復活!ミシマガジン

第28回

『ぽんこさんの暮らしのはてな?』発刊からちょうど1年!

2023.07.16更新

 こんにちは。ミシマガ編集部です。
 昨年の7月15日、ウルバノヴィチ香苗さんの『ぽんこさんの暮らしのはてな?』(ミシマ社)が発刊されてから、昨日でちょうど丸1年。
 そこで本日は、刊行記念として開催した、著者のウルバノヴィチ香苗さんと、経済記者で『おカネの教室』(しごとのわ)の著者高井浩章さんのお二人のインスタライブの一部を紹介した記事を、復活掲載いたします。
 どちらの本も日常に接する何気ない疑問を、わかりやすく伝えるという共通点があります。
 ウルバノヴィチ香苗さんはどのようにして独立し、作品を出すに至ったのか。会社員として描いていたイラストと、自分の作品として描くようになったイラストとの違いは? わかりやすく物事を説明するコツとは? 
 公私ともに仲が良い異色の組み合わせのおふたりの対話を、ぜひお楽しみください。

ぽんこさん書影(帯あり).jpg

『ぽんこさんの暮らしのはてな?』(ミシマ社)

ぽんこさんは、ググらない

高井 『おカネの教室』を書きました、高井と申します。仕事は新聞記者をしています。普段、お堅い文章ばかり書いているのですが、『おカネの教室』は柔らかい文章で書きました。

香苗 堅い記事を書いている方とは思えない、文章ですよね。

高井 素はこっちなんです(笑)。でも新聞を書いていると、その文体が人格に乗り移るんですよね・・・。

香苗 『ぽんこさんの暮らしのはてな?』を書きました、ウルバノヴィチ香苗です。私は漫画を書いているので、職業欄に漫画家と書くことが多いんですが、漫画だけではなく、アニメーションやイラストレーション、本の挿絵をさせていただいていたりしています。

高井 そうか。僕の中ではイラストレーターが漫画を書いているという認識でした。YouTubeのえんえんと人がご飯を食べている動画とかは、アニメーションですよね?

香苗 はい。そういう方面で聞かれるときは、アニメーターって言います(笑)。

高井 そうですか(笑)。美味しそうな幸せ動画ですよね。親子丼のやつずっと見ちゃうんだよね。

香苗 嬉しいです(笑)。

ひたすら親子丼を食べるループアニメ

高井 YouTubeで有名な香苗さんですが、本は今回がデビュー作ですよね?

香苗 そうですね。書籍としてはデビュー作です!

高井 いや〜面白かったです! ぽんこさん調べるとき、ググらないんだもん(笑)。デジタルデトックスにもなって、そこがすごくよかった。これは、紙の本で読むのがいいですね。それと、子供のころ、学研まんがのひみつシリーズ、『できるできないのひみつ』をよく読んでいたので、『ぽんこさん』を読んでいるとすごく懐かしい感じがしました。

香苗 ありがとうございます(笑)。

よりよいものを作ることに集中したい

高井 香苗さんは昔から漫画家になろう、と思っていたんですか?

香苗 17、18のころ、先生に、「イラストレーターや漫画家は一部の選ばれた人しかなれないよ。その覚悟があるの?」って言われて、そこを押し切るだけの強さがなかったので、漫画家は諦めました。同時にホームページをつくるのは好きだったので、WEBデザイン系の学校に行って、そのままweb系の会社に就職しました。

高井 そうだったんだ。

香苗 でも最初に入社した会社がお給料出なくなっちゃって(笑)。

高井 人生の転機が強制的に(笑)。

香苗 新卒だったから、「社会は厳しいなあ〜」って思いました。お金が出なくなったりするんだなあって。そのあと、同じようなデザイン会社に紹介で入りました。そこでウェブコンテンツとか、イラストレーションとか、アニメーションとか描いて、10年間はずっと会社員をしていました。

高井 で、そこからどう独立されたんですか?

香苗 会社にいた時は、上司や直近のクライアントとか身近な人が喜びそうなものを作ろうとしてしまっていたんだけど、自分の責任と価値観でより良いと思ったものを作りたくなったんです。

高井 そうでしたか。

香苗 夫も似たような仕事をしているんですが、お互い会社で疲れていたというか、大変そうだなって思っていました。そんな相手を見るのも辛かったので、それだったらお互い助け合って生きようと思って、独立しました。

高井 ええ話や〜。

腑に落ちれば忘れない

高井 会社員として描くイラストと独立して自分の作品として絵を描くというのは、違いますか?

香苗 自分の実名でやっているのもあって、恥ずかしいものを出したくはないな、と余計に思っています。それと会社員のとき、「クライアントさんの欲しいもの」ということで、どこか責任を分担しているところがあったんですが、フリーランスになってから自分で責任を持ちたいなあと思っているので、これを読んだ人が、傷つくようなことは書かない、何か疎外されたような気持ちになったりとか、そういうようなものは、書きたくないなあとは思っています。絵柄というよりは、書く内容とかはすごく気をつけるようにしていますね。

高井 「インクのはてな?」「録音のはてな?」などありますが、これって香苗さんご自身で、選んだんですか?

香苗 そうです!

高井 たとえば、「野菜冷凍のはてな?」とかだと、どうやって冷凍するのがいいんだろう、と思って、調べるということですよね?

香苗 そうですね。『暮らしの手帖』とかで家庭の知恵なんかをみるのも好きなんですけど、それを見たときは覚えていられないことが多いんです。たとえば、お米の虫よけに唐辛子を入れると、虫が湧かないっていうのがあるじゃないですか。これ一度、「そうなんだ!」と思っても、忘れてしまうのは、「なんで唐辛子なんだろう?」とか、「唐辛子の代わりに何があるんだろう?」って、疑問が解消されていない、腑に落ちてないからだと思うんです。

高井 この本を読んでいると、書いている香苗さんご自身が納得いったんだなというのが読んでいてわかるんです。ここまで調べて、ここまで絵にして、ここまで書いている。

香苗 まさに(笑)。何かを10説明しようとしたら、100とか1000とか、知っていたほうが、よりわかりやすく10説明できると思うんです。

高井 なるほど。それで読んでいて、気持ちいいんだなあ。豆知識を集めたような本はたくさんあるけど、そもそも本人がわからなかったところから、納得して、「ちょっと面白いことわかったから聞いてよ」っていう感じで、語りかけてくる感じがいいですね!

香苗 ありがとうございます!

登場人物が、自分ごととして説明してくれる

高井 私の場合も、お金って身近で、それこそ経済学者とかが、いろんな本だしていると思うんですけど、読んでもね、納得がいかないんですよ。腹からわかったみたいな感覚は得られないんですよね。それだと、応用が効かない。

香苗 応用か・・・。

高井 『おカネの教室』の場合、「かせぐ」「かりる」「もらう」みたいな、みんな一度は使ったことがある表現で、経済の仕組みを説明したんです。『ぽんこさん』と同じく、登場人物が出てきて、自分ごととして説明してくれると、スッとお腹に落ちますよね。

香苗 そうですね。

高井 私の娘が当時、小学生だったんで、ごちゃごちゃ書いても読まないし、忘れちゃうわけです。でもお話だったら次が気になるじゃないですか。自分と同じくらいの人が出れば共感し得るという、そういう人物の置きかたとかは『ぽんこさん』と似ていますね。

香苗 そうですね。

高井 ところで、続編は出ないんですか?

香苗 今のところは未定ですけど、幼馴染のお子さんが、発売してから熱心に読んでくれて、嬉しいです。ぽんこさん次出ますかって? って、聞いてくれたりとかしてくれます。ぽんこさんの本名ってなんですか? とかも(笑)。 

高井 いいですね(笑)。

香苗 後書きにも書いたんですけど、『ぽんこさん』をきっかけに、自分で気になっていることを調べることを、自由研究なり趣味として、してくれたら嬉しいなあと思っています。

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