復活!ミシマガジン

第23回

2014年 今年の一冊! 百々ナイト

2023.06.06更新

6月25日(月)、『ここだけのごあいさつ』の刊行を記念して、ミシマ社代表・三島が、紀伊國屋梅田本店さんの対談イベントに出演いたします!
対談のお相手は、大阪を拠点にする「インセクツ」代表の松村貴樹さん。
ともに関西を拠点にしてきた二人が、「ちいさな出版社の歩み方」というテーマで、これからの本の作り方・届け方から、会社の運営やチームづくりまでをじっくり語らいます。
このイベントを記念して、本日のミシマガは、紀伊國屋梅田本店店長の百々典孝さんによる「百々ナイト」の記事を復活します!
「百々ナイト」とは、年末にミシマ社が百々さんをお招きし、「今年の一冊」を熱く語っていたイベントです。今回は、2014年12月に行われた百々ナイトをお届けします。
関西の作家さん、本屋さん、出版社への愛がたっぷり詰まった対談を、どうぞお楽しみください!


2014年 今年の一冊! 百々ナイト編

※本記事は、「旧みんなのミシマガジン」にて、2014年12月2912月30に掲載されたものです。

 2014年も、残すところあとすこしとなりました。
 みなさんは、今年一年、どんな本に出会いましたか?
 小説やエッセイ、ノンフィクションに人文書、ビジネス書......きっとたくさんの、素敵な本たちに出会ったのだろうなあと想像します。一年間読んだ本たちを振り返るだけでも、「そう言えばこの本を読んだときは、こんなことを考えていたな」といろんなことが思い返されますよね。

 ミシマ社では毎年、年末に「今年の一冊!」を決めるふたつのイベントを開催しています。ひとつは、紀伊國屋書店梅田本店の書店員・百々典孝さんによる「百々ナイト」。そしてもうひとつが、メンバー内で「今年一番面白かった本」を紹介し合う「今年の一冊座談会」です(その様子はこちらから)。
 今回はそのうちのひとつ、毎年恒例「第3回百々ナイト」の様子をお届けします!

0606-1.jpeg.jpg書店としてできるひとつの動き

三島 百々さんの2014年は、いかがでしたか?

百々 今年も面白かったです。2013年に大阪の書店員有志ではじめた「Osaka book one project」では、第一回を受賞した高田郁さんの『銀二貫』が今年NHKでドラマ化に発展。今年は第二回受賞作も発表することができました。ちなみに第二回の受賞作は、三浦しをんさんの『仏果を得ず』です。これは文楽のお話なんですが、三浦しをんさんの文楽熱はもちろん、文楽というものに興味を抱き、大阪の文化に造形を深めるきっかけになる一冊だと感じ、選びました。
 文楽はいま、府から予算が削られてしまって大変なんですよね。この本が、文楽という伝統文化の維持のために、書店としてできるひとつの動きなのではないかなと。

三島 なるほど〜。

百々 あともうひとつは、大阪の書店員で『西加奈子と地元の本屋』という本を作ったことです。西加奈子さんという、大阪で育った作家さんの『円卓』という小説が、この6月に映画化されたんですね。そのときに、大阪の作家さんの本が映画化になったんやから、何かしないとあかんやろ! とお酒の席で盛り上がって(笑)。

三島 酔って打ち合わすと、加速しますよね(笑)。

百々 じゃあ本屋同士で集まって、『円卓』の映画化を応援するものをつくろう、という話になりました。西加奈子さんを知って映画を観る。映画を観て、西さんの本を読む。そういう循環で、大阪の書店を盛り上げていこう! ということなんです。

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『銀二貫』髙田郁(幻冬舎文庫)

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『仏果を得ず』三浦しをん(幻冬舎文庫)

作られたものを売るだけが本屋ではない

百々 いまはもう、ほとんどの出版社が東京にあります。そうなると、大阪が舞台の小説ってマーケットが大阪にしかないから、本にしにくいんです。大阪でもそうなので、地方を舞台にした小説はどんどん舞台が東京に変わってしまう。この田舎の風景は鎌倉にしましょう、というふうに。昔だったら地方に小さい出版社があったけれども、いまはなかなか難しいですよね。その最初の一歩として『西加奈子と地元の本屋』を、大阪の出版社である140Bさんと一緒に作れたのはすごく面白かったです。

三島 この本、ライブ感があってめちゃくちゃ面白かったです。はじめのほうの、西加奈子さんと津村記久子さんとの対談なんて声だして笑いました。

百々 本屋って、作られたものを売るだけではない。力をあわせれば、守っていけるものがあるのではないかと思えた1年でした。とくに地元の文化を発信するという意味では、地方の出版社だと書店との距離がすごく近いから、手と手を取り合ったらすごくいいものができると思うんですよね。

三島 ちなみに今年の直木賞・芥川賞は、どちらも関西の作家さんでしたよね(直木賞は黒川博行さん、芥川賞は柴崎友香さんが受賞)。

百々 今年は関西の作家が波にのってますね。それをもっとアピールしていきたい。大阪って、出版業界においてはマイノリティなんですよね。高尚なものは東京から、みたいな雰囲気があるじゃないですか。あれ、これ思ってるのって僕だけかな(笑)。

三島 たしかに少しその感じはありますね。校正者の方は、基本的に標準語に直そうとします。たぶん染み付いてらっしゃるんですが、「ほかそか」などと書いてると「よくわかりません」と指摘が入ってくる。無言の標準語圧力があるんでしょうね。出版って、小さな単位でできるからいいと思うんです。いろんなことで自分たちのセンスを発揮できるからいいのであって、ひとつの価値で動くほど面白くないことはないですよね。

今年は「デザイン思考」

百々 では、第3回百々大賞を発表! ......のまえに、一冊『ピクサー流 創造するちから』(ダイヤモンド社)という本を紹介したいと思います。ビジネス書には毎年なにかしら流行があるんですが、今年の流行りは「デザイン思考」でした。今までのビジネス書では、松下幸之助、本田宗一郎など各界のリーダーが書く「俺についてこい!」というような感じのものが主流だったんですね。けれどこの「デザイン思考」というのは、一人のリーダーが引っ張って行くのではなくて、みんなで協力してみんなでつくりあげよう、という本なんです。「デザイン思考」系の本は今年数多く出たんですけども、この本が断トツで素晴らしいですね。

三島 おお〜。

百々 ピクサーって、『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』、そして『アナと雪の女王』など出すもの全部ヒットしてるんですよね。それもシリーズをブラッシュアップするのではなく、いちから創って。あれほど成功しているメーカーはないですよね。
 ピクサーは、社員一人ひとりがプロ意識を持っていて誰もが妥協しないし、一人でも反対すると、またゼロから作り直す。だからこそ失敗がないんです。社員のなかに一人でも納得しないものがいない組織をつくる。それがピクサーなんですよね。そんなピクサーの秘密「デザイン思考」について書いてある、すごく面白い本でした。

三島 売れる本だけを作り続けるというのは、出版社的には嘘だろうとなるんですけども、映画という世界でそれを実際にやっているんですよね。

百々 それでかつ、子どもたちに夢も与えている。流行りで売れた本は、あとから読んだら恥ずかしいようなものもありますよね(笑)。けどピクサーの映画はそうはならない。それはなぜなのか、興味深く読みました。

0606-4.jpeg.jpg『ピクサー流 創造するちから』エド・キャットムル、エイミー・ワラス(ダイヤモンド社)

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第3回百々大賞はこの作品!

三島 ではお待ちかね、第3回百々大賞の受賞作を発表したいと思います!

百々 はい。今年の百々大賞は、西加奈子『サラバ!(上)(下)』です。この本は今年のなかで、断トツでした。西加奈子さんのデビュー作『さくら』を担当した、小学館の石川さんという方がこの『サラバ!』の編集担当なんですね。この石川さんはすごくヘンで面白く、なおかつ情熱があって敏腕。『世界の中心で愛を叫ぶ』や『のぼうの城』など、そうそうたる作品を担当されている方なんですよ。
 そんな石川さんが、「傑作です、間違いありません。編集者をこのまま続けていてもこれ以上の作品に出会える気はまったくしません。それぐらいものすごい作品です」と、書店員に渡すプルーフ(校正刷りを冊子にしたもの)にコメントしていたんですね。普通は、特定の作家に対して編集者はこんなことは書きません。ほかにも自分が担当している作家はたくさんいるし、その人たちの耳に入るといい印象はないですよね。でも書いちゃう、というぐらいの心意気だったんです。僕はこれを読んで若干引きました(笑)。石川さんがここまで言うと逆に読めないな、と。だからこそ、最初はマイナスイメージからのスタートだったんです。だけどすごかった。

三島 うんうん。

百々 僕は人にあまり小説を勧めたくないタイプなんです。小説には好みがあるから。最初に紹介した『ピクサー流』だったら、ビジネスマンは絶対読んだほうがいいと言い切れます。答えがわかっている本だから。何かが絶対得られるはずから。読んで損したというのはないし、自分にあわないというのも少ないと思います。
 けれど、小説は答えがないでしょう。みんながみんないいと言う本は、だいたい面白くない。やっぱり自分のなかで尖っていないといけない。でも、今回僕がこれを推したいのは、誰が読んでも心を打つと確信しているからです。

三島 おお〜!

百々 人生を変える本というものがあるとすると、年をとるにつれて、そういう本との出会いはなくなっていきます。年をとるとだいたい、小さい頃の「そんな世界があったの」という喜びから、だんだん「ああ、あれの延長ね。わかるわかる」となってくるんですよね。
 僕もいま43歳なので、この歳になると小説から得られるものはほぼないし、あったら逆に怖い、と思っていたりしたのですが、これはまさに年下の女性作家に「生きるとはどういうことか」を教えられた本でした。人は、どうやって生きていくのか、その指針ってなんだろうかと。そういうものを小説から学ぶとまったく思っていなかったので、本当にびっくりでした。本で泣くということはあまりないのですが、これは...じわじわ、最後の1行でダーーーッです。

一同 (笑)

百々 いや、小説を説明するのは本当に難しい。小説を大賞にもってきたくなかった僕の予感は的中しましたね(笑)。

三島 百々さんが本にここまで言うのは、ほぼないと思います、ほんとに。ふだん、「泣く」とか言わないですよね。

百々 書店のPOPとか推薦文で、「号泣した」とか書くのってかっこ悪いじゃないですか。限られた文字数しかないのに、自分が泣いた話書いてどうすんねん、と。だからいつもは、人に勧めるときに自分が泣いた話するのって、めっちゃかっこ悪いと思っているんです。けど、この作品の持つすごさを何と伝えたらいいのかわからない。

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『サラバ!(上)』西加奈子(小学館)

このサイズじゃないと知り得ない世界がある

百々 西さんはイラン・テヘラン生まれの大阪育ちなんですが、そんな西さんが育ってきた舞台が全部この小説の後ろにはあるんですね。主人公・歩、複雑なお姉ちゃんや両親がどういった性格であるかというのって、普通の小説は簡単なエピソードをつなぎあわせて、「だいたいこういうキャラクラーなんだな」と読者が思う。けれど『サラバ!』では、そのための膨大な材料が散りばめられていくんです。全部点でしかなかった主人公たちの性格を形作るうえでの材料たち、こういう事象があったからこういう思考をもってるに違いないなという無数の点が、最後の最後でビシビシと活きてくる。小説なのに答えがあるんです。

三島 なるほど、わかりました! ずばりドストエフスキーですね。

百々 そうそう、ドストエフスキーや、芥川龍之介ですね! 思春期のいろいろ悩んだ年頃に読む芥川龍之介とかドストエフスキーで、「おっ」となる感覚にぴったりです。中学生のときにドストエフスキーを読んで、あれ、なんで俺のこと書いてるの、と思ったあの感じ。それがまさにこれです。
 こう言ったら失礼ですが、ノンフィクションや大河小説を力強い筆圧で描く男性作家の本で上下巻は普通にありますが、女性の現代作家の小説で上下巻だと、なんだか違和感がある。一冊にしたほうが売れるんじゃないかとか、本当は編集次第でもっと削れるんじゃないかとか思ってしまいます。でもこれは、上下巻必要です。これ以上短いと、薄っぺらな物語になる。このサイズじゃないと知り得ない世界。どこも削るところがないんです、こんなに長いのに。石川さんが大絶賛したのがよくわかって、逆に悔しい。これを読んでないと人生がマイナスになると思います。僕がこんなに小説を勧めることはもうないです。

三島 俄然読みたくなりました。ずっと前から読み始めてたはいんですけど、それこそドストエフスキーのように、親族はいっぱい出てくるし、取引先の人とか、おばちゃんとかとにかくキャクターがたくさん出てくるので、これは腰を据えて読まなあかんなと思ってたんです。でもこの世界に一度馴染んでしまうと、すごい勢いになるだろうなあ。

百々 たしかに上巻では登場人物がいろいろ出てきますから、細かく整理して読まなくちゃならないのでちょっと時間がかかりますね。けど、下巻は一気に読めます。

三島 第3回は、これまでの百々大賞のノンフィクション系・科学系の流れを完全に断ち切っての、まさかの小説でした。

百々 僕はジャンル問わず雑多に読むんですが、人に勧めるときは小説は選ばないだけなんです。あらすじ言うわけにいかないので、勧め方が難しいんですよね......。これもあらすじを言うわけにはいかない本なので難しいんですけど、でもとにかく、素晴らしいです!

三島 百々さん、今年もありがとうございました。ということで第3回百々大賞は、西加奈子さんの『サラバ!』でした。この年末年始にぜひ!

編集部からのお知らせ

紀伊國屋梅田本店のイベントに三島が登壇します!

『ここだけのごあいさつ』刊行を記念して、ミシマ社代表・三島邦弘と、インセクツ代表・松村貴樹さんの対談「ちいさな出版社の歩み方」を開催します!

リトルプレス、zineなど、ちいさな出版活動のうねりが全国で起きています。
その先駆け的存在とも言えるのが、大阪を拠点にするインセクツと、京都と東京・自由が丘の二拠点で活動するミシマ社。
今回、両者の代表が、個人出版から商業出版まで、今ならではの「やり方」(つくり方、届け方)を紹介します。
また、本や書店、出版活動がすこしでも好きな人たちにとっての「これからの楽しみ方」も語り合います。
同時に、それぞれ出版社運営を通して感じている、「人とお金」の話や、「チームづくり」についても言及する予定です。

日  時| 2023年6月26日(月) 18:00 講演開始(17:30開場受付開始)

場  所| OIT梅田タワー2階 セミナー室201号室

     ※アクセスはこちらをご覧くださいませ

参加方法|チケット1,000円(税込)を、紀伊國屋梅田本店③番カウンターにてご購入でご参加頂けます。(定員:先着50名様)

お問合せ・ご予約| 紀伊國屋書店梅田本店 06-6372-5821 10:00~21:00

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ここだけのごあいさつ

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INSECTS Vol. 16

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