも女性にも響くひとつのポイントだと思います。

工藤 いま子育てをされている新居さんにそう言っていただけて嬉しいです。子育てをされている人から「ちゃうやろ!!」と言われたらあかんですしね。

――工藤先生は、保育園のお迎えに行ったり、平日は毎日家族の晩ごはんを作っていますよね。それを話すと、まわりから、「すごいね」「えらいね」とか言われることはありませんか? そういうときはどんな気持ちでいるんでしょうか?

工藤 そうですね、たしかに言われます。世の中的にはそう言われるんだな、とは思うんです。思うけれども、「あなたもどうですか」みたいに押し返すこともしないですね。「作ってるんですね」と言われて、「作ってるんです〜」という感じです。

 これから先、男性も家事や育児をするのが普通になったらいいなと思います。けど、仮に誰かが「そうなるべきだ」と強く言ってそうなるかといえば、現状ではなかなか難しいと思います。多くの人が「男性も家事や育児をするのが普通」と思うようになるにはどうしたらいのか......。それにはいろんなやり方があると思うんです。私は気負いなく普通に家事や育児をやっていって、まわりで、悩んでいたり、こうしたいけどなかなかできないという人がいたら、その時は「なにかお手伝いをしましょうか?」「話したいことがあれば聞きますよ」という態度でいたいんです。それもひとつのやり方ではないかと。

納得できているかどうかが大事

――それぞれの家族ごとに事情が異なるというのもありますよね。

工藤 それぞれの家族には、それぞれの事情がありますよね。うちの場合も、妻はあまり体力がないというのがあったので、ふたりであれこれ相談した結果、今のスタイルで落ち着いたという感じです。妻にもう少し体力があったら、また違っていたかもしれません。もちろん、子どもの成長に合わせて、役割もこれからどんどん変わっていくと思うんです。まあ、どういうかたちであれ、二人がほんとうに納得できていたらいいと思うんです。

――家族が納得してたらいい、というのは大事ですよね。家族の中で、片方は納得していなくて、片方はそれでいいと思っている、というように、家族内でも納得が成立していないということへの納得のいかなさが、SNSなどで噴出している感じを受け取るんです。

工藤 そうですよね。たとえ何か事情があったとしても、その事情に応じて、相手のことを考えて、できることはやらないと、と思いますね。

――この本は、こういう選択肢もあるよ、ということを提示していくという感じなのかなと。

工藤 選択肢というか、こんな例もあるよ、と。今回、本になったことで、見知らぬ人のところまで届く可能性が生まれたので、こんな小さな記録を通して、それぞれの方が自分自身のことを考えてくれたらほんとうにうれしいです。

後半につづく

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工藤 保則

工藤 保則
(くどう・やすのり)

1967年、徳島県生まれ。龍谷大学教授。専門は文化社会学。著書に『中高生の社会化とネットワーク』(ミネルヴァ書房)、『カワイイ社会・学』(第25回橋本峰雄賞。関西学院大学出版会)、共編著に『無印都市の社会学』(法律文化社)、『<オトコの育児>の社会学』(ミネルヴァ書房)、『基礎ゼミ 社会学』(世界思想社)などがある。好きなものは、落語、散歩、リクオ(シンガーソングライター)、「0655」(テレビ番組)。現在、7歳の息子と2歳の娘の子育てまっただ中。

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