第51回
ちゃぶ台編集部は、どんなふうに雑誌をつくっていくのか?(5)
2026.08.12更新
こんにちは。ちゃぶ台編集部のノザキです。
「ちゃぶ台編集部は、どんなふうに雑誌をつくっていくのか?」と題して、10月に刊行する次号『ちゃぶ台15』の制作過程をレポートしていく本連載。
1月のキックオフミーティングでは、突如編集長のミシマが「別冊」構想を提出。特集の話し合いどころか、単行本2冊を同時刊行する流れが生まれ・・・(1)、気を取り直して、振り出しに戻った特集企画会議では、とまらない特集案。そこであがって真面目に検討していた「古事記とマグマ」っていったいどういうものだったんでしょうか・・・(2)、いっこうに特集が決まらないにもかかわらず、刊行時期を2カ月前倒すことが決定し、別の雑誌『京大マガジン』創刊を全力で手伝うことを経て・・・(3)、特集が、ついに、決定!・・・(4)というのが、ここまでのダイジェストです。
8月中旬現在、だんだんと本誌の編集作業が本格化し、慌ただしくしております。すばらしい原稿が届き感激。インタビューや対談から溢れる言葉に感激。社内では編集メンバーから営業チーム・仕掛けチームのメンバーに向けた熱烈な企画プレゼン会議が開催され、オフィスの外も暑いですが、中も熱いです!
さて前回は、編集部による長い長い企画会議の末に決まった、次号『ちゃぶ台15』の特集を発表しました。
あらためて、『ちゃぶ台15』の特集は、「おもしろいの風が吹く」。
過去2号の『ちゃぶ台』を振り返ると、『ちゃぶ台13』では、特集を「三十年後」として、時間のことを。そして『ちゃぶ台14』では、特集を「お金、闇夜で元気にまわる」として、お金のことに焦点をあてて考えてきました。生活に欠かせない時間とお金。その二つを特集した先に、次なるテーマとして掲げるのは、生活そのものの豊かさに欠かせない「おもしろい」。
正しさや、わかりやすさ、結果が求められる時代に、「おもしろい」を考えることは何について考えることになるのかなあ、などと思いを膨らませながら雑誌づくりを進めています。一体どんな内容になるのでしょうか。本日は編集長のミシマによる巻頭言を公開いたします。
おもしろいの風が吹く
二〇二六年二月末、ホルムズ海峡封鎖。以来、原油の供給が大幅に途絶え、ガソリンは高騰、プラスチックの原料となるナフサが不足、建築資材が届かないため工事の見通しがたたない、こうしたニュースが日々とびかう。私たちの業界も例外ではない。印刷所の営業の方からは、「箔押しをされるようでしたら、かなり前もって教えてください」と言われた。素材の入手時期はわからないという。インキや洋紙の原料とて安定供給の保証はまったくない。くわえて、あらゆる物価が高騰する昨今、洋紙代や印刷費の値上がりはいつ落ちつくのか。倉庫にかかる費用も年々上がる一方である。
洋紙とインキ、種類、量いずれの確保も心許ない。統制経済さながらの状況下、私たちはものづくりをおこなっているのだ。――と、こう実感したとき、気づくのが遅いよ、という声がウチから響く。『中学生から知りたいウクライナのこと』を二〇二二年六月に、『パレスチナのこと』を二四年七月に出した。戦争はずっとつづいており、今、この瞬間も進行している。版元である自分たちが、自分たちのものづくりに影響が出始めた段になってようやく肌感覚で実感しているのではあまりにも遅い。
別の角度からも、危機は迫る。モノの入手困難がこのままつづけば、新聞、雑誌、書籍といったオールドメディアのデジタル化が進むのは必至。印刷所、製本所、製紙会社からすると、発注先が大幅に減ることが考えうる。『ちゃぶ台』には電子版はなく、紙の雑誌のみであるが、この雑誌で用いている仕様素材は今後も使えるのだろうか? そもそも産業全体が停滞、低下の一途をたどっている中での追い討ちだ。印刷機、製本機は来年、再来年も安定して稼働しているのか? 不安は募るばかりである。
......。いや、本誌12号の特集は、「捨てない、できるだけ」だったじゃないか。原油由来の製品が減っていくこと自体は、地球環境にとって悪いことではないはず。問題は、それに依存した形でしか回っていかない経済の構造のほうだ。私たちでいえば、原油に依存した材料を前提としたものづくりを根本からあらためる。そのときがきた。と捉えるのがいいのかもしれない。叶うなら、漸次移行を望む。倒産や失職の数ができるだけ少なくあってほしい。ゆるやかに、おだやかに。その間に、原油に依存しないあり方へと完全変革する。たとえば、この雑誌でいえば、大量とまでいかなくても、あるロットの生産が可能な「和紙」で印刷される。そうした紙が開発されるまで、種類、量ともに制約が増えるのは避けられまい。むろん、生産量自体を減らすことにもつながり、売上減を招く可能性が大だ。ただ、そうした痛みを全員がすこしずつ受け入れながらでないと、漸次移行は実現しないのも確かだろう――。
で、今号の特集がこちらです。「おもしろいの風が吹く」。
吹かせる、のではなく、吹く。どこかで必ず吹いている。その風を感じ、受け止め、かたちにする。今、出版社である私たちにできることはこれしかない、ここからやり直すしかない、そういう思いを込めました。
本誌編集長 三島邦弘
読み物いろいろ
●巻頭インタビュー
松村圭一郎「地域の『火種』によそ者の『風』が吹く」
伊藤亜紗「『おもしろい』が、一番正気に近い」
青山ゆみこ「『おもしろがれない自分』を、そのまま生きる」
「おもしろいの風が吹かなくなったとき、どうしたらいいですか?」という疑問を抱え、編集長のミシマ自らが、松村圭一郎さん、伊藤亜紗さん、青山ゆみこさんにお話を伺ってきました。
●特別エッセイ
師田史子「お金を貸す人借りる人、お金を賭ける人失う人」
『日々賭けをする人々 フィリピン闘鶏と数字くじの意味世界』でサントリー学芸賞〔思想・歴史部門〕を受賞された、文化人類学者の師田史子さんが本誌初登場!
●ほかにも、読み物満載!
【漫画】 益田ミリ「人生においてひたむきに根気強く努力したコトについて」
【対談】 鈴木俊貴×最相葉月「人間の『口笛』は鳥への片思い!?」
【小説】 尾崎世界観「デート」
【短歌】 伊藤紺(本誌初登場!)
【漫画】 榎本俊二「ギャグマンガ家山陰移住ストーリー」
【随筆】 土井善晴「なぜ日本の若者は世界で活躍するようになったのかーー『おもしろいの風が吹く』を考える」
【論考】 藤原辰史「社会の窓」
【フォトエッセイ】 齋藤陽道「花の眼」
【絵と言葉】 寄藤文平「未来の描き方」
【漫画】 益田ミリ・平澤一平「バーワン」
【おもしろいの風が吹く 周防大島編】
垂井綾乃、内田健太郎、中村明珍
【書店、再び共有地】
リバーブックス(静岡・沼津)
彩文堂(京都)
【ちゃぶ台編集部座談会】
「ミシマ社に、おもしろいの風が吹かなくなったとき」
・・・ほか
刊行イベントも計画中です。どうぞお楽しみに!
(つづく)






