高橋さん家の次女 第2幕

第32回

週末農業について

2024.05.28更新

 愛媛1ヶ月―東京1ヶ月の生活を送りながら、チームで畑を維持させてきた。具体的にその中身はどうなっているのか、今日はそこを詳細に記していこうと思う。

 私たちのチームにプロの農家はいない。ほぼ全員が月〜金でサラリーマンをし、畑に出るのは休日だ。それが兼業農家の基本だけれど、人生をすでに一周してしまった私に比べて、メンバーは30代前半で遊びたい年頃、休日を毎回畑に費やせるわけはなく、畑ノートを見る限り、週末は平均すると二週間に1度、平日も仕事の前後で様子を見に来てくれる。チームだからこそ成り立っているなと感じる。

 愛媛にいる間は、雨がふらない限り私は毎日畑に出る。人手の必要なときには集合をかけてみんなで作業する。やっぱりみんなでやると楽しいし早い。

 さて、問題は私が東京に帰ったあとだ。誰が畑を管理しているかというと、主にはなっちゃんとうらちゃんだ。決めたわけではないけど、自然とそうなっていた。

 もう少し中心メンバーがいたんだけれど、離脱したり、仕事が忙しくなったりで、今はこの2名が中心だ。メッセンジャーのグループ名を「首脳会談」として、3人で詳細を話し合い決定してから他のメンバーに伝える。

 主任を含め、遠方にいるメンバーは草刈りやサトウキビの収穫など、私が集合をかけたときに来てくれる。本当に助かっている。彼らの力なしには夏場や収穫時を乗り切ることはできなかっただろう。前までは彼女らも含めたグループメッセージに詳細も連絡していたのだけれど、タイムラインに大量の文が流れることになり、ときどき来る子は疲れるだろうと思い、3人だけの「首脳会談」グループを作った。

 二人が来れない間には、母というビッグボスが管理してくれている。母は、黙って手を動かしてくれ、経験を積んだ上での知識をそっと貸してくれる。

「みんな働いているのだし、若い子は遊びにも行きたいだろうし、それでええのよ」と言う寛大さよ。

 私がまだまだ半人前なので、

「そろそろ里芋の上げ土をせないかんのでない?」とか

「お母さんはもうサツマイモ植えましたよ」と東京にいる間も連絡をくれる。

 同じように、サトウキビ畑に関しては、黒糖BOYZの山ぴーさんが「現状の高橋さんらのサトウキビ畑です」と写真を送ってくれる。ひー。また草でジャングルになってる。

 そして、「首脳会談」にそれを連絡し、それぞれに連絡を取り合って作業をしてくれる。というのが、理想だけど、サブメンバーに「ここの草刈りやっといてー」とお願いできないのが、なっちゃんとうらちゃんの性分だ。自分自身が動く子たちなのだ。

 きっと、二人が現地のリーダーになって、他のメンバーに声をかけられるようになったらいいのだろうなと思いつつ、たやすくそれをできないのは、私も同じ。自分でやった方が気が楽なのよね。「バイト代いくら」など、分かりやすい対価が存在せず、「手伝ったら黒糖もらえるよ」で成り立つ関係はよほどである。誘いにくいです。しんどい仕事であればあるほどに。

 土に触れる楽しみとか、良い作物を作りたいという目標意識をそれぞれがどのくらい持てるかは、本当に人それぞれだ。半年後の黒糖の出来に結びつけて考えることができている人は、ほとんどいないと思う。どうしてかというと、全体の流れで体験できていないからなんですね。収穫だけに来てくれるとか、製糖にだけ、土作りにだけ、または草刈りにだけ来てくれる子もいる。とてもとても助かる。けれども、断片しか体験できていないと、今入れている堆肥が数カ月後のサトウキビの成長にどういう効果があるかとか、収穫のあと来年の株はどう育つかということまでは想像できにくい。そこまで見てもらえたら、もっともっと農業は自分ごとになり楽しくなるだろう。労働が労働のまま止まってしまうことはもったいない。

 これは、私が体験して感じたことでもある。昔は3ヶ月に1回くらいしか帰れていなかった。そうすると、植えた作物が次来たときには実をつけている。もしくは草に飲まれて枯れている。これでは、本当の意味での感動は味わえないなと思い、せめて一ヶ月交代で暮らそうと決めた。

 これは、体験農業にも言えることだ。田植えだけとか、稲刈りだけとか、みかんの収穫だけという体験をすることを、惜しいなあと思う。むしろ、そのあとからストーリーは始まる。本で言ったら、冒険に出るまでの導入だけとか、結末だけを知るのに近い。そこから興味を持ってもらうための体験だとは思うけど、どんなことも1回ではその真髄を味わうことはできない。できれば3ヶ月に1回でも来ないとストーリーは繋がらないと思うのだ。まあ、そういう断片的に来てくれる方たちのサポートでチガヤ倶楽部が成り立っているのも事実だから、なるべく「これが、こういう姿になるんだよ。何月にはこんな感じになるよ」と、写真を送ったり、話したりするようにしている。

 例えば野菜。種を植えてから収穫までの約4ヶ月(ものによっては半年以上)、様々な作業が行われる。野菜の種類によって必要なことが違うので、多品種をいっせいに育てる、私達のような家庭菜園は、簡単なようで実はけっこう経験値と観察眼がいる。

 じゃがいもの種芋を3月頭に植えるなら、その10日前に腐葉土を入れて耕し、畝を作っておく必要がある(私達はほぼ不耕起栽培なので、鍬で耕すくらい)。じゃがいもは酸性の土壌を好むので、石灰を入れなくていいけど、他の作物なら同時に有機石灰も入れる。

 4月になると、一つの種芋からたくさんの芽が出てくるので、間引きし二本にする。同時に、1つ目の葉っぱが隠れるくらいまで、土を上げ直してやらないといけない。これが地味に大変だよ(農業用マルチシートをしていれば、その必要はないけれど、私たちは土のままでいきたいと思っている)。

 土の下15センチに種芋を植えたとしても、じゃがいもも里芋も、種芋の上に小芋がつくから、油断していると小芋が表面に出てしまう。芋の下でなく上につくって、意外とみんな知らないよね。土から顔を出した芋に日光が当たれば、みなさんもご存知の毒素ソラニンが発生し、苦くて青いじゃがいもになってしまう。こうなると食べられない。

 4月はアブラナ科の冬野菜の小松菜、水菜、白菜などの種取りもある。これも、なかなか手間がかかる。3月に薹立ちした野菜の中からより大きなのを、食べずに残し房がふっくらとふくらみしっかり種になったら、茎からカットし、麻紐で縛り、名前タグをくくりつけ、自宅の物干し竿に干す。

 種取りなんてするから余計にやることが増えるわけなんだけれど、種取りこそが私にとっては循環農業の基本だと思っている。祖父母の時代から50年以上繋いできた種もたくさんある。

 きゅうり、トマト、インゲン、枝豆などの夏野菜の種まきも4月。ある程度かためてまいて、双葉が出て本葉が出たところで、ネットハウスの畝に植え替える。夏野菜はゴーヤとオクラ以外は猿に食べられてしまうので、ネットの中が必須だ。夏はネットハウスが込み合う。

 本葉を過ぎると植え替えが難しくなる。果樹もそうだけれど、大きくなりすぎると定着しにくい。かといって、双葉の時期だと赤ちゃんすぎて体力がなく、植え替えで根が弱ったすきに虫の餌食になりやすい。植え替えは本葉が出たあとの雨降りか雨上がりのときがベスト。そんなピンポイントに来れる人おる? となる。そこがグループの良いところで、今回は、石垣メンバーの杉くん(初心者)に母が指導しながら移植をしてくれた。元気に成長しているようだ。

 4月は里芋の植え付けも大きな仕事である。私達の町は土壌的に里芋に適しており、産地として有名だ。うちも祖父の代からたくさん作ってきた。父も慣行農法で育てて農協に出荷しているし、母は母で、無農薬無肥料、水も引かないやり方で作っている。私達も毎年育てている。小さい頃から里芋は嫌というほど食べてきたのに、大人になると、じゃがいもより断然里芋が美味しいと思うようになった。

 その里芋も、昨年から猿に食べられはじめた。今までは里芋だけは絶対食べられなかったのに。昨年は、広大な畑全体をまずはイノシシの柵で囲い、天井はネットで覆うという大変な作業を私不在の中でみんなにやってもらった。

 イノシシの柵は横は1つ2メートルだが、高さは1メートル程しかないので、天井を覆われた畑に中腰で入っての作業はストレスフルすぎた。そこで今年はイノシシ用の作を二段に組み合わせてネットハウスを作ってみることに(近所のU子さんの真似をさせてもらった)。

 まず鉄杭を打って畑を囲い、そこに柵を連続でしばりつけ、さらに2メートルある杭を打って、二段目の柵を取り付ける。最後に緑のネットで天井を覆っていくのだが、ネットの重みで、柵が内側にたわんでしまうので、外側にペグを打ち込んで、テントを貼る要領で柵を引っ張る。ああ、もう私達、野菜よりも土木の方が詳しくなっていきますよ。

 同時に、種が発芽しなかった時用に、なすや胡瓜、トマトの苗を20本くらい買ってきて、それを植えたのも4月。春は、やまじ風という悪風が吹き荒れるので、肥料袋を半分に切って、4本の棒を立てて苗を風から守るのも必須である。案の定、その後、強風が吹いたが、袋のおかげで私達の苗は無事だった。しかし、建設中だった二段のネットハウスが壊れてしまって、5月、わたしが帰ったあとみんなが再建してくれた。

 他にもうらちゃんは、サツマイモを植えてくれたし、じゃがいもの土上げはゾエとなっちゃんかな。私が帰る直前イノシシが出て、修復した石垣が一部壊されたんだけれど、杉くんが一人で直してくれたそうだ。みんなの成長がすごい!

 あとは、サトウキビやねえ。サトウキビの草引きを頑張らないといかん季節になってきた。今の時期に頑張っていれば夏が楽だよと山ぴーさんからジャングルみたいな写真とメールが来た。4月に一応全部刈り終わったんだけどなあ。

 そうそう、5月頭にチガヤ倶楽部のライブが2本あったので、その練習にも忙しい4月だった。なっちゃんや音楽をきっかけに入った人にとっては張り合いにもなっていると思う。

 この頃は東京から、ミュージシャンの後輩やアーティストの友人たちが畑を慕って集まってくれるようになってきた。みんな純粋に土を求めているのではないだろうか。自然の中で体を動かして汗をかくことを必要としている人が増えている気がする。

 ああ、夏が目の前だよ。草問題、どうしましょうね!

高橋 久美子

高橋 久美子
(たかはし・くみこ)

作家・詩人・作詞家。1982年愛媛県生まれ。音楽活動を経て、詩、小説、エッセイ、絵本の執筆、翻訳、様々なアーティストへの歌詞提供など文筆業を続ける。また、農や食について考える「新春みかんの会」を主催する。著書に『その農地、私が買います』(ミシマ社)、小説集『ぐるり』(筑摩書房)、エッセイ集『旅を栖とす』(KADOKAWA)、『いっぴき』(ちくま文庫)、詩画集『今夜 凶暴だから わたし』(ちいさいミシマ社)、絵本『あしたが きらいな うさぎ』(マイクロマガジン社)など。

公式HP:んふふのふ 公式Twitter

「高橋さん家の次女」第1幕は、書籍『その農地、私が買います』にてお読みいただけます!

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