地域編集のこと

第39回

サウナ施設を編集する その1

2022.01.11更新

サウナ施設を編集している。

場所は秋田県にかほ市。旧上郷小学校という閉校してしまった小学校の利活用プロジェクトの一環として・・・というよりは、そのど真ん中にサウナを据えてみようと思っている。

そもそも「サウナ」というものがもはやブームを超えて、一つのカルチャーとなりつつある現状に、僕はどうしても1人の偉大なる先輩編集者のことを想像せざるをえない。

その先輩とは、マンガ家のタナカカツキさんだ。

現在もなお執筆が進められている『サ道』をもって、まさにサウナの作法ならぬサ法をシェアし、いまやサウナ大使としてサウナ文化を広めまくっているカツキさん。しかし、このサウナに対するお仕事を見るだけでも、僕にとってカツキさんは、紛うことなき編集者だ。

カツキさんはサウナブーム以前、今から15年ほど前には現在のpodcastの走りとも言うべきインターネットラジオの楽しさを広めたり、かと思えば、魚以上に水草をこそ楽しむ「水草水槽」の魅力からアクアリウムブームを牽引したり、果ては『コップのフチ子』を考案し、子供のものだったガチャガチャを完全に大人の娯楽へと持ち上げるなど、次から次へと僕たちにあたらしい扉のありかを教えてくれる。

けれどカツキさんは時代のトップランナーという顔を一切しない。いつだって全力疾走などせず、ゆるりお散歩なペースで「どうも〜、今日もいい天気ですね〜」といった具合に、やんわり人々の懐に入り込み、ちらりちらりとそのビジョンを共有しては仲間を増やしていく。そして気づけば僕らはカツキさんが想像していた世界に肩までしっかり浸かっているのだ。

それゆえ僕は、タナカカツキという人を、ずっと理想の編集者として憧れの目でみている。

ちなみにここでサウナに関してのタナカカツキさんの功績を明確にしておくと、それは、サウナのイメージを変化させたことだ。

『サ道』が世の中に出るまで、サウナと言えば、あの熱いサウナ室のことを想像するしかなかった。おじさんたちがひな壇に座り、ただひたすらに汗をかく蒸し部屋。できることなら近寄りたくない拷問部屋なイメージしか持てなかった僕は、そんなところに自ら入っていくことの意味がわからなかった。

しかしカツキさんは、サウナ=サウナ室ではない、という実はおじさんたちだけが知り得ていた情報を、まずは水風呂の大切さをもって伝えてくれた。近年のサウナ文化の発展の源を辿れば、ここに行き着くことは間違いない。

実際にカツキさんはサ道の表紙デザインなどを通して意識的に、サウナ=赤(サウナ室)なイメージを、サウナ=青(水風呂)に変化させた。

さらには、日本独自に発展した商業サウナへのリスペクトを前提に、サウナの本場、フィンランドにおけるサウナの精神性や作法を組み込もうとするチャレンジングなサウナ施設を、漫画はもちろん、さまざまなインタビューなどをとおして後押しした。

そうやって志の高い施設のオーナーを後方支援することで、サウナブームをチームプレイで実現させていったその裏回しの素晴らしさよ。

とにかく、そうやってカツキさんがわかりやすく提示してくれた、サウナ文化の魅力をフル活用させてもらって、僕はいま、

サウナ施設を編集している。

✳︎

ではなにゆえ、秋田県にかほ市にサウナを作ろうと思ったのか? 端的にいうと、上述のとおり、最高なサウナ体験には水風呂が欠かせないからだ。

全国からサウナーが訪れる人気サウナ施設の特徴は水風呂にあることが多い。サウナ界で最も有名であろう静岡県の『サウナしきじ』の水風呂は、富士山の天然水が天井から降り注いでいる。最近人気の熊本県の『湯らっくす』は、阿蘇の天然水が同じく天井から降り注ぐ。また富山県で根強い人気の『スパ・アルプス』は、まさにアルプスの天然水が、僕のホームサウナの一つ『神戸クアハウス』は六甲のおいしい水が注がれる。これら上質な水を全身で感じるべく、サウナーたちはその土地までやってくる。僕もその一人だ。

もうお分かりだろう。秋田県にかほ市はとても水が豊かな町なのだ。2236メートルの高さを誇る鳥海山と日本海に挟まれたにかほ市は、名瀑や湧水など、豊かな「水」を感じられる場所がたくさんある。また、にかほの名産である、夏の岩牡蠣や秋のいちじく、その他、美味い米や日本酒を育むのももちろん「水」。鳥海山の伏流水がこの町の暮らしのベースとなっている。

にかほに通うようになって約10年が経つけれど、そんなにかほの「水」がこれまで、ことさらにPRされている姿をみたことがない。控えめというよりは、当たり前すぎてその魅力に気づきづらいのだろう。

鳥海山の伏流水が地下水や川となって日本海に注ぎ、それが今度は、対馬暖流にともなう水蒸気いっぱいの季節風となって、やがて鳥海山に大量の雪や雨を降らせる。それが再び浸透して地層に溜まり、長い年月をかけて湧水や川となる。にかほ市は、そういった「水循環」がとても象徴的な町なのだ。

そんな、にかほの水循環の素晴らしさを誰よりも強くわかりやすく伝えてくれる人は、ひょっとしたらサウナーのみなさんでは? と、ある時考えた。

鳥海山の麓にある小学校の敷地内で、雄大な鳥海山を眺めつつ、その伏流水を全身で体感してもらうことで、その水のチカラはもちろん、にかほの水循環の恵みのありがたさを知ってもらい、単なるサウナの良さではなく、にかほの風土のチカラそのものを力強く伝え広めたい。それゆえに僕はいま、

サウナを編集している。

ということで、僕がいまどんなサウナづくりを目指しているか。次回からこの連載でそのビジョンをシェアさせてもらいたいと思う。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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