高橋さん家の次女 第2幕

第5回

全国の農業仲間 後編

2022.03.04更新

 母が後で「なっちゃんがな、『久美子さんは昔からお父さんに怒られても食らいついていってたんですか?』って、『私には無理です』って言いよったわ。確かに昔から久美子はしぶといよなあ」と笑う。

 子どもの頃、父によくドッジボールの練習をしてもらった。父の剛速球が顔に当たって、痛くて泣いたら「泣くなら帰れ」と言われる。姉や妹はそこで帰るけど、私は泣くのをやめてキャッチボールを続けていたのを思い出す。私は昔から確かにしぶとい。何故かというと、その向こう側には目標とか夢が広がっていて、それを見たい思いの方が強いからだ。多分、それはずっと変わらない。
 日が暮れて、無事に畑の整地が終わってへろへろで家に戻る。二人に黒糖をあげて、それぞれの車に乗って帰ろうとする。
「ちょっと待って! ギター持ってきてたりする?」
と、咄嗟に言っていた。
「はい!」
 二人は車からアコースティックギターを取り出す。びっくりした。二人ともギターを載せて畑に来ていたのか。
「ちょっと曲でも作ろうか」
 私達は家に入って、私はだだーっと畑の詩を書いてみる。母がピタパンを持ってきてくれて、そのうちハンバーグやご飯を作って持ってきてくれ、みんなで夕飯を食べてしまった。どんなメロディーがええかなあ。私は作詞家ではあるが、作曲家ではない。でもそんなことは関係ない。なんだか疲れた今日は、歌った方がいいと思った。鼻歌をくちずさみながら、二人はコードを考えながら、ここでソロを16小節入れようかとかいいながら、二時間ほどで「畑の詩」という曲ができた。みんなの顔がみるみる喜びに満ちていく。楽しいね。畑はもちろん楽しい場所だけど、今日はちょっとしんどかったから、歌が私達を包んでくれた。

「あのまま帰さなくてよかったねえ」
と母が言った。
「ほんまにね。お母さんご飯ありがとう。なんか分かってきたなあ。私は農地で作物作りたいだけじゃないなあ。場所が作りたいなと思うんよねえ」
 おっくんが帰る時、父が出てきて「今日はありがとう」と言ったから驚いた。私もみんなが帰ったあと、父に「今日はありがとう」と言った。

 私が東京へ帰ってからも、みんな畑に頻繁に顔を出すようになっていた。ある日は、別の畑に設置していた天井まで網で覆った猿よけの柵を移動させてもらったのだけど、近所の子どもたちがやってきて手伝ってくれたそうだ。土日になるとやってくるお兄さんお姉さんに子どもたちも興味が湧いているのだろう。近所の人も通りかかったら、私や母がいなくても声をかけてくれるようになり、時に教えてくれたり苗を分けてもらったりもするようになったという。初心者のおっくんは日曜日の度に母を訪ねてくれるので、母は熱心に指導するようになり、それが近所の年配の人たちにもいい張り合いを生んでいるという。
「やっぱり地域に若い人が出入りするのはいい」
と、近隣の人も言ってくれるようになったそうだ。

 東京へ帰る前日、FM愛媛「マシンガンエチケット」に出演させてもらい、耕作放棄地で広大に畑をするバンドマン、ガッツさんとマイケルさんと話した。西日本豪雨のときに私は宇和島の奥南という地域へ手伝いなどに時々行っていたけれど、お二人も一番被害の多かった玉津地区の応援にすぐ駆けつけて情報発信してくれていたので、私もガッツさんとは何度かお会いしたことがあった。
「農業ってバンドと似とるよね」とガッツさん。
「ああ、なんか分かる気がします」
 周防大島で農業をしていて、私も対談させてもらった中村明珍さんも言っていたそう。お二人と明珍さんは音楽仲間でもあり、中村さんに影響を受けて農業をはじめたのだそうだ。
「仲間集めもバンドメンバー探す感じに似とる。無農薬派か農薬派かも、音楽と同じで方向性違ったら解散ってなるし。農業メンバーも重要よな」
 バンドマンは音や楽器など突き詰めていく性質があるけど、それも土作りや農機具などのこだわりに通ずるものがあると言う。
「農地に名前はないの? 僕らはハイドパークって名前なのよ」
 うわあ、かっこいい! バンドの名前みたいじゃ。私達も畑に名前つけたいなあ。
「こないだ、めちゃめちゃたくさんサツマイモ植えたのに、収穫前に全部イノシシに食われてしもうて!」とガッツさんが大笑いする。とにかく明るい。ふるさとを守るとか、地方創生とか、変に背負っていないのがいい。何よりも楽しいこと、自分が夢中になれるかどうかだと言っていた。まるで、畑が部室のようで、バンドにのめりこむように農業にのめりこむ二人はとても素敵だった。今度、お互いの農産物がたくさんできたら、合同でマーケットができたらいいねと話した。

 そんなこんなで、私はやっぱりサトウキビが作りたい! という情熱が抑えきれず、黒糖BOYSのOさんに猿の出ない畑を借りることになった。おっくんも黒糖を一口食べて虜になって、「やりましょう!」と燃えてきて、さらに「新春みかんの会」でもその話をしたら「手伝いに行きたいです」と連絡をくれた東京の子がいたりして、じゃあみんなで植えましょうよ! てなわけで、東予もなんだか盛り上がってきましたよ!!

 次回の高橋さんは〜! ついに三月です。念願のサトウキビの植え付けです。次こそは! ということで、「春です種まきです」「サトウキビを植えましょう」「新しいみかんを求めて」の三本です。また次回も読んでくださいね〜!

高橋 久美子

高橋 久美子
(たかはし・くみこ)

作家・詩人・作詞家。1982年愛媛県生まれ。音楽活動を経て、詩、小説、エッセイ、絵本の執筆、翻訳、様々なアーティストへの歌詞提供など文筆業を続ける。また、農や食について考える「新春みかんの会」を主催する。著書に『その農地、私が買います』(ミシマ社)、小説集『ぐるり』(筑摩書房)、エッセイ集『旅を栖とす』(KADOKAWA)、『いっぴき』(ちくま文庫)、詩画集『今夜 凶暴だから わたし』(ちいさいミシマ社)、絵本『あしたが きらいな うさぎ』(マイクロマガジン社)など。

公式HP:んふふのふ 公式Twitter

「高橋さん家の次女」第1幕は、書籍『その農地、私が買います』にてお読みいただけます!

編集部からのお知らせ

祝増刷決定!『その農地、私が買います』4刷累計1万部突破!!

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『その農地、私が買います』書誌ページ

【3/13まで】高橋久美子×渡邉麻里子 「怒られの二人 ~それでも今、行動する理由」アーカイブ動画を期間限定配信中です!

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高橋久美子さんと渡邉麻里子さんによる、ぶっちゃけ怒られ話の連続に、視聴者の方から大反響をいただいた対談となりました!!

・こうして私は怒鳴られた
・「女性だから」お酌をしなければいけないの?
・農地を後輩に受け継いでいきたい
・私たちは怖がられている?
・「地域をかき回す」役回りを続けるカギ
・自治会に若者も来てほしい
・コツコツやるしかない

詳しくはこちら

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