第44回
長谷川和夫先生とご家族の経験
2025.08.06更新
こんにちは。ご家族の介護が始まるのは突然であることが多く、そのために準備をしている方はあまり多くありません。これまで自分を育ててくれた、守ってくれた親の変化を目の当たりにし、以前のお父さん、お母さんのお姿と現在の状況の違いに戸惑う方も多いと思います。しかし、それと同時に、さまざまな変化を通じて、親が子に教えてくれることはたくさんある、と私自身も経験をしています。
私は研修医時代に、講演会で精神科医の長谷川和夫先生のお話をお伺いする機会を持ちました。長谷川先生は、現在日本で広く利用されている「長谷川式簡易知能評価スケール」を考案なさった研究者です。さらに長らく「痴呆」と呼ばれていた病気を「認知症」という名前に変更する取り組みを行った、認知症研究の第一人者でもいらっしゃいます。大きな会場で開催された認知症についての講演会は、長谷川先生の穏やかで、明確なメッセージを聞き手にお届けになるもので、私は大変感銘を受けたことを今でも覚えています。
それからだいぶたった2017年に、私は新聞で長谷川先生がご自身が認知症であることを公表なさった、という記事を読み本当に驚きました。ご自分が認知症であることを広くお伝えになる方は当時あまり多くなく、そのような時に、認知症研究の第一人者である長谷川和夫先生が、ご自身が認知症になったことを公表なさったことは、その後の認知症に対する社会的意識の変化に直結するものになったと私は思っています。
ご公表になった後、長谷川先生は積極的にご自身のご様子を発信なさり、メディアの取材もたくさんお受けになりました。NHKスペシャルで放送された、「認知症第一人者が認知症になった」はこれまでも何度も再放送されているので、ご覧になった方も多いのでは、と思います。そのなかで、長谷川先生は、ご自身が感じていらっしゃることをたくさんお話しになり、また長谷川先生の毎日を支えるご家族のご様子も、「ああ、このようなサポートが必要になるのだな」という、お手本のようなものでした。研究者として記述していらっしゃった認知症は、ご自分が当事者となるとまた違った角度から捉えることができる、ということをさまざまな例をひいて教えてくださるお姿は、本当に素晴らしかったです。うろ覚えですが、日中にお出かけになるデイケアセンターについても「良いと思っていたけれど、実際行くと違うね」というような意をおっしゃったり、認知症は不安の病気である、ということもくり返しお話しになっていらっしゃったように思います。
長谷川先生のこのようなご活動を支えていらっしゃったご家族のご様子にも感銘を受けました。とくに長女の南高まりさんが、先生の外出にお付き添いになり、インタビューや講演のサポートをしていらっしゃるお姿は、お父様を大切にしていらっしゃることが手に取るようにわかるものでした。認知症をもつご家族の介護を行う際のリアリティも含め、今後私たちが何を考えていけば良いか、どうすれば良いかを提起する、本当に素晴らしいドキュメンタリーでした。
ユマニチュードのケアの実践の場を客観的に評価する、ユマニチュード施設認証制度、というものがフランスで2011年に始まりました。日本でも同様な仕組みを作りたいと考え、2021年から準備を重ねました。日本版のユマニチュード施設認証制度発足にあたり、ご家族の立場からの評価をしてくださる方を探すことになった時、長谷川先生のお嬢さまの南高まりさんに、お力を貸していただけないかご相談いたしました。
音楽家であり、精神保健福祉士でもいらっしゃる南高さんは、私たちの願いをお聞き届けくださり、ユマニチュード施設認証の審査員として「よいケアの場」の客観的評価にお力を貸してくださっています。毎月お目にかかることをいつも楽しみにしています。
毎年9月21日は世界アルツハイマーデーです。日本には「認知症の人と家族の会」という団体があり、各地の支部でさまざまなイベントが計画されています。東京支部では、9月20日土曜日の午後1時半から3時半に、新宿区立四谷区民ホールで、南高まりさんの講演会が開催されます。講演のタイトルは「父(認知症専門医 長谷川和夫)との対話~気持ちを伝え合うケア・暮らしの中で学んだこと~」です。
南高さんからのメッセージです:
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認知症の専門医であった父・長谷川和夫は、 認知症に対する正しい知識を伝え、理解を広めるために尽力しました。認知症になったことを自覚した後もできることを探し、当事者として、自らがどのような状態になり、認知症の人はどのように接してほしいと思っているかを社会に発信し続けました。 今、父がいなくなって一番心に残っていることは「父との対話」です。それらを皆さまにお伝えすることで、認知症に対する壁のようなものが無くなることを願っています。
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ご興味のある方に、ぜひご参加いただけたら嬉しく思います。
第32回 世界アルツハイマーデー記念講演会
父(認知症専門医 長谷川和夫)との対話
~気持ちを伝え合うケア・暮らしの中で学んだこと~
講 師:南高 まり さん
◇ 日 時 : 2025年9月20日(土)午後1時30分~3時30分(1時開場)
◇ 会 場 : 新宿区立四谷区民ホール (新宿区内藤町87番地)
◇ 受講料 : 無 料
◇ 定 員 : 380名 (申し込み不要・先着順)
主催 : 公益社団法人 認知症の人と家族の会 担当 : 東京都支部
問い合わせ先:東京都支部事務所TEL/FAX 03-5367-8853 火・金 10:00~15:00)