地域編集のこと

第40回

サウナ施設を編集する その2

2022.02.12更新

(「サウナ施設を編集する その1」はこちら)

 サウナ施設を編集する。
 そんな風に大上段に構えてみたものの、僕のサウナ経験値はまだまだ少なく、明らかに僕はもっともっと勉強しなきゃいけなかった。書籍の編集であろうと地域編集であろうと、編集はいつだって取材(リサーチ/出会い)から始まる。そういう意味でも、まだまだ取材が足りていない気がしてならなかった。そこで僕は、そのとっかかりに、地元兵庫から秋田へと向かう道中、以前から行きたかった長野県野尻湖畔の『The Sauna』というアウトドアサウナに立ち寄ろうと思い立った。

 そもそもサウナは大きく二つに分けることができる。一つは昔ながらの銭湯やスーパー銭湯、その他都会のカプセルホテルにあるような屋内型のサウナ施設。もう一つは本場フィンランドサウナのように、より自然と近い立地で周辺の環境を活かして建てられた屋外型のサウナ施設。サウナ小屋だけでなく、川縁にサウナそのものを持ち込むテントサウナなどもその一つだ。僕はこれら屋内型と屋外型、どちらのサウナも大好きなのだけれど、今回にかほに作ろうとしているのは、俗にアウトドアサウナと呼ばれる後者だ。

 サウナ体験をもって、秋田県にかほ市の風土を感じてもらうことを目的としている僕にとって、その選択はマスト。だからこそ、その最高峰とまで噂される長野のThe Saunaに行きたかった。しかしすぐにその考えが甘すぎたことに気づく。一月前やそこらでは予約なんて到底取れないほどに人気だったのだ。そこで、The Saunaから車で約30分の距離にある戸隠高原ホテルのサウナ小屋を予約。こちらはまだ完成間もないことから直前でも予約が可能だったのだ。しかしあらためて、昨今のアウトドアサウナ人気がうかがえる。

 やってきた戸隠高原ホテルのサウナ小屋は、宿泊棟の横にあり、高台に設置されたデッキの上から戸隠高原の空気を全身で感じられる最高のロケーションだった。また、水温が一桁まで冷えたキンキンの地下水汲み上げ水風呂が気持ちよく、デッキに置かれたチェアに座れば抜群の景色が歪むほどに朦朧として、最高にととのった。

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 その体験をスタートに、さまざまなアウトドアサウナを視察ならぬサ察と称してまわりにまわったので、いきおいのままにいくつか紹介したい。

 新潟県柏崎市にある『サウナ宝来洲(ホライズン)』という海のサウナでは、水風呂代わりの真冬の日本海がおおいに荒れるなか、波に飲まれないよう気をつけながら入水。自然と真摯に対峙しながらサウナを楽しむという貴重な経験をさせてもらった。

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 お隣の富山県にできたばかりの『TATEYAMA SAUNA』では、なんと猿に遭遇。近くの木にいる猿を眺めつつ水風呂に入り、眼下に広がる富山平野の景色を眺めるというスペシャル体験を味わった。またここのサウナ室は立山連峰を模した段違いな雛壇が特徴的で、熱気が天井に上がっていく習性を活かし、その高さによって見事に熱さが違ってそのエンタメ性にも感激した。

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 友人が予約していた枠にお邪魔させてもらうことで、念願叶って訪れることができた長野県The Saunaでは、熱いサウナ室→雪ダイブ→サウナ室の無限ループをみっちり3時間繰り返し、人生で一番かもという、ととのいに到達。その環境や設備の確かさとともに、スタッフの皆さんの細やかな気配りに感動。そのホスピタリティの高さや、サウナ飯と呼ぶにはあまりにも豪華な夕食の美味さに人気の秘密を思い知らされた。

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 冬のサウナの豊かさに嵌まった僕は、さらに青森県の『十和田サウナ』にも。なんとサウナ小屋のある十和田湖畔までスノーシューを履いて数十分歩くというその体験がもうすでにサウナの始まり。雪ダイブだろうが、湖へのダイブだろうが、そのときの自分が望むままの方法で火照った身体をクールダウンさせる温冷交互浴は、自然と自分の狭間が消えていくような感覚を味わうことができた。

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 これら全て(実際はさらにこの倍以上のサウナ施設)を数週間のうちに回った僕は、それぞれのサウナがいかにその土地に根ざしたやり方をもってカタチづくられているか、またそれが、土地の弱みを強みにまで変化させていることに心底感動した。波、猿、山、雪、湖、圧倒的な自然体験をもって、飾ることなくありのままにその土地のファンを生んでいる姿に、ぼくは確かな地域編集のチカラをみた。

 この体験と思いを、にかほで作業をすすめてくれる現場のみなさんに、いかにしてシェアするか? というのはとても難しい。携わる人たち全員に同じ体験をしてほしかったけれど、そんなわけにもいかない。僕はせめてもと、にかほでつくりたいサウナのコンセプト文を書いてみた。

 それが以下のテキストだ。

にかほのほかにサウナ
「ととのいに」

鳥海山と日本海にはさまれたにかほ市は、
元滝伏流水や奈曽の白滝、獅子ヶ鼻湿原など、
豊かな「水」を感じられる場所がたくさん。
また、にかほの名産である
イチジクや岩牡蠣などを育むのも「水」。
鳥海山の伏流水がこの町の暮らしのベースとなっています。

そんなにかほの「水」を
もっと全身で体感してほしい!
と生まれたのが『サウナ ととのいに』です。

サウナを楽しむ基本は温冷交互浴。
熱波感じるサウナ室だけがサウナではありません。
サウナ体験で欠かせないのが「水」風呂です。

一年を通して水温13度の伏流水が
惜しげもなく注がれる水風呂で
火照った体をクールダウン。

眼前にある鳥海山を眺めながら
インフィニティチェアに座れば
山から海へ。それが大気となってまた山へ。
という、にかほの水循環が
自分の身体に憑依するような気持ちに。

すっかりととのったあとは、
きっと鳥海山に「ありがとう」と
手を合わせたい気持ちになるはず。

また、かつて山岳信仰が盛んだった頃は
この辺りには多くの宿坊があったと言います。

サウナで心をととのえたあと
鳥海山に抱かれるように眠れば
目覚めた時に、新たな自分がいる。
そんな体験をするべく
宿泊ルームもぜひ利用してみてください。

 正直これは理想かもしれない。だけどこういったテキストこそが設計図になるのだと僕は信じている。明確に絵を描いてしまえば、そのゴールに向かっていく速度は上がるけれど、こうやってテキストでビジョンを提示するところから、それぞれのイメージをすり合わせていく作業が、かえって強度を生んでいくように思う。このテキストをもとに、いよいよサウナ作りがスタートした。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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