復活!ミシマガジン

第18回

君はバッキー井上を知っているか(2)

2020.08.11更新

 こんにちは、ミシマガ編集部です。
 本日は昨日につづき「復活ミシマガジン」をお届けします。

 ミシマ社8月の新刊は、『残念こそ俺のご馳走。――そして、ベストコラム集』です(8月30日発刊)。バッキー井上さんが『Meets Regional』誌上で創刊号から休まず連載されている、コラムのベスト版です。

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『残念こそ俺のご馳走。――そして、ベストコラム集』バッキー井上(ミシマ社)

 バッキー井上さんといえば、画家・踊り子・"ひとり電通"、そして現在は酒場ライター・漬物屋、居酒屋の店主と様々な仕事をされてきた、その数奇な半生を綴られた『人生、行きがかりじょう』でもおなじみです。その『人生、いきがかりじょう』が刊行する約半年前の2013年4月に、「みんなのミシマガジン」でバッキーさんに就活や「磯辺の生き物」としての生き方、また飲食店での心構えまでを伺うインタビューを行いました。

 本日も「復活ミシマガジン」で、そのインタビューの後半をお届けします。

行きがかり上.jpg『人生、行きがかりじょうーー全部ゆるしてゴキゲンに』バッキー井上(ミシマ社)


※本記事は、「旧みんなのミシマガジン」にて、2013年4月22日〜4月25日に掲載されたものです。

 本特集は、ミシマ社に来ている学生さんたち(通称・デッチ)に、バッキー井上さんの話をしているときに決まりました。
「バッキーさんって、37歳で漬物屋を始めたんやって。それまでは、"ひとり電通"したかったらしいよ」
「な、なんですか、それ??」
「うーん、よくわからん」。
そんな会話の断片が、就職活動中の学生の胸に突き刺さったようです。

「なんか、自分らの生き方狭い気がする・・・。就活だけが、可能性じゃないのかも」

 そのつぶやきを聞いたミシマ社編集部はすぐさま、「生バッキ―さんに会ってみよう!」と即座に提案したのでした。
 そうして実現した本企画。ゴタクはこのへんにして、さっそく、「バッキ―井上」ご本人の肉声に触れてみてください。

(文:池畑索季、三島邦弘 写真:新居未希)

本当は医者になりたかった

―― 今の就活って野暮だと思うんです。「僕はカクカクシカジカな人間で・・・」って企業とお見合いみたいなことして。そうじゃなくて、バッキーさんみたいに、「行きがかりじょうしゃあないし、一緒に仕事しようか!」みたいな粋なことがもっとあってもいいんじゃないかなって。

バッキー 僕なんか本当は医者になりたかったんですよ。あとは、テレビ局のディレクターとか。

 でもね、それを目指そうって言う努力をしなかったんですね。〈粋/野暮〉に辿り着く前の段階で、もう挫折してるんだよ。もうダメ。努力もしてへんのになりたかったってね。いかにもなれそうな言い方してね、実はなりたいって言うてるだけでね。

―― いま何かになれるとしたら、何になりたいですか?


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バッキー 僕は医者ですよ。お医者さんと患者さんの間の人になれへんかなぁって思ったりしてる。医者の顔だけするんですよ。お医者さんに怒られるかも知れないけどね。専門のお医者さんたくさんいてね、患者さんの言う事を聞く役と伝える役。

 将棋の棋士の渡辺竜王っていはって、物凄い強いんですよ。渡辺さんがお医者さんだとしたらね、渡辺さんが対応するのとね、中井喜一とか堤真一がね、「お腹を見せてごらん」って言うのじゃあやっぱり違うと思うんだよね。そんなんできないかなって思ってる。

三島 まさに今してると思います!

バッキー はあ??

(一同、笑)

―― 就職活動について、どう思いますか?

バッキー 俺らの頃は「あそこの会社、役員にお前の親戚おらんしダメやろ」とか、そんなんよくあったけど。行きたいところってたくさんあるよね。多くの人がそんなふうに思っていて、落とされる人の数も延べにしたら多くなって、つらいよね。

会社の人も苦しんでる

バッキー 僕の仲の良い後輩が就活をサポートしているような会社でずっと働いていてね。そいつはねぇ、もう禿げてましたよ。ボーボーやった毛がね、久しぶりに見たら禿げてました。「もう5年前とちゃうんですわ」「きついんですよ」って。10年前はよう飲んどったんですけどね。今はもうそんな時間も余裕もないみたいで・・・禿げてます。会社の人たちも苦しんでるんでしょうね、たぶん。しゃあないね。

咎める態度はあかん。セコさが重要

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『京都店特撰 たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯ってる』バッキー井上(140B)

バッキー 就活もね、咎める態度を取ると、やっぱり咎められるんちゃう? 一緒にごはん食に行って「これうまないなぁ」とかばっかり言いよる奴おるんですよ。やっぱりしんどいもん、一緒にいてても。

 うまないのはうまないんやけど、まぁええやんけ別に。しゃあないやん。店の人に「来てくれ」って言われたわけでもないしねぇ。どうせ食べんのやから。

 それより、「醤油もソースも両方かけたろうか!」とか言うてね。俺はずっとそんな感じ。うまないわぁとか思ったら、「これこんなことやったらどうやろ」って実験したり。まぁ、料理屋さんは怒らはるんやけどね。そこでまた赦してもらおうとする態度が出るんですよ。セコいでしょ? セコさが重要ですよ、やっぱり。

 やっぱり、調べ物するにしても、調べたらポンと出てくるからね。途中のプロセスがないからね。そのプロセスがあって、脱線したり、間延びしたりして、ちょっと頭も身体も緩くできるんだけど、どんどん結論ばっかり言うから、その緩くなるところがね。

 柔らかい地帯みたいな所を歩かないで、そういうところばっかりをピョンピョン飛んでいってる感じがする。脚が疲れてるんちゃう? 膝いわしてますよ。藁の所とか、芝生の所とか、ぬかるみで歩くスピードが遅くなったりすると、横を見たりできるんだけどね。

 ピョンピョンと行くと、横なんか見えへんもんな。次の着地点しか。それは怖いよね。そやから、今就活されてる人だけが厳しいんではないと思いますよ。社会全体がね。

モテることを選ぶ

―― もし、バッキーさんが今の就活生くらいの年だったらどうしますか?

バッキー ITのなんかやってるんちゃうかなぁ。なんかそんな気がするけどね。なんやろなぁ・・・モテる・・・それくらいの年やったら、モテることを選択しますわ。たぶんね。ほんでモテることって言うても、無理なことが多しね。

 例えば、F1ドライバーとか、ミュージシャンとか。そうやって、これ無理これ無理って消していって、残った中で、これが一番モテるんちゃうかなぁっていうのがあるでしょ。そんなんを選ぶんちゃうかなぁ。それが正直なところやと思うね、ボクは。

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 でもね、広告のところに入ったときは給料なんか極端に安かったし、彼女ができてデートの約束をしても、先生が「帰る」って言うまで帰れないんですよ。だから約束なんかしても反故になることばっかりやしね、それはきつい旅ですよ。

 そんで先生と2時3時まで付き合うにしても、先生は昼3時とかから来てもええねんけど、俺は一応新入社員なんで、朝9時に行って掃除とかしなあかんわけ。それはきついなぁ。

 デートもできひんしね。ほんでどうなるかって言うたらね。女の人と会うたりしても短い時間しかないわけですよ。で、お金もないでしょ。だから、カッコイイこと言うんですよ。「俺はこんな仕事やってんねん」って。それでちょっとでも振り向かせようとするわけですよ。

 でもやってる言うてもねぇ、展覧会のプロデュースやってるにしても、自分がやってることはキャプションボードの発泡スチロール切ったりね、やってる言うてもそんなもん。それを「俺はあのドイツの作家の展覧会やっとる」って。まぁ言うわけですよ。言うてる間にそんなことになるんちゃう?

予約したら損

バッキー 取材のときにメモ取るでしょ。メモをする時は字がちっさい方が得なんですよ。ちっさければちっさいほど得。ストロークが小さいから、早いんです。

―― ますます読めなくならないですか?

バッキー 読めなくなります。でもね、なんかわかるんですよ。字が読めなくても、その時の自分に復元できるんですよ。何が書いてあるかわからないけど、書いてた自分に戻れるんですよ。戻ると早いんでね。まぁ試合としては損やね。

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 取材した時の自分ってもういないし、その何日か前より成長してるやんか。「あんな料理食べたないわ」とか思ってたり。ま、これに書いてることとかでもね、要はね結局、うまいのを食べたいとかね、予約した時点でね、割と損な戦いに入ってるんですよ。

 うまいもの食べられても、予約したからちゃんと空いていて、勝ってもね、自分が予測した通りなんです。それって割と損な戦いなんです。勝ってもチャラ(元)って言う。うーん、そやから、「それは損やなぁ」って気づいたねぇ。

―― パッと入った店がおいしかったら得した気分になりますよね。

バッキー それで人生変わっていくこともあるしね。予め知っている所に、予め知っている満足を求めて行っていると、それで100点満点でも、なんかあんまり得な感じがないから。

 でも予約しないで行くとね、たまたま店が閉まっていたりするじゃないですか。「残念だな」って言うことで、行ったことないけど隣の店に入ってみたとするでしょ。そこで良いものが出てきたり、良いサービスがあるとは限らないじゃないですか。自分自身が向こうの人から、「おいしいもの出してあげたいな」って思われるよう自分になっていけば、「あ、おいしいもの出してあげな」とか、「この人顔汚れてるし、おしぼり3つ出してあげよう」とかね。

 そういうふうでなしに、「うまいもんどれやー」とか、「なんとか得したろ」とか、「遅いなー」って思ったりとか、そういう「懲らしめたろう」ばっかり思って行くと、もう店もすぐにわかるんで、「この人はあんまり来てほしくない」とか思うんですよ。「この人が毎日来はったら楽しいやろな」とか思ったら、対応が良くなったりするんちゃうかなぁ。

 出来るだけそんなふうにありたいなぁって。お金ないけどおいしいもの食べたいなぁとか思ったりするやん。そしたらまぁ、そういうオーラ出すんですよ。「お金ないけど食べたい」っていうオーラをね。

―― あんまり願望は隠さないんですか?

バッキー いやいや、隠しますよ。微妙に出すんですよ。

「咎める」より「赦す」

バッキー 将棋で言うとね、相手が疑問手指した時はね、それに対して攻めることを「咎める」っていうんですよ。相手のミスを咎めていくっていう風に言うみたいなんだけど。

 僕はね、「咎める」っていうことをお店とか人に対してやっていると、いくらお店や人に勝ってもね、そこに潤いってないもんなぁって。

 それやったら「赦す」方がいいね。うどんに指バーンって入って持ってきはって、麺のびてて、出汁も水くさくても、「赦す!」みたいな感じでね。「また来るよ」って言うて。赦す方がいいよ。店も人もね。咎めるのはゲームだけでいい。

磯辺の生き物

バッキー 僕のところでようアルバイトしてくれる人とか、一緒に僕が飲んだりする人とかは、磯辺の生き物な人が多いと思ってるんですよ。


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 海のバーンって開けたところだったらあまり変化しないでしょ。磯の波打ち際とかやったら、変な虫とかおるでしょ。ヒトデとか、ウニとか、イソギンチャクとか、虫とか、色んなもんがウヨウヨ。そういうふうになりよるんですよ。普通やったら生きていけないから、岩の隙間に入ってその隙間に来る魚だけ狙ったりとか、変化してくるでしょ。大海原やったら、変化の度合いって波打ち際に比べたら少ないと思います。まぁ、あんまり俺知らんけど。多分そうなんちゃうかな、って適当に言うんやけどね。回遊魚ってどれも同じ顔してるやん? 群れるし。

 だから心折れてもね、「行きがかりじょうや」って言うてたら、勝手にそういう形になるんですよ。いびつな形で生きて行けるんですよ。

 談志師匠が『人生成り行き』っていうような本書いてはるけど、「成り行き」より「行きがかりじょう」の方がハードボイルドで格好いい。

 「成り行き」って成り行き任せって感じやけど、「行きがかりじょう」は「仕方ない、つらいけどやらなしゃあない」みたいなね。ちょっとハードボイルドでしょ。

  【終】

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