雨宿りの木

第23回

ケアの実践・返事がなく意思の疎通がとれないと感じる相手とのコミュニケーション 2

2023.05.27更新

 こんにちは。前回は、反応がない方だからこそ、「あなたのことを大切に思っています」ということを、相手に受け取ってもらえるように表現することが大切であること、そして寝たきりになると失われがちな自分の体の内側からの情報(体性感覚)と外からの情報(見えているもの、聞こえているものなど)が実はとても重要であることをお伝えしました。

 実際のところ、寝たきりでなくとも、自分の体の中からの情報と外からの情報をしっかりと受け取ることは、どなたにとっても重要なことです。今日は、介護をする時にこのような情報をしっかりご本人に伝える意味とその方法について考えてみようと思います。

 たとえば、私は近視のためにいつもメガネをかけているのですが、大浴場に入る時にもメガネをかけて入ります。とても目が悪いので、メガネを外すと何も見えなくて怖く、危ないからです。でも、メガネを生活に必要としない友達には、一緒に温泉旅行に行った時に「え、お風呂に入る時にメガネをかけるの?」とびっくりされたことがあります。

 ケアを受ける方にとっても、同じことが言えます。私がどなたかの力を借りてお風呂に入るようになったとき、たぶん、洋服を脱ぐ前に、まず最初に「メガネを外しますね」と言われることになるだろうな、と思います。実際のところ、病院や介護の現場でこのようにケアを始めているところをよく見かけますし、それはお風呂のために洋服を脱ぐことと同じように当然のこととされています。

 しかし、介護をするときには周囲からの情報を適切なタイミングで、適切な量を、適切な方法でご本人にお伝えすることが、ご本人が安心して介護を受けるための必須事項であることを踏まえると、外からの視覚情報を得るための道具を取り上げてしまうことは、ご本人に届く情報を減らしてしまい、それによってご本人に不安や不便を敷いてしまう可能性があります。このことを介護をする側の方々が気づいていないことがとても多いと感じています。

 ケアをするときこそ、ご本人に周りの状況をよく把握してもらえるように、情報を受け取る道具はフルに活用することを、強くお勧めしたいと思います。ユマニチュードでは、ケアをするときにはいつも、以前お伝えした(第13回物語をつむぐケア)、ケアの5つのステップを行いますが、

出会いの準備:ノックをして自分の来訪を伝え、相手から来てもいいですよ、と許可を受ける。

ケアの準備:まずはケアの話から切り出すのではなく(これがとても重要!)、「会いに来ました」と告げて、これから行うケアについての合意を得る。

の2つのステップが終わったら、

③知覚の連結 :実際のケア。4つの柱を存分に組み合わせてケアを行います。

 この第3のステップを始めるときには、まずケアの間もずっと、情報が相手にきちんと届くように必要な道具を使うことがとても大切です。メガネや補聴器を使っている方に対しては、それらの道具を身につけることからケアを始めます。

 相手にメガネをかけてもらうときも、知っておくと便利なやり方があります。メガネを耳にかける部分(メガネのつる)は棒状になっているので、相手にかけやすいようにと、メガネを顔に近づけるとき、ご本人にとっては、鋭い棒が自分に向けられ、目に入りそうだと感じてしまいます。メガネをお持ちの方は、ぜひ誰かに頼んで他人にメガネをかけさせられる経験を試してみていただけたらと思います。相手のペースでメガネのつるが近づいてくるのは、結構怖いです。怖い気持ちは、認知症の方にとっては行動心理症状の引き金にもなってしまうので、できるだけそんな気持ちにならないように、ユマニチュードではメガネをかける援助の方法を提案しています。

 まず、いきなり目をめがけてメガネをかけようとするのではなく、メガネを一旦頭の上に置きます。サングラスをかけている人がそれをずらして頭の上にのっけている感じです。頭の上に置いた後で、ゆっくりとレンズの部分を下におろして鼻当てと耳の良い位置におさめます。そうすると、メガネのつるが自分の目に刺さりそうだと感じることなくメガネをかけて、十分な視覚情報を得ることができるようになります。

 もちろん、ご自分でメガネをかけることができる人には、ご本人の力を発揮していただくためにも、メガネを手渡しするだけで大丈夫です。また、そもそもの前提として、視力に合ったメガネをお使いかどうかを折に触れて確認しておくと良いと思います。

 聴覚についても同じです。補聴器をお使いの方のケアを行う場合には、まず補聴器をつけてもらいます。そこでも、いきなり「補聴器いれますね」と耳に突っ込むのではなく、正面から補聴器をご本人の視界に入れて、「これからこの補聴器を右の耳にいれますね」とその存在を認識してもらいます。お風呂の際も、お部屋を出るときに補聴器を入れて浴室に行き、洋服を脱いで一番最後に補聴器を外します。

 私たちは外からの情報を取り入れて生活しています。それはどのような状況になったとしても同じことだと思います。安心した生活のために、必要な情報を、適切なタイミングで、適切な量を、適切な方法でご本人が受け取れるよう、ケアをする周囲の方々にはご留意いただけたらと思います。

本田美和子

本田美和子
(ほんだ・みわこ)

国立病院機構東京医療センター総合内科医長/医療経営情報・高齢者ケア研究室長。1993年筑波大学医学専門学群卒業。内科医。国立東京第二病院にて初期研修後、亀田総合病院等を経て米国トマス・ジェファソン大学内科、コーネル大学老年医学科でトレーニングを受ける。その後、国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センターを経て2011年より現職、高齢者・認知症患者のケアに関する研究に従事。2011年より『ユマニチュード』の研究・日本への浸透を担い、2019年7月一般社団法人日本ユマニチュード学会を設立、代表理事に就任。

※一般社団法人日本ユマニチュード学会は、フランス生まれのケア技法『ユマニチュード』の普及・浸透・学術研究と会員間の相互交流を通じ、誰もが自律できる社会の実現を目指して様々な活動を行っています。会員としてご一緒に活動いただける方、会の趣旨に賛同してのご寄附など、随時募集しております。詳しくは、ウェブサイトをご覧ください。

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