第36回
ブースターズ、マツゲン、そして鮮ど市場......ドラフトの新しい楽しみ方
2026.10.28更新
いろいろ驚かされた巨人のドラフト
ドラフトが終わり、日本シリーズが始まりました。
私はベイスターズファンなもので、多くの人から「さぞや喜んでいるのだろう」と思われているかと思いますが、そうでもありません。
そもそも3位。勝っても負けても「3位だし」と言われるんだろうなあと今から予想できます。こうなったらもうおでこに「3」とでも書いておこうかと思っているくらいです。テリーマンみたいに。あれは「米」か。
あと、周りに巨人ファンも阪神ファンもたくさんいるので、素直に喜べないというのもあります。
そもそもミシマ社長も阪神ファンですし。
何をどう書いても角が立ちそうですし、情に掉させば流されそうなので、日本シリーズとはまったく関係ない話を書かせていただこうと思います。
10月22日に行われたドラフト会議の話です。
私が一番驚いたのは、巨人のドラフトでした。
といっても、横浜高校・織田の強硬指名からの松井監督就任の流れるようなストーリーの話ではありません。あれはザッツ読売という感じで、私の中のリトル江川やリトル桑田が大喜びしていましたが。
あと、育成ドラフトでの中学生の指名でもありません。
彼の学校はジャイアンツ球場に近いので、ふらりとやってきた少年をスカウトしたのでしょうか。「ミラクルジャイアンツ童夢くん」を思い出しました。ドームの風とか気圧とかを利用した魔球を投げる少年。それって普通に反則では?
いや、そんなメインストリームではなく、私が一番「おおっ」と思ったのは、育成ドラフト4位で巨人に指名されたマツゲン箕島の松田陸斗選手です。
ついにマツゲン箕島から指名される選手が出たかと、きわめて感慨深かったのです。
そもそもマツゲン箕島とは?
いや、その前にマツゲン箕島ってなんだという話ですね。
いわゆる「クラブチーム」です。
多くのプロ野球選手を輩出するホンダとかENEOSとかは「企業チーム」です。企業の野球部として扱われており、選手たちは基本、社員にて構成されます。
一方、「クラブチーム」はいわゆる有志のチームと言えるでしょう。ただ、企業が協賛したりサポートしたりするチームもあります。
マツゲン箕島はもともと和歌山県の名門・箕島高校のOBで作られたチームだったそうですが、のちに地元のスーパーであるマツゲンがサポートするようになり「マツゲン箕島」となったのです。
チームカラーは赤。チャンステーマは関西のチームらしく、タイガースの「チャンス襲来」。「チャーンスだーふーりぬけーかーとばせー」というあれです。
チームの多くの選手が朝、スーパーで総菜作りに励んでから練習するという苦労人ストーリーには涙を禁じえません。
「ブースターズ」の衝撃
なんでそんなに詳しいのかというと、つい先日、マツゲン箕島の応援に行ったばかりだったのです。
私はこの数年、社会人野球にハマっているのですが、その社会人野球の極北がクラブチームの世界といってよいと思います。まさに沼。
そんな沼にはまったきっかけは、昨年の都市対抗野球決勝、王子対三菱自動車岡崎でした。
仕事そっちのけで現地観戦に行った私に鮮烈な印象を残したのが、王子の九谷瑠投手でした。
もちろん、ピッチングもよかったです。
でも、それ以上に目を引いたのは、彼の球歴でした。
堅田高校→大阪大谷大学→矢場とんブースターズ→王子
矢場とん?
ブースターズ??
矢場とんが名古屋の有名な味噌カツチェーンであることは知ってます。なんなら本店にすら行ったことがあります。
てか、矢場とん野球チーム持ってたの?
てか、九谷君以前はそこにいたの?
とんかつだから「ブー」スターズなの?
そんな突っ込みどころ満載の経歴を持つ九谷選手はその後、2025年のドラフトで楽天から6位指名を受けたのです。
プロ野球の世界に「矢場とんブースターズ」の名前が燦然と輝いた瞬間でした。
そして九谷選手は1年目から16ホールド、防御率1点台の、まさにトンでもない活躍でした。
クラブチーム恐るべし。
結構ハードなクラブ選手権決勝
気になって調べてみると、他にも怪しげな(失礼)チームが数多くあることがわかりました。
ぜひ彼らの試合に行ってみたい。
ただ、クラブチームの試合を見る機会はなかなかなく、情報も限られていました。
そんな中、機会がやってきました。
今年9月7日に東京ドームで全日本クラブ野球選手権準決勝・決勝が行われることになったのです。ド平日ですが、仕事を思い切りサボって観戦に。
この日は朝から準決勝2試合が行われ、その後すぐに決勝が行われるというハードスケジュール。
組み合わせはこんな感じです。
・第一試合 兵庫県警桃太郎 対 クラブリベース
もはやこの時点で突っ込みたい箇所がありますが、そこはあえてスルーします。結果はクラブリベースの勝利。
・第二試合 マツゲン箕島 対 エフコムBC
我らがマツゲン箕島の登場です。
実はマツゲンはひそかに、クラブ選手権2連覇中の強豪なのです。
一方のエフコムは福島県郡山市に本社を置くIT系の企業。なんか応援団が気合い入ってて面白かったです。
結果はマツゲン箕島のコールド勝ち。さすが強豪。
・決勝 マツゲン箕島 対 クラブリベース
実はリベースは野球選手にトレーニングを提供する企業。歴史は浅いのですが、そんな企業が設立したチームだけあってか、社会人野球の名門出身者も多く、かなりの実力。
一方のマツゲン箕島は強豪とはいえ、あくまで地域のクラブチーム。
ある意味対照的な2チームの戦いでした。
その中でひときわ輝いている選手がいました。
ドラフトで指名された松田選手です。
とにかく、足が速い。
速すぎる。
そんな松田選手を後押しするように、マツゲン箕島の応援席では、擦り切れそうなテープに録音したと思われる応援歌に合わせて、どこかの高校から借りてきたと思しき太鼓を叩いて応援する10人ほどの応援団が懸命に応援しており、私もついマツゲン側に肩入れしてしまいました。
「チャーンスだーふーりぬけーかーとばせー」
まさか私がタイガースの応援歌を歌う日が来るとは。応援してるのはマツゲン箕島だけどな。
しかし、結果は惜敗。
残念ながら3連覇を見ることはできませんでした。
ただ、あの時見た松田選手がドラフトにかかり、感無量の思いだったのです。
次なるおもしろチームはどこか?
それにしても、と思います。
今年のドラフトの出身チームはとてもバラエティに富んでいました。
わがベイスターズもブリティッシュコロンビア大学の杉本選手を指名しましたし、ホークスは国立台湾体育運動大学(台湾)、ペンシルベニア州立大学(アメリカ)、KTウィズ(韓国)と国際色しかない指名をしていました。
また、オリックスは育成6位で、マツゲン箕島と同じスーパーを母体とする「鮮ど市場」の菅原選手を指名。
オリックスの育成6位と言えば、一部マニアの間で伝説の謎ドラフトとして名高い古長拓を選出した伝統ある順位です。オリックス、今年もやってくれました。
「日本のファンに織田選手を見せたい」という巨人のドラフト指名と、一方、国内外でバラエティに富んでいた選手指名。
見事に好対照なドラフトだったと思います。
さて、来シーズン、松田選手や菅原選手は支配下を勝ち取れるのでしょうか。
そして、来年のドラフトではどんな珍チームからの指名が行われるのか。今から楽しみです。
まさかの兵庫県警桃太郎からの指名も......?
文・松樟太郎
1975年、「ザ・ピーナッツ」解散と同じ年に生まれる。ロシア語科を出たのち、生来の文字好き・活字好きが嵩じ出版社に入社。ロシアとは1ミリも関係のないビジネス書を主に手がける。現在は、ビジネス書の編集をする傍ら、新たな文字情報がないかと非生産的なリサーチを続けている。そろばん3級。TOEIC受験経験なし。著書に『声に出して読みづらいロシア人』(ミシマ社)、『究極の文字を求めて』(ミシマ社)がある。「みんなのミシマガジン」で、『語尾砂漠』を連載中。





