地域編集のこと

第31回

散歩して閃いた地域編集の意義

2021.05.13更新

地域編集者としてさまざまな土地に訪れていた僕は、コロナ禍で遠くへ出かけることもできず、最近は近くを散歩する毎日だ。

しかし、あらためて近所を歩くことの大切さを痛感している。

そんな日々のなか、ふと、2003年頃に出版した『osanpo traveling!』という自著を思い出した。

ー旅とは新たな視点を得ることだから、なにも遠くへ出かけることだけが旅じゃない。
 身近な土地を散歩するだけでも新たな視点を持てたら、それは一瞬で旅になる。

という主旨の本で、そんなことを伝えようとしていた20年前の若かりし自分にあらためて「旅とはなんなのか?」を教えてもらったような気持ちになった。

そう考えれば、旅も地域編集も同じだ。その地域の当たり前のスペシャルさに気づいたり、新しい視点をもらったりするのは、遠く知らない土地だけじゃない。自分が住む町においても、新たな視点を持つことはできるはず。


これまで僕は、地域編集者の仕事というのはビジョンをカタチにするためのさまざまな方法にチャレンジしていくことだと考えていた。けれど最近は、既にそこにある宝物に掛け算したくなる何かを閃くことと、点在する宝物たちを一望できるようにすること、結局のところこの二つなんじゃないかと考えている。


例えば先日も近所を散歩していたら

「いつも参拝してたけど、裏にこんな森が広がってたんだ!」
とか
「え?Googleマップ見てたらここに古墳あるんですけど・・・」
とか
「いつのまにこんなところにシフォンケーキのお店できてたの?!」
とか

そんな驚きや発見があったのだけれど、それと同時に、これらが出会えばどうなるだろう? と妄想した。

鎮守の杜で古墳の形をした焼き菓子を食べながら宮司さんのお話を聞けたら、より一層この町のことを好きになりそうだなあ
とか

鎮守の杜のシフォンって商品をつくって、パッケージのQRコードを読み込むと、小鳥のさえずりが聞こえてきたりしたら最高だなあ
とか

考古学マニアな人たちと一緒に遺跡とスイーツショップをただただ交互にめぐる「シフォンとコフン」ってイベントやったら、町の歴史に興味もってくれる人が増えるかなあ
とか。

つまり僕はこういう妄想や思いつきをいつも自分が暮らしていない町でカタチにしてきたけれど、いよいよそれを自分の町でやってみようかなと思い始めていて、まさにそんな人がそれぞれの町に増えればいいんだよなと今更ながら思う。

この連載において僕は、よそ者目線の大切さと、よそ者だからこその役割を何度も伝えてきたけれど、コロナ禍でいよいよ遠くに出かけることが難しいいま、自分たちの暮らす町を自分で俯瞰に見るチカラを持つことはとても大切なことなんじゃないか。

つまり、余所者のチカラを借りなくても、日々の暮らしを楽しくする。つまんないと思っていた町を面白くしていく。そのための方法について伝えていくことが重要なのかと、僕はコロナ禍であらためて、この連載の意義を見つけた。

今更すみません・・・・・・。

新型コロナウイルスよ、大切なことに気づかせてくれて、ありがとう。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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