地域編集のこと

第16回

三浦編集長に会いに

2020.02.05更新

 新神戸駅から新幹線に30分乗ればもう岡山駅。つかの間の旅気分に慌てて荷物をまとめホームへ降りる。10分もない乗換えの間に大好きな「調布」を買って今度は特急やくもに。終点の出雲市までは3時間。今度こそと、旅気分をリスタートさせる。ちなみに「調布」というのは、きびだんごのような歯ごたえある求肥餅を薄いカステラ生地で包んだ岡山銘菓。もちろん東京の調布とのご縁があるわけではなく、租庸調の「調」(租=米、庸=労働、調=布製品)として献上された手織りの巻布のことを調布と言い、その見た目に似ていることが由来だという。昔の人の例えには情緒があるなあとつくづく思う。現代人丸出しの僕がこの銘菓の名付けを倣うなら「消しゴム」だ。風情もなにもあったもんじゃない。

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 ちなみに、きびだんごも大好きだけれど、あれはもう際限なく食べちゃうからいけない。一方「調布」はこの一本を少しずつ時間をかけていただくのが僕の習わし。それがなんだかとても幸福なのだ。出雲市に着いたらまず出雲そばを食べるぞと決めている僕は、空腹をごまかすように「調布」とともに3時間の列車旅を楽しんだ。

 かれこれ4時間かけて到着した出雲市だけれど、目的地はまだ先。出雲市駅からの乗り継ぎを敢えて1時間ずらし、その間に出雲そばをいただいて満足した僕は、普通列車に乗り換えてさらに45分。山陰を好きになったきっかけでもある石州瓦の風景が美しい車窓を眺めながら、いよいよ近づく目的地への想像を膨らませた。

 たどり着いたそこは島根県大田市。2007年に世界遺産登録され、一時は大フィーバーとなった石見銀山で有名な町だ。しかしあれから13年経った現在では観光客もすっかり落ち着いている。それでもこの街に訪れる人が絶えないのは、根強い世界遺産の魅力のほかに、いまや年商22億円を売り上げるというアパレルブランド「群言堂」の本店があるからだ。例に漏れず僕もお店に伺うのを楽しみにしているのだけれど、一番の目的は、とある人物に会うことだった。

 そもそも僕が群言堂の存在を意識しはじめたのは、その運営会社である「石見銀山生活文化研究所」発行の広報誌『三浦編集長』(現在は『三浦編集室』に変更)を読むようになったからだ。フリーペーパーとしてお客さんたちに郵送されるほか、全国様々な場所に配布されていたりもする『三浦編集長』。旅先で偶然出会うたびに手に入れては、なんて画期的な広報誌なんだろう、と静かな驚きを持ちながら愛読していた。そもそもタイトルがどうにも変だ。僕は自著において「究極のローカルメディアはあなた自身だ」ということを書いているけれど、まさにそれを体現しているかのような『三浦編集長』というタイトルは本当に嫉妬するほど最高だ。その名が表すとおり、この広報誌は三浦編集長なる人物が1人で編集している。そう、実は僕の目的はこの三浦編集長に会うことだった。彼と初対面するべく、遠く大田市までやってきたのだ。

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 大田市駅の改札を出ると見慣れた顔の青年が僕を出迎えてくれた。その青年はもちろん三浦くん。初対面なのに見慣れた顔というのはおかしいと思われるかもしれないが、僕は今回、あらためて『三浦編集長』全19号を読み返してきたので、紙面の写真ではあるものの、ここ5年の彼の顔の変化すら感じるほどに見慣れていたのだ。ちなみにここで、僕がつくる雑誌を読んだことがある人は気づくんじゃないだろうか。僕と三浦くんの大きな共通点に。それは、作り手、まさに編集長自身がやたら紙面に出てくること。そんなメディアはそうそうあるものじゃない。だからこそ僕は余計に親近感を覚えていた。僕がこれまでつくってきた雑誌も、言ってみれば『藤本編集長』だ。

 みるからに穏やかな性格の彼は、少し緊張した面持ちで僕のスーツケースを車まで運んでくれた。そりゃあそうか。僕の年齢は45歳。そして彼は33歳。彼も僕も寅年。綺麗に一回り違う先輩編集者がやってきて緊張しないわけはない。そんな風にさせてしまってなんだか申し訳ないけれど、今日1日かけてゆっくりその緊張がほぐれるとよいなと思いながら、彼の運転するインプレッサの助手席に座った。

 駅前の大型スーパーが閉店してしまったこと。近くにイオンがあること。このあたりにはスナックがやたら多いこと。駅近くの町の様子を嘆くでも喜ぶでもなく淡々と説明してくれる彼に、僕はすっかり魅了された。正悪は簡単に判断できるものじゃない。どの視点から視るかで物事の印象なんてすぐに変化する。そういうスタンスを自然に持てていることが編集者の第一条件のように僕は思う。すでに彼の文章からそのことを感じていたけれど、実際に会ってみて、いよいよそれを強く思った。そして、そんな彼がかれこれ9年間過ごしているというこの町、さらに彼が働く「石見銀山生活文化研究所」について深く知りたいという気持ちが強まる。

 20分ほど走っただろうか、いよいよ石見銀山の地、彼が暮らす島根県大田市大森町に到着した。

つづく

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

編集部からのお知らせ

Re:Standard Pop-Up Store 旅する「りすなお店」

 

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①@artos Book Store(松江市)

会期:2020年1月26日(日)~ 2020年2月9日(日)
期間中のお休みはartos Book Storeさんのカレンダーをご確認下さい。
営業時間:11時~19時 最終日は17時まで。

会場:アルトスブックストア (島根県松江市南田町7-21)

イベントの詳細はこちらから

②@コーチャンフォー釧路店(釧路市)

会期:2020年1月23日(木)〜2月16日(日)
会場:コーチャンフォー釧路店
北海道釧路市春採7丁目1番24号
0154-46-7788(ステーショナリーコーナー)
営業時間:9:00ー23:00

③@この山道を行きし人あり(山形市)

会期:2020年2月15日(土)〜3月1日(日)

会場:とんがりビル1F『この山道を行きし人あり』
山形県山形市七日町2-7-23
Tel. 023-679-5433
営業時間: 8:00ー19:00 水曜休

<トークイベント:「編集のチカラ」「デザインの力」>
出演者:藤本智士、小板橋基希(アカオニ)、萩原尚季(コロン)
日時:2月15日(土) 14:00~16:00
場所:とんがりビル1F KUGURUKUGURU
参加費:一般 1,500円、学生 500円(ワンドリンク付き)

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