第22回
「にかほのほかに」のこと02 〜DITとTEAMクラプトン〜
2020.08.09更新
二年前に閉校してしまった建物を未来のために活用しようと、現在秋田県にかほ市で、さまざまな編集を試みている『にかほのほかに』プロジェクト。
いよいよ今年から三年間かけて、ワンフロアずつリノベーション(改装)していく予定なのだけれど、僕のようにゴールを決めないタイプの編集者が、公的なリノベーション事業を進めていくことの難しさを痛感している。
新たな施設を建設してしまうことに比べれば格段に安い予算感ではあるものの、それでも2500万円(/年)ほどのハード改修予算をかけて進める事業だから、多くの人たちに理解してもらえるよう透明性ある計画を進めていかねばならないのは当然のこと。しかしだからこそ、さまざまな葛藤がある。
そもそも僕は事業計画をつくるのが苦手だ。それは計画を作ることが苦手なのではなく、実際にその計画を実行していくうち、さらに良くなるであろう細かなチェンジ案を次々思いついてしまって、当初計画を変更したくなってしまうのだ。特にコロナ禍において状況が刻々と変化するなか、最初に描いた画のとおりに進めなければならないことの窮屈さに、どうしたものかと頭を悩ませている。
そんな状況においても、共に悩んで、共にその解決策を考えてくれる、にかほ市職員のみなさんには、心底感謝している。先行き不安な世の中でなおワクワクできる未来のビジョンに、あくまでも当初案から逸脱しないよう、ゆるやかに微調整していくことは、とても大事なこと。そこに足並みを揃えようとしてくれる自治体職員さんと、しっかりチームプレイができることは、良い地域編集のための絶対条件だと僕は思う。
そもそもが事前了承ベースで動いていく仕組みのなか、正直、この関係がうまく構築できていないと、ともすれば不意打ちのように「それは聞いてない」「そんなことは書いていなかった」という問答のラリーになってしまう。僕がプロジェクトのスタート段階から行政予算を当てにすることを避けるのは、そのためだ。つまり、予算化云々の前に、まず実践がないと、自分を評価してもらいようがない。自ら起こした何かしらのアクションを評価してもらってはじめて、リスペクトベースな関係が作り出せる。そうすることではじめてビジョンを共有できるのだ。
だから僕が、この「聞いてない」を警戒しているのは、役所の人たちよりも町の人たちだ。少し脱線するようだけど、地域編集において、この「聞いてない」おじさん対策は、残念ながら必要不可欠。よく言えば強固なコミュニティ、わるく言えば、過剰な村意識が田舎には確かにある。コロナ禍で可視化されてきたように、それはある種の生存戦略でもあるから安易に否定する気持ちはないけれど、僕のようなよそ者の地域編集者が、その土地に入って何かをやろうとするとき、常にそれを警戒しなきゃいけないのは、なかなかにつらい。僕はかえってその強固なコミュニティを維持していくためにこそ、よそ者を一旦受け入れてみるおおらかさが必要だと思っている。
先日Netflixで、とあるドキュメンタリー動画を観ていたら、ハワイの先住民の子孫のかたがこんなことを話していた。
移住してきた人は
文化に変化をもたらす
それを排除する必要はない
アロハ精神だよ。
歳を重ねて、自分なりの【知る】が増えたとて、新しい考え方に対する配慮と想像力が欠けない大人を僕はたくさん知っている。その一方で自分の経験値を正義とし、ふりかざしてくるおじさんたちもたくさんいる。たかだか一人の人間が長生きしたってせいぜい100年だ。それでもわからないことだらけなのだから、それぞれに違った「知っている」ことや「見えている」ことがあっていいし、それが多様だからこそ、対話したり、考え方をシェアしあうことに楽しさと意味がある。
自らのテリトリーを守ろうとして、他人に不寛容になったおじさんほど、すぐに「聞いてない」を切り札にしてくるから、僕は地域編集を進めるとき、いかにこういう人たちの圧を減らすかについて、真剣に考える。そこで今回試みていることの一つが、「DIY」ならぬ「DIT」だ。
「DIT」とは「DIY=Do It Yourself」ではなく、「Do It Together」の略で、つまり、一緒に作ることの価値を言う。この「DIT」を提唱しているのが、関西を中心にさまざまな設計施工を続ける「TEAMクラプトン」だ。
圧倒的なリーダーシップとコミュニケーション力で現場を牽引する山口晶くんと、常に現場全体に気を配りながらも着実に作業を進める白石雄大くん。この最強タッグな二人を中心に、彼らTEAMクラプトンが手掛けた現場は、そのどれもが施工後もなお生き物のように変化し、輝きを増していく。
その秘密こそがDITなのだ。
彼らはどんな案件も決して自分たちだけで完成させない。施主さんはもちろん、その友人や、周辺に暮らす人など、出来る限り多くの人を巻き込んで、一緒につくる。そうすることでその地域の多くの人にとってその空間が自分ごとになり、結果、納品した後に、どんどんと成長していく生きた空間が出来上がるのだ。
もちろんそうやって多くの人の手を借りることに、予算上の問題がないとは言わない。けれど、彼らはDITにそれ以上の価値を見出している。そして僕もまた一つの大きな意義を見つけていた。それは、リノベーション作業を共にすることで、完成までの過程が外に開かれること。DITの考え方のもと、市民のみなさんとともに作業を進めていくことで、僕たちのビジョンや考え方までもがオープンになっていく。もし、それでもなお「聞いてない」と言う人がいたら、それはあなたが「参加していない」からだと胸を張れる。
このことはとても大きいと思う。TEAMクラプトンが業界の理不尽な仕組みを変化させようと地道にノウハウを高めてきた「DIT」は、地域編集におけるスタンダードになると僕は確信している。