復活!ミシマガジン

第12回

本屋さんと私 青山ゆみこさん編(前編)

2019.12.07更新

1207.jpg

 本日で発刊からちょうど2週間となる青山ゆみこさんの『ほんのちょっと当事者』。読んでくださった方々の感想も徐々に届き始め、おかげさまで増刷も決まりました。ありがとうございます。そして本日は、「旧みんなのミシマガジン」で反響が大きく、再掲載のご要望が多かった、青山ゆみこさんの「本屋さんと私」を再掲載いたします。インタビュー当時は『人生最後のご馳走』の単行本発刊からすぐにタイミングだったのですが、なんと今年の9月には文庫にもなりました。解説は『現代の超克』の著者でもある、若松英輔さん。『ほんのちょっと当事者』と合わせて手にとっていただけたら嬉しいです。


 ※本記事は、「旧みんなのミシマガジン」にて、2015年11月10日〜11月12日に掲載されたものです。当時と病院の形態が変わっていますが、ここでは取材時の雰囲気と空気と伝えるためにそのまま掲載いたします。

 「自分の食べるものが自分を形づくる」という、当たり前だけど、一番大切なこと。この9月に出版された青山ゆみこさんの『人生最後のご馳走』(幻冬舎)の「はじめに」には、《一般の病棟で、まるで画一的なモノのように扱われて「自分」がなくなる気がしたという患者さんもいた》とあります。
 本書で取り上げられているのは、淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院で行われている、患者さんが希望した料理を作る「リクエスト食」という「食」のケアの取り組みです。患者さん14名や病院スタッフへのインタビューを通して浮かび上がるのは、患者さんやその家族、そして彼らを支える病院スタッフのあたたかな物語。
 こんなに素敵なインタビュー、そして文章を書かれる青山さんはいったいどんな方なんだろう......。新人タブチが本のこと、そしてインタビューについて伺ってきました。

(聞き手・構成・写真:田渕洋二郎)

インタビューと合気道の気になる関係(青山ゆみこさん編)

1110-2.jpg


―― 『人生最後のご馳走』の取材は、これまでとは違う取材スタイルになったそうですね。

青山 そうなんです。雑誌編集をしていた頃から、取材経験は数限りなくありましたが、たいていは、まず自分の「聞きたいこと」があって、それを聞き出していたような気がします。限られた時間の中で、文章にまとめるための材料を、効率良くどう引き出すかを考えて、インタビューを行うような感じ。
 でも、ホスピスの患者さんにお話を聞き始めて、自分のそういう姿勢に違和感を持ったというか、それってすごく患者さんに失礼なことだと思ったんです。
 ホスピスの患者さんには、限られた時間しかありません。そのあまりに貴重な時間を、取材という名目で、あくまで自分の都合で奪うようなことをしているのだと。その上、自分が聞きたいことだけを話してもらうって、そんな行為はどうなんだろうと、はっとさせられたような気持ちになって。

 取材の大きなテーマは「食」だけれど、そうじゃないことでも何でも、とにかく患者さんが話したいと思われることを聞かせていただこうと、やり方を切り替えたんです。これって、取材として効率は良くないし、中には10時間以上お話を聞かせていただいた患者さんもいて、でもほとんどは原稿には使えません。ただ、インタビューをきっかけに「場」と「時間」を共有することが、私だけではなく、患者さんにとっても少しは良い時間となればいいなと思って。まあ、それもこちら側のある意味勝手な願望なんですが。

―― そのインタビューの場をつくるときに、意識されたことはありますか...?

青山 わたしは思想家の内田樹先生の主宰する合気道の道場に入門していて、この9月で4年目なんですが、この本の取材は、合気道をしていなかったら別のカタチになったような気がしました。
 合気道では、相手との関係性によって、自分の適切な立ち位置が決まるということがありますが、先ほど話したようにインタビューのやり方を変えたのは、つまりわたしの立ち位置を変えたということなのだと思います。
 普段のインタビューでももちろん気にしていることだけれど、ホスピスでの取材では、ちょっとした気配や気持ちの変化から、ああ、これは話したくないんだなというふうに、患者さんの気持ちをできるだけ感じるようにして、とにかくその「場」をお互いに気持ち良く共有することを大切にしたいと思ったんです。それは、合気道で大事にしていることにとても近い気がします。

 あのね、患者さんと一緒に過ごしていて、時々、とても気持ちが良くなる瞬間があったんですよ。それは、患者さんが、気持ちが良いと感じてくれているからだと思いました。楽しそうにお話しいただいたら、単純なものでこっちももっと楽しくなるでしょう。インタビューの場は、わたし一人ではつくれません。相手と一緒につくる。そのことも、合気道と通じるような気がします。
 今日もわたしはとても気分よく話をさせてもらっていて、それは田渕さんがそういう場をつくってくれているからなんですよね、きっと。インタビューって、何を聞くかよりも、そういうことがいちばん大切なんじゃないかなあ。

一人ひとりに寄り添う「リクエスト食」のように書く

―― 患者さんによって、一人語りだったり家族との対話だったりと、文章形式が異なるのはなぜですか?

青山 編集者でもあるので、インタビュー集としてまとめる場合、ある程度、文章形式を統一した方が読みやすいことはわかっていました。
 ただ、今回のインタビュー状況は本当にさまざまで、ご本人がすべてお話しくださった場合もありますし、患者さんによっては、投薬の影響で眠気が強くてお話しいただくのが難しい日もあって、ご家族の方にほとんどを聞かせていただいた方もいます。それを無理に統一の文章フォーマットでまとめることに、強い違和感があったんです。

 取材時に感じた場の空気感とか、ご家族との間に流れる独特の温度とか、わたしにはとてもあたたかく感じるものが多かったので、そうした言葉にならないものも読まれる方に伝えるには、どうしたらいいだろう。そうだ、なるべく場を再現するようなカタチしていこうって。

 取材から構成から迷うことばかりでしたが、いちばん迷ったことは、どの言葉を書き残すかという選択でした。わたしが選択する言葉が、ある人の人生を決めてしまうという責任を感じて、書き手としてはこれまでにないプレッシャーでした。
 迷いに迷って、皆さんの言葉を書き起こしたものを読み返すうちに、インタビュー時にこのお話は楽しそうにしてくださったなと思い出すと、わたしまで楽しい気持ちになって、そうだ、こういう「ご本人が話したがっていた」ことをできるかぎり拾っていこうと決めました。
 結果的にこうとしか書けなかったってことなんですね。いま話しながら、改めてそう思います。

表紙に込められた意味

―― とてもシンプルな装丁ですね。意図したことはありますか?

青山 「ご馳走」とタイトルにもあるくらいだから、この本は食べ物がテーマなんですけど、それだけでもないでしょう。たくさんの食にまつわるエピソードから、患者さんの人生を垣間見せていただくことになりました。付き添われるご家族や、患者さんを支える病院スタッフからもやっぱりそう。この本には、いろんな方のたくさんのメッセージがこめられています。
 お話を通して、いつも皆さんから贈り物をもらっているような気がしていたんです。そこには、わたしがいただいたものだけではなくて、患者さんからご家族への贈り物を預かったような感覚もありました。そんなふうに託されたと感じるメッセージが、今度は読んでくれる方への贈り物になればいいなと思いました。

 幻冬舎の担当編集さんが装丁を依頼した鈴木成一デザイン室から、このデザイン案が上がってきたのを目にしたとき、まさに思っていた通りの大切な贈り物を包んだようなデザインになっていて感激しました。ぱっと見て、中に何が入っているのかはわからないけど、なにか大事なものが入っているような。
 患者さんのご家族の中には、「家に置いていて嬉しくなるような本になってよかった」と言ってくださった方もおられました。それはとても嬉しかったです。

―― 本の中の、本文とは直接は関係がない病院内の写真も素敵です。

1110-3.jpg(左)『人生最後のご馳走』p.63より/(右)同書p.87より

青山 ありがとうございます。写真家の福森クニヒロさんが、料理の写真に加えて、病院の空間も切り取ってくれました。
 患者さんが、ご飯を美味しいと感じて食べられるようになったのは、なによりも病院のスタッフの細やかなケアがあってこそなんですが、それはこのホスピスの空間にも表れていました。柔らかい間接照明が隅々まで届いてどこも明るくて、ゆったりと穏やかな時間が流れている。あちこちに目にも優しいぬくもりを感じるようなオブジェが飾られていたりね。そうした、患者さんが普段目にしているものを、読者の方と共有したいという気持ちもありました。

 ホスピスは抗がん治療や延命治療をしないので、一般病棟で目にするようなどこか威圧感のある医療器具を目にすることはありません。病室といっても、シンプルなホテルのようなお部屋なんですよ。病院であることを忘れてしまうような。
 消毒薬の匂いではなく、アロマのいい香りが漂っていて、私も取材でお邪魔するといつもリラックスしちゃって、なんだかいつも眠たくなってましたね(笑)。
 このホスピスでは、できるかぎりのご本人の希望を受けていて、ペットと一緒に過ごす方もおられるそうです。そうした場所で、なんというか、患者さんはみんな「穏やかに暮らしている」ような印象を受けました。治療の場ではなくて、日常を過ごしているような。

認知症高齢者のグループホーム「むつみ庵」と、ホスピス

―― もともと「ホスピス」に関心をお持ちだったのですか?

青山 実はそうではないんですよ。ただ、ホスピスを取材しようと思ったきっかけはありました。
 宗教学者で、如来寺住職の釈徹宗先生が、大阪の池田市で「むつみ庵」という認知症高齢者のグループホームを運営されています。たまたまそちらにお邪魔する機会があったんです。わたしにとっては、それが初めて目にした終末期を過ごすための場所でした。ある意味「終の棲家」ですよね。
 むつみ庵は古民家を改装した木造の一軒家で、入居者の皆さんがスタッフと共に共同生活を行っています。それまで認知症の方って、徘徊とか異食といった、なんだか怖いようなイメージを持っていたんですけど、むつみ庵では皆さんがあまりに穏やかに普通に暮らしていてびっくりしたんです。

 その古民家は、もともと植木屋さんのお宅だったそうで、庭が広くて立派な植木がたくさん植えられています。家の中からその庭へといつでも出られるように開け放しにしていて、皆さん自由に過ごされています。そうすると、どこか遠くへ行ってしまったりという危険な徘徊する人がいないそうです。それまでに暮らしてきたように、普通の家で過ごされているので、環境の変化や拘束によるストレスもなく、認知症の異常行動のようなものはあまり出ないらしくて。そのせいか、一見して皆さんが認知症だとはわからないほどでした。なんだかね、認知症という病名はあるかもしれないけど、ここで暮らして命を全うすることは、ひとつの自然死のようなものなんだなと思いました。

 それも含めて、病院での死を当たり前のように感じていたわたしには、それまで暮らしてきたように最後を迎えられる場所があることが、衝撃ともいえる驚きでした。
 淀川キリスト教病院のホスピスのリクエスト食の取り組みを知ったのは、むつみ庵にお邪魔してすぐのときだったんです。ホスピスという病院ではあるけれど、そこも普通に食べて普通に最期を迎えるという場所なのかな。そんな場所があるなら見てみたいと、強く関心を持つようになったんです。

1111-1.jpg「むつみ庵」公式HPより

―― むつみ庵は、バリアフリーのいわゆる高齢者施設とは違うようですね。

青山 そうなんです。全然違う。普通の古民家だから、段差も土間も縁側もあります。階段なんてわたしでも注意して上り下りするくらい結構急なんですよ。でも、そういうことが結果的に認知症の方にも良いそうで、段があれば危ないから注意して歩こうとするし、生活する感覚が落ちないんだそうです。
 むつみ庵では、最期までそうやって普通に暮らして命をまっとうされた方がおられます。私がお邪魔した時点で、それまでお二人看取られたと釈先生にお聞きしました。
 
 昔の人も、そんなふうに自分の家で普通に暮らして、亡くなっていったんですよね。でも、わたしもそうだけど、現代では、病院で死ぬのが当たり前みたいに思い込んでいる。あれ、なんでそんなことになったのかなって、今さらのように疑問を持つようになって。むつみ庵でも、死亡確認は医師に行ってもらうそうですが、それは病院で亡くなるということとはまったく違いますよね。

 淀川キリスト教病院のホスピスは、病院なんだけど、できる限り普通に暮らして、つまりその人らしく生ききるという考え方をされていて、むつみ庵とも近いものを感じることが多かったです。

後編は明日掲載です)

編集部からのお知らせ

2019年12月7日(土)『ほんのちょっと当事者』刊行記念・青山ゆみこさん×平川克美さんトークイベント開催!@隣町珈琲(東京)

隣町珈琲ブックレビュー対談「平川克美 著者と語る 第十四回 ゲスト 青山ゆみこ」

■日時:2019年12月7日(土) 14:00〜(開場:13:30)

■出演:
・青山ゆみこ(エディター・ライター)
・平川克美(文筆家・隣町珈琲店主)

■参加費:
・3000円(1ドリンク付)

■お申込み
参加ご希望の方は、隣町珈琲Facebookイベントページの「参加予定」ボタンをクリックするか、
隣町珈琲 TEL:0364513943 までお問い合わせください。
予約が完了となり、清算は当日現金にてお支払いただきます。複数分の予約をご希望の方は、隣町珈琲にお電話(03-6451-3943)にてお申込みください。
また、キャンセルの場合は、隣町珈琲にお電話をいただくか、Facebookからお申込みいただいたお客様は「参加予定」を「不参加」にしてください。
※「興味あり」ボタンは予約になりませんのでご注意ください。
※ 直前のキャンセルはなるべくご遠慮ください。

詳細はこちら

2019年12月21日(土)『ほんのちょっと当事者』刊行記念・青山ゆみこさんトークイベント開催!@隆祥館書店(大阪)

■日時:2019年12月21日(土) 15:00〜(開場:14:30)

■出演:
・青山ゆみこ(エディター・ライター)

■参加費:
・3,260円(内訳:参加費1,500円+『ほんのちょっと当事者』1,760円 )
 ト-クイベントのみ:2,000円 当日の場合:参加費500円アップになります。
(要予約・事前購入制とさせていただきます。申込み順)

*振込先 三井住友銀行上町支店 (普通) 1353923
                カ)リュウショウカンショテン

※ お振込みのお客様は、振込票をご持参ください。

■お申込み
隆祥館書店 TEL:06-6768-1023

詳細はこちら

2020年1月18日(土)『ほんのちょっと当事者』刊行記念・青山ゆみこさんトークイベント「今日もちょっと当事者」@1003(神戸)

■日時:2020年1月18日(土) 18:30〜(開場:18:00)

■出演:
・青山ゆみこ(エディター・ライター)

■参加費:
・1,500円(お茶付き)

■お申込み
1003のメール・電話・店頭にて受付。
お名前・参加人数・当日連絡のつく電話番号をお知らせください。
連絡先 E-mail:1003books@gmail.com
TEL:050-3692-1329

詳細はこちら

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

この記事のバックナンバー

02月23日
第17回 言葉はこうして生き残る 河野通和『言葉はこうして生き残った』発刊記念インタビュー ミシマガ編集部
02月21日
第16回 周防大島に「宮田さん」を訪ねる。 ミシマガ編集部
02月18日
第15回 ボクは悩める坊さん。~ミッセイ和尚、2冊目を書きあげることができるのか?(後編) ミシマガ編集部
02月17日
第15回 ボクは悩める坊さん。~ミッセイ和尚、2冊目を書きあげることができるのか?(前編) ミシマガ編集部
01月13日
第14回 暖ドリ! 寒さを乗りきる 暖のとりかた (後編) ミシマガ編集部
01月12日
第14回 暖ドリ! 寒さを乗りきる 暖のとりかた (前編) ミシマガ編集部
12月27日
第13回 本屋さんと私 滝口悠生さん編(後編) ミシマガ編集部
12月26日
第13回 本屋さんと私 滝口悠生さん編(前編) ミシマガ編集部
12月08日
第12回 本屋さんと私 青山ゆみこさん編(後編) ミシマガ編集部
12月07日
第12回 本屋さんと私 青山ゆみこさん編(前編) ミシマガ編集部
09月25日
第11回 森の案内人・三浦豊さんと行く! 京都御所ツアー(2) ミシマガ編集部
09月24日
第11回 森の案内人・三浦豊さんと行く! 京都御所ツアー(1) ミシマガ編集部
08月26日
第10回 大島依提亜さんに聞きました!『今日の人生』の秘密など ミシマガ編集部
07月27日
第9回 本屋さんと私 山下賢二さん編 ミシマガ編集部
05月06日
第8回 Born to Walk!〜「心の時代」の次を探して(2) ミシマガ編集部
05月05日
第8回 Born to Walk!〜「心の時代」の次を探して(1) ミシマガ編集部
03月03日
第7回 細川貂々さんとツレさんに聞く! 電車と子育て ミシマガ編集部
02月05日
第6回 〈戦争できる国〉にしないためのちゃぶ台会議 戦後70年、元海軍兵の言葉を聴く ミシマガ編集部
12月19日
第5回 『上方落語史観』(140B)発売記念トーク 髙島幸次×笑福亭たま×久坂部羊(2) ミシマガ編集部
12月18日
第5回 『上方落語史観』(140B)発売記念トーク 髙島幸次×笑福亭たま(1) ミシマガ編集部
11月18日
第4回 「未来の今日の人生」 ミシマガ編集部
11月13日
第3回 増田喜昭×後藤美月 自分の人生に落とし前をつける絵本 ミシマガ編集部
09月24日
第2回 僕たちの世代 光嶋裕介×後藤正文×三島邦弘(2) ミシマガ編集部
09月23日
第2回 僕たちの世代 光嶋裕介×後藤正文×三島邦弘(1) ミシマガ編集部
07月30日
第1回 古代文字で写経 安田登 ミシマガ編集部
ページトップへ