復活!ミシマガジン

第27回

中田兼介×本上まなみ 「教えてもえもえ博士!もっと いきもののりくつ」

2023.07.09更新

 4月に発刊した本上まなみさんと澤田康彦さんのエッセイ『一泊なのにこの荷物!』。発刊直後から多くのメディアに取り上げていただくなど反響が集まり、2刷の発行が決定いたしました!

 約1年前、本上さんに、『もえる!いきもののりくつ』(2022年7月刊)の著者・中田兼介先生とご対談いただき、その一部をミシマガに掲載いたしました。
 本日、『一泊なのにこの荷物!』2刷発行と『もえる!いきもののりくつ』刊行1周年を記念して、両著者の対談を復活いたします!

ikimono_ippaku.jpg左:『もえる!いきもののりくつ』、右:『一泊なのにこの荷物!』

『一泊~』にもたくさん綴られているように、本上さんは、幼少期から犬や鳥と触れ合って育ち、現在も京都の賀茂川など、自然の中でお子さんと一緒に虫や魚を探すという大のいきもの好き。そして中田先生は、実験や世界中の論文をとおして、クモをはじめとする生物の生態を探求してきた動物行動学者です。
 お二人がいきものに強く心惹かれつづける理由とは?

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左:本上まなみさん、右:中田兼介さん

いきものを見ていると生きるのが楽になる

中田 本上さんは、小さいときからいきものと触れあってこられたんですよね。

本上 そうですね。家のまわりでドジョウを捕まえることもありましたし、家の中に昆虫やクモなどがいると、目線を下げて横から「なんかかっこいいなあ」と思って見ていました。私が小さい頃は、超合金のロボットみたいなものが流行っていましたけど、それと同じ感覚です(笑)。フォルムが全く人間とは違って、進み方もガクガクしていたり、めちゃめちゃ速かったりするじゃないですか。小さい頃から、自分とはまったく違ういきものの生態に「何だこれ?!」と魅せられていました。

中田 いきものって、ぼくらと違うところがいっぱいあるじゃないですか。そういう姿を見ていると、「あ、なんか違う世界があるぞ」って自然と気がつきますよね。人間社会の外にもなにかあるんだ! って。それってすごく大事なことだと思います。そこからものごとを観察する視点や理解のための物差しが生まれてくるし、なにより、生きるのが楽になる気がします。

本上 確かに、自分とはまったく違う価値観で生きているいきものの姿を見たときに、「自分はこんな小さいことでクヨクヨしていたけど、この人たちはそんなこと考えていないかもしれないな」なんてことを想像して、ふっと楽になるときはありますね。

中田 そうですよね。外の世界があるって思うことは、人間を楽にさせるんですよ。ここしかないって思い込むと、うまく行かないときに息が詰まりますけど、どこか他がある、と思うと気が抜ける、っていうか。いきものは、私たちに外の世界を体感させる良いきっかけをくれるのだと思います。だから子供のときにいろんないきものに触れるっていうのは大事なことだと思っています。

本上 私は小さいころから、実際にいきものに触れるだけでなく、図鑑や物語を通じても触れあってきました。そんななかで中田先生の本は、自分が知らなかったようないきものの生態をたくさん教えてくださいます。そしてなにより、中田先生ご自身がものすごく興奮していて、めちゃくちゃノっている、というのが手に取るようにわかるんです。それで気付くと、興味のなかったいきもののことでも自分も乗せられて興奮しています。

中田 ありがとうございます。仕事で学会とかに参加すると、まだ他の人が知らないような新発見をいち早く聞けるのですが、これが楽しくて仕方ないんですよ。そうしたら、人に喋りたくなるじゃないですか。それが結実したのが、この『もえる!いきもののりくつ』だと思いますね。

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『もえる!いきもののりくつ』
中田兼介・著(ミシマ社)

世界がファっと広がる一冊

本上 中田先生は動物行動学を専門にされていますが、なにが中田先生を動かしているんですか?

中田 いきものが好きだっていうことと、びっくりさせてくれるっていうおもしろさですかね。
 いきものを見ているときに素朴に思うのが、「何考えてんねやろなあ」っていうことなんです。人間相手でも同じですよね。でも、いきもの相手だと「何考えてるの?」って聞けないので、色々工夫して調べてみると、こちらの予想と違うことが多いんですよ。そこでびっくり。楽しいですよね。同じようなことは、他の研究者もやってくれていて、そういう話を聞いて、またびっくり。

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本上 『もえる! いきもののりくつ』でも、世界中の動物行動学者のいろんな論文から、先生が読んでおもしろいと思ったものを厳選して紹介してくださっていますよね。やわらかい語り口で、本当の論文から、わたしたちはそのエッセンスを受け取ることができて、この一冊の本をきっかけに「世界ではこんなことが研究されてるんだ」っていう発見がたくさんありました。私の場合は、テングシロアリについて興味を持ったので調べてみたところ「シロアリの羽からこんなこと調べている人がいるなんて!」と世界がファって広がったんですよね。
 だから「苦手だな」と思ういきものがいたとしても、知らないエピソードに惹かれてもっと知りたくなる、そんな入口になる本でもあると思います。

中田 あまりいきもののことに興味がなかった方にも、ぜひ本書を手に取って、新しい世界、外の世界を見てもらえたらと思っています。
 それから、今は、たくさんのいきものが絶滅するなど、本当になんとかしないといけない時代に来ていて、この本の中でも「人新世のいきものたち」という章を設けました。これまで人間は好き放題してきたと思いますが、これからはそこを少し抑えて、まわりへの配慮がちゃんとできるようになると良いな、と。そのためには、やっぱりいきものを好きな人が増えるのが早道だと思うんですよ。好きは配慮の第一歩ですから。そういうことも、本を書いているひとつの動機ですね。

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 いかがでしたでしょうか?

『もえる!いきもののりくつ』『一泊なのにこの荷物!』は、これから来る夏休みのおでかけにもぴったりの2冊。ぜひこの機会にお手に取っていただけたらうれしいです!

(終)

編集部からのお知らせ

『一泊なのにこの荷物!』写真展、彦根で開催中!

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『一泊なのにこの荷物!』の刊行を記念して、特別な展示を開催中です!

 題して、「あんな日のこんな写真 展」

 初の夫婦でのエッセイ集『一泊なのにこの荷物!』で、実はシュッとしていない「わやくちゃ」な家族の暮らしや、幼少期・学生時代の思い出をたっぷり綴った本上さんと澤田さん。
 今回、お二人から秘蔵のスナップ写真を提供いただき、書籍で描かれていたあんな場面、こんな場面の実際のようすを、超限定公開いたします!

 あさごはんの食卓。謎の「おかあさん体操」。娘が生まれたばかりの頃。一緒に暮らしていた猫。はじめて乗った車。庭で毒虫に遭遇。親子で川遊び・・・。
 ここだけの写真が満載です。

 会場は、澤田さんの母校のある滋賀県・彦根のMiTTS FINE BOOK STORE(ミッツ・ファイン・ブック・ストア)さん。彦根城のお堀端、キャッスルロードから入る話題の書店です。
「晴れでも雨でも今の時期の街は美しい。この機会に彦根見物もいかが?」と澤田さん。
 展示とあわせて、ミシマ社の書籍フェアも開催します。ぜひお越しください。

<会期>
2023年7月17日(月・祝)まで
営業時間:金土日祝 12:00-18:00
※平日の月曜〜木曜は定休日ですのでご注意ください。

<会場>
MiTTS FINE BOOK STORE
〒522-0064 滋賀県彦根市本町2-2-44
Tel:0749-24-2111

<ごあいさつ>

彦根東高校出身のサワダです。編集者・もの書きとして、東京や京都で大変がんばっています。このたび愛する〈みっつ〉さんが、なんと私どもの本を応援、ワンコーナーくださる運びとなりました。何にしよう? と夫婦で3日3晩相談の末、今回書いた題材の元となっている「私たちの暮らし」のスナップ写真を新旧どばっと出そうか、と。基本しょうもないものばかりですが、ほとんどどれも外に出さないものばかりです(しょうもないからね)。でもまあだからすなわち秘蔵写真。彦根でもがんばらねば、です。

澤田康彦

彦根は夫とときどき訪ねる大好きな街です。ここで3年間、自分がいかに勉学に打ちこみモテていたかをじまんする夫ですが、本当かなあ? 本屋さんや映画館通いだけは本当だと思うけど…。今回はお世話になります。なんとも恥ずかしい写真多数ですが、エッセイで色々さらけだしたし、「冷や汗ついでにええやん」ということで乗ることにしました。ほんの少しでも、家族って楽しいね、とかって思ってもらえればうれしいです。

本上まなみ

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