第6回
いちじくいちのこと 05
2019.05.16更新
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どんなに突拍子もないアイデアも、すべて何かしらの必然で生まれている。そこだけを切り取れば妙に思えるかもしれないが、「入場無料、退場有料」というアイデアは、僕たちの大失敗な二年間の延長にあるとても自然な解だ。
イベント3年目にして入口と出口の導線を分け、2年目開催時は多くの人たちに素通りされたドネーションボックスを「ここにお金入れないやつは鬼だー!」と言わんばかりに出口に鎮座させた。その圧が功を奏したのか、はたまた継続開催を望んでくださったのか、小銭だけでなく、お札を入れてくださる方も沢山いらっしゃって、結果、昨年までとは比べ物にならないお気持ちをいただくことができた。
これをもって遂に黒字になった! と言えればいいのだけど、現実はそこまで甘くない。確かにようやく3年目にして黒字転換したけれど、それはこの退場料収入だけではなく、初めてクラウドファンディングを活用したことと、24時間テレビよろしく、地元のお店に募金箱を置いてまわったことが大きい。
「退場有料」がそうだったように、クラウドファンディング実施と街中への募金箱の設置にも、単に収入を得たい以上の必然的な流れ、それを実施する切実な理由があった。それは「入場料自由」と謳って開催した2年目のいちじくいちでのことだ。
怒涛の入場ラッシュを終え、少し落ち着いた受付の様子を見ていたら、入場口で会場マップを手渡すボランティアの女の子に「あなたたち助成金をもらってやってるんでしょ? なのにどうして入場料取るの?」と言って入場される年配の女性がいた。ボランティアの女の子がそれに答えられるわけもなく、また、そういうおばさんはとにかく何か言いたいだけなので、戸惑う女の子の返答を待つこともなくそそくさと会場内に入っていかれて、僕はとても申し訳ない気持ちになった。聞けば、そういう人は一人二人ではないそうだ。「入場料自由」。すなわち入場料を支払うことを強いているわけじゃないのに、それでもこんな風に言われてしまうことに愕然とした。
前々回に書いたように「いちじくいち」は役所の補助金をいただくことから、距離をとっている。声高にそれを言う必要なんてないし、偉そうにそんなことを言うのは恥ずかしいとすら思っていた僕は、それじゃダメだと考えを改めた。僕たちは自分たちでリスクを背負って一からこのイベントを作っている。それをきちんとわかってもらわなければ、大切なボランティアのみんなの心が疲弊してしまう。
どうやっても、何をしても、一言批判的なことを言いたい面倒なおじさんやおばさんはいるものだから、相手にしても仕方がないと普段から思っているけれど、それはあくまで僕自身に向けられるものに限る。仲間がそんな風に言われてしまうことを見過ごすわけにはいかない。そこで僕は、3回目の開催にあたってクラウドファンディングを使うことを決めた。
群衆(crowd)と資金調達(funding)を合わせたその言葉の通り、インターネットを通して多くの人たちから資金を得るクラウドファンディング。しかし実際に資金調達が成功するかどうかは、リターンと呼ばれる返礼品の内容以上に、そもそも支援する意味が感じられるプロジェクトかどうか? が重要だ。その点において「いちじくいち」は地方から未来に向けた大きなチャレンジとして魅力的である自信があったし、何より2年間自力で踏ん張ってきた実績が後押ししてくれるはずと信じていた。最初から何かに頼るのではなく、2年間自力で頑張ったからこそ、説得力をもって伝えられることがある。僕たちが描くビジョンに向けて、少し光が見えつつあるなか、なんとかこの動きを終わらせないために力を貸してほしい。そうまっすぐ伝えることで、結果的に、これまで僕たちが公的な補助金をもらっていないことをアピールできると考えたのだ。
https://camp-fire.jp/projects/view/86429
ちなみにもう一つの試みである募金箱の設置は、地元の協力を求めて奮闘する秋田チームからの提案だった。ポスターやチラシの設置など様々な協力を仰ぐべく街をまわる仲間たちも、前述した会場受付での一コマのように「補助金もらってるんでしょ?」的な言葉をぶつけられることがあるというのだ。そもそも補助金も助成金も、字のごとく補助であり、助成であるわけで、そういったサポートを受けることに対する妙な偏見の存在の裏にあるのは、これまでいかに個の利益のために公的資金が使われてきたか(いまもなお)ということだ。無思考なまま、上から目線で心無い言葉を放つ人とは絶対に友達になれないけど、そうなってしまう田舎社会の現状も想像できる。そういったこと全部をひっくり返したい思いで「いちじくいち」をやっている。
おかげで3年目の「いちじくいち」は、消耗品、各種看板パネルなどの制作費や電気工事などの外注費、クラファンのリターンなど、合計180万ほどの支出に対して、退場料(約28万)とクラファン(手数料差引いて約170万)、そして募金箱(約4万)の3つをあわせた収入が約200万程度となった。3年間の苦悩の歩みを経て、ようやく黒字となったのだ。ただそれもこれもボランティアの人たちに助けられているおかけだから、本質的な黒字転換への道のりはまだ長い。しかしこれで僕はようやく次のフェーズへと移行できると考えている。それは「いちじくいち」を手放すことだ。
編集部からのお知らせ
インプレスとミシマ社の協同レーベル「しごとのわ」
日本各地で活躍するクリエイター・デザイナー・編集者など70人
画像では内容が読みづらいですが、
https://book.impress.co.jp/
書店店頭で見かけたら、ぜひお手にとってみてください!
なんも大学presents『ちゃぶ台の上の秋田 〜秋田に醸されナイト〜』開催!
秋田県全域をキャンパスに見立て、秋田に暮らす人たちを講師に、その思いと情熱をアーカイブ。そこで学んだ知恵を未来の人たちとシェアする大学のようなネットメディア、「なんも大学」さんです。今回その「なんも大学」さんがトークイベントを開催されます!
出演は、展覧会『Fermentation Tourism Nippon〜発酵から再発見する日本の旅〜』クリエイティブディレクターで秋田県ウェブマガジン「なんも大学」編集長の藤本智士さんと、雑誌「ちゃぶ台」編集長でミシマ社代表の三島邦弘。さらに、日本酒大好きミュージシャン&精神科医の星野概念さん。というなんだか奇妙な組み合わせ。
しかしそんな三人の共通点はなぜか、秋田と発酵!(出身でも在住でもない)
参加してもらえれば、三人が秋田を大注目している理由がわかるはず。秋田自慢の純米酒や発酵食品を楽しみながら、ともに醸されまショー!
2019年6月15日(土)18時〜19時半
場所 :渋谷ヒカリエ8F d47 MUSEUM
料金:1,500円 (当日支払い) ※秋田の純米酒&発酵おつまみ分の実費。苦手な方はお茶アリ。
定員:50名
出演:藤本智士(Re:S、のんびり)、三島邦弘(ミシマ社)、星野概念
主催:秋田県ウェブマガジン「なんも大学」