雨宿りの木

第46回

医学生・医師が学ぶユマニチュード

2025.11.28更新

 こんにちは。

 前回は9月末に開催された日本ユマニチュード学会の様子についてご紹介いたしました。「多職種で取り組む組織のユマニチュード:施設・病院・地域それぞれの課題と展望」として、全国から多くの方々にお集まりいただき、それぞれの経験の共有と、シンポジウムでの討論を行いました。そのダイジェストはユマニチュード学会のWEBサイトで公開しています。また、ユマニチュード学会の会員の方々には、基調講演やシンポジウムも公開しておりますので、ご興味のある方はどうぞご登録ください。

 今回は総会のシンポジウムの一つ、医師が実践するユマニチュードについてご紹介したいと思います。日本でのユマニチュードの取り組みの特徴の一つは、医師が主体的に参加していることがあります。世界で最も早く高齢社会を迎えている日本の臨床医が、自分たちの仕事の中で「高齢になった方々の健康を、医師としてどう支えていけばよいか」という、世界でまだ経験していない事態に直面し、その解決策について日々模索しているなかで、ユマニチュードを実践することで、その課題解決の糸口を感じているからだと思います。第7回の日本ユマニチュード学会総会では、『どうしてこんなに米国老年科医がユマニチュードに"はまった"のか?』というユニークなタイトルで、米国で老年医学のトレーニングを受け、米国・日本の病院で活躍している医師たちが、ユマニチュードの実践に、なぜ自分が魅了されているのか、についてそれぞれの経験を踏まえて語り合う、とても楽しく、面白いシンポジウムが開催されました。

 今回のシンポジウムに登壇してくださったのは、日本ユマニチュード学会の理事で、東京医療センターで働く私の同僚でもあり、ハワイ大学病院、フロリダ大学病院でトレーニングを受けた片山充哉先生、片山先生と同時期にハワイ大学でトレーニングを受けた二人の老年医学の先生:現在は長野県の市立大町病院の内科部長・関口健二先生と厚生連高岡病院 総合診療科/感染症内科診療部長・狩野惠彦先生、そして私が米国でトレーニングを受けていた頃からの古い友人で、長らく米国の大学病院で老年医学の専門医として活躍し、今年産業医科大学の医学教育改革推進センターの教授として帰国したばかりの岩田勲先生の4人の医師が、それぞれの研究や臨床の立場からみたユマニチュードの面白さや、実践した際の手応えなどについて、まさに「自分がどうしてユマニチュードに"はまった"のか」について、話してくださいました。さらにこのセッションの最後には、司会の片山先生と3人の先生方が本当に生き生きと楽しく語り合ってくださり、会場を埋めた参加者のみなさまとのインタラクティブな時間を創り上げてくださいました。聞いていた私も、とても楽しかったです。

 今回参加してくださった先生方に共通しているのは「医師・医学部学生への教育」への情熱です。良い医療を患者さんに届けるために必要なことは何か、という観点からの発言は、高齢社会を迎えた日本に欠かすことのできない視点だと思います。

 医学部の学生への教育については、私が医師であることもあり、2012年ごろからいろいろな学校からお問合せを受けています。最初に始めたのは、もう10年くらいになりますが、旭川医科大学の1年生への授業です。1年生が高齢者施設実習に出る前の準備として、ユマニチュードの基本的な考え方とコミュニケーションの方法の講義をおこなっています。最近の学生さんたちは高齢者との日常的な接触がないまま医療の専門職としての教育を受けているので、「どう振る舞えば良いか」ということの実体験がないまま実習に赴くことになってしまうことから、地域医療、プロフェッショナリズム、高齢者医療、など医学部のさまざまなカリキュラムの中でユマニチュードを取り入れてくださる学校が増えてきました。

 2025年には、旭川医科大学のほか、群馬大学、京都大学(京都大学では1年生と5年生の2回)、岡山大学、産業医科大学、長崎大学、熊本大学、琉球大学と多くの医学部の学生がユマニチュードについての講義を受けてくれています。学生さんたちは数年後には私たちの同僚として医療の現場で一緒に仕事をする仲間となってくれる、大切な存在です。科学技術の進歩によって、私たちは最先端の医療を患者さんに届けることができるようになっている一方で、「届ける技術」が求められる時代となっている現在、「あなたのことを大切に思っています」という私たちのメッセージを相手に受け取ってもらうため技術として、ユマニチュードは役に立つと常々思っているのですが、それが私一人ではなく、米国で働いてきた臨床医も、大学病院の先生方もそう感じてユマニチュードを取り組んでくださっていることをとても嬉しく思っています。

本田美和子

本田美和子
(ほんだ・みわこ)

国立病院機構東京医療センター総合内科医長/医療経営情報・高齢者ケア研究室長。1993年筑波大学医学専門学群卒業。内科医。国立東京第二病院にて初期研修後、亀田総合病院等を経て米国トマス・ジェファソン大学内科、コーネル大学老年医学科でトレーニングを受ける。その後、国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センターを経て2011年より現職、高齢者・認知症患者のケアに関する研究に従事。2011年より『ユマニチュード』の研究・日本への浸透を担い、2019年7月一般社団法人日本ユマニチュード学会を設立、代表理事に就任。

※一般社団法人日本ユマニチュード学会は、フランス生まれのケア技法『ユマニチュード』の普及・浸透・学術研究と会員間の相互交流を通じ、誰もが自律できる社会の実現を目指して様々な活動を行っています。会員としてご一緒に活動いただける方、会の趣旨に賛同してのご寄附など、随時募集しております。詳しくは、ウェブサイトをご覧ください。

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

この記事のバックナンバー

11月28日
第46回 医学生・医師が学ぶユマニチュード 本田美和子
10月27日
第45回 ユマニチュードを実践している方々の集い 本田美和子
08月06日
第44回 長谷川和夫先生とご家族の経験 本田美和子
07月03日
第43回 「好きなものリスト」がケアの役に立つ 本田美和子
05月28日
第42回 ケアをする人の定義 本田美和子
04月30日
第41回 ケアを学ぶ方法 本田美和子
03月29日
第40回 30年前 本田美和子
12月29日
第39回 ユマニチュードを学ぶ手段2 NHK厚生文化事業団福祉ビデオライブラリーと東京医療センターの教材 本田美和子
11月28日
第38回 ユマニチュードを学ぶ手段 1 TBS・報道特集 本田美和子
10月30日
第37回 社会基盤としてのユマニチュード 本田美和子
08月28日
第36回 ユマニチュードを人工知能・拡張現実を使って学ぶ 本田美和子
07月30日
第35回 正しいレベルのケア 本田美和子
05月29日
第34回 ケアがうまくいかないとき 本田美和子
04月28日
第33回 慶應義塾大学病院が取り組むユマニチュード 本田美和子
02月28日
第32回 働く人の体を守るために生まれた技術 本田美和子
01月26日
第31回 コミュニケーションを定量する 本田美和子
12月26日
第30回 救急隊が実践するユマニチュード 本田美和子
11月29日
第29回 ユマニチュードの5原則と生活労働憲章 本田美和子
10月30日
第28回 ノックはなぜ必要か 本田美和子
09月28日
第27回 ユマニチュードの理念が実現する場を作るために ~ユマニチュード認証制度と富山県立大学の取り組み~ 本田美和子
08月29日
第26回 福岡市とユマニチュード 本田美和子
07月26日
第25回 ケアの実践・暑いとき 本田美和子
06月28日
第24回 ケアの実践・入浴 本田美和子
05月27日
第23回 ケアの実践・返事がなく意思の疎通がとれないと感じる相手とのコミュニケーション 2 本田美和子
04月27日
第22回 ケアの実践・返事がなく意思の疎通がとれないと感じる相手とのコミュニケーション 1 本田美和子
03月28日
第21回 ケアの実践・ご本人に安心を届ける技術 本田美和子
02月27日
第20回 ケアの実践・食事 本田美和子
01月30日
第19回 ケアの実践・歩行訓練に誘うとき 本田美和子
11月28日
第18回 どんな記憶が残りやすいのか 本田美和子
09月29日
第17回 ご本人にとっての「今」はどこか 本田美和子
08月29日
第16回 記憶の仕組みをつかって、相手の不安を取り除く 本田美和子
07月25日
第15回 記憶の仕組みを理解する(2) 本田美和子
06月29日
第14回 記憶の仕組みを理解する 本田美和子
05月30日
第13回 物語をつむぐケア 本田美和子
04月28日
第12回 マルチモーダル・コミュニケーション 本田美和子
03月29日
第11回 立つことがもたらすもの 本田美和子
02月28日
第10回 相手と良い関係を結ぶための触れ方 本田美和子
01月30日
第9回 相手と良い関係を結ぶための話し方 本田美和子
12月27日
第8回 相手と良い関係を結ぶための見方 本田美和子
11月29日
第7回 「あなたのことを大切に思っています」と伝えるための手段 本田美和子
10月29日
第6回 「人」らしさとは何か 本田美和子
09月29日
第5回 「ケアをする人」の定義 本田美和子
08月29日
第4回 ユマニチュード誕生の原体験 本田美和子
07月29日
第3回 ユマニチュードを学びにフランスへ 本田美和子
06月24日
第2回 医療を相手に受け取ってもらうための新しい一手 本田美和子
05月25日
第1回 自分を守る 本田美和子
ページトップへ