トーキョーでキョートみつけたトーキョーでキョートみつけた

第5回

ニッキ

2018.08.03更新

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モデル業をしているおんなのこ、ジャスミンとアカネに誘われて(おんなのこといっても33歳と29歳)、朝10時からはじまるアパレルブランドのセールに出かけた。

まあ、セールというのは往々にして人混みなのだが、人混みには普段よりつかないようにしているからことさら圧迫感を受けた。気に入ったものを颯と買い(しかし衣類ではなく、天然素材をうたうバスソルトと石鹸。アメリカ製品ゆえパッケージカラーはぎらぎらしている)ひとり会場を出る。

ところはどこかというと千駄ヶ谷、神宮前エリア。開店前のちいさな洋服屋や飲食店を横目に、気楽なカフェがないかと裏道をぷらぷら。まだまだ服を吟味中であろう二人は「勝手にどこか行かないで」というかんじではないので、さっぱりとしたつきあい。と、なんだか昔なじみの気が置けない仲のような書き方をしているが、いっしょに出かけたのは今回がはじめてだ。でもなんでだろう、こちらの希望を素直に伝えて行動できていた。

ジャスミンは猪突猛進で強引なところがある。アカネは受身が柔軟。アカネはジャスミンの、時にジャイアンな要求をもおもしろがって応えている。わたしはそんな二人の間を、わたしのペースで泳がせてもらっていたのでしょうね。

だが、そう人と人との間を、この日に限らずとも、日ごと泳いでいく中で顧みることがある。おのが口にしていることばの有り様と行く末は大丈夫だろうかと。自由と身勝手。自信と夜郎自大。前者と後者を見きわめ、はき違えず振る舞いたいと思っているのだが、その舵取りは些細なことば遣いに左右される。

なぜこうも気にかかるのか。おそらくわたしが他者の発したことばをいいも悪いもしっかり受けとめて、心にさざなみを生じさせてしまうからだろう。だからことばを発信する側であるとき、気になるし気を配っていたい。それは表現という仕事のひとつだと思っている。

「人が意見に反対するときはだいたいその伝え方が気に食わないときである」と言ったのはニーチェらしいが、これは時折あたまに過ぎるつぶやきで、じゃあわたしはいかに伝えていこうかと向学心をそそられる。

購入した石鹸はシナモンのかおりがする。ラベルの印字がコンセプトを表していた。

"KAWAII KYOTO"

ふむ。ただカワイイでまとめられたらつまらないなあと、KYOTOのおんな感ずるところあり。



早織

早織
(さおり)

俳優。1988年5月29日生まれ。京都市左京区育ち。
15歳から俳優をはじめ幾星霜。立命館大学産業社会学部卒業。
大学時代、内田樹先生の著作を読み耽りミシマ社に辿りつく。
《近ごろの出演作》映画『リバー、流れないでよ』(山口淳太監督)、『遠いところ』(工藤将亮監督)、『NEU MIRRORS』(Keishi Kondo監督)、ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(大九明子監督)

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