第40回
おぼえがき
2025.09.04更新
前事務所に所属中10年以上書いていたブログが、無くなっていた。そのブログは事務所に作ってもらったものだったので、退所するときお願いして特別に残してもらえることになったのだが、現在アクセスした時に出る表示が、ふうむ、これはそもそもブログの母体そのものが消失しているようなのである。
写真も大きなデータのものはアップできず、まるで時代にそぐわない置いてけぼりの産物だった。ただ、お風呂のなかでふっと浮かんできた言葉の断片も、息を吐くように考えを述べた文章も、自分で撮った率直な写真も、手で描いた絵も、気負わずに残せていたので、いつのまにかそれらがすっかりと無くなってしまっていたのは、胸にまあるい喪失の空間を生じさせた。強い怒りや立ち直れない哀しみがそこにあるわけではない。
ブログ、たしかに書いていたはずなのに、おぼろげにしか思い出せない。わたしはどんなに繊細に鮮やかに感じたことも自分が忘れていくのを知っていたので、おぼえがきとして書き記していたのだ。
「トーキョーでキョートみつけた」のこれまでの文章を読み返しても、こんなふうに感じていたわたしが存在していたのかとはっとする。書き記すことは、わたしにとって生きているのを確かめられる行為なのだと分かる。
目に留まったことは書いたほうがいい。肌に降りる趣きは言葉にすることに努めたほうがいい。毎日毎日書いていたわけでないから、いや、書こうとしてきたわけではないから、今こう思っている。
今年37歳を迎えた日、父から届いたメールに「よく生きてくれました」という一文があった。そんなメッセージをもらったのは初めてで、年月を思わせるようなその言葉が出てきたのは、父が生活の中で自身の老いをよく感じているからかもしれないし、母よりも年上になっている娘の姿が彼の目にありありと映っているからかもしれない。わからない。
年を重ねれば、仕事で自立すれば、はたまた母という立場になれば、母が不在で来たことの寂しさは癒えるかと思っていた。わたしには子はいないので比べられないのだが、そういうことではないというのが近頃の実感だ。寂しさは癒えるべき病ではなくわたしだけの経験で、胸にあるからこそ、
編集部からのお知らせ
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