地域編集のこと

第37回

サウナ施設を編集する その1

2022.01.11更新

サウナ施設を編集している。

場所は秋田県にかほ市。旧上郷小学校という閉校してしまった小学校の利活用プロジェクトの一環として・・・というよりは、そのど真ん中にサウナを据えてみようと思っている。

そもそも「サウナ」というものがもはやブームを超えて、一つのカルチャーとなりつつある現状に、僕はどうしても1人の偉大なる先輩編集者のことを想像せざるをえない。

その先輩とは、マンガ家のタナカカツキさんだ。

現在もなお執筆が進められている『サ道』をもって、まさにサウナの作法ならぬサ法をシェアし、いまやサウナ大使としてサウナ文化を広めまくっているカツキさん。しかし、このサウナに対するお仕事を見るだけでも、僕にとってカツキさんは、紛うことなき編集者だ。

カツキさんはサウナブーム以前、今から15年ほど前には現在のpodcastの走りとも言うべきインターネットラジオの楽しさを広めたり、かと思えば、魚以上に水草をこそ楽しむ「水草水槽」の魅力からアクアリウムブームを牽引したり、果ては『コップのフチ子』を考案し、子供のものだったガチャガチャを完全に大人の娯楽へと持ち上げるなど、次から次へと僕たちにあたらしい扉のありかを教えてくれる。

けれどカツキさんは時代のトップランナーという顔を一切しない。いつだって全力疾走などせず、ゆるりお散歩なペースで「どうも〜、今日もいい天気ですね〜」といった具合に、やんわり人々の懐に入り込み、ちらりちらりとそのビジョンを共有しては仲間を増やしていく。そして気づけば僕らはカツキさんが想像していた世界に肩までしっかり浸かっているのだ。

それゆえ僕は、タナカカツキという人を、ずっと理想の編集者として憧れの目でみている。

ちなみにここでサウナに関してのタナカカツキさんの功績を明確にしておくと、それは、サウナのイメージを変化させたことだ。

『サ道』が世の中に出るまで、サウナと言えば、あの熱いサウナ室のことを想像するしかなかった。おじさんたちがひな壇に座り、ただひたすらに汗をかく蒸し部屋。できることなら近寄りたくない拷問部屋なイメージしか持てなかった僕は、そんなところに自ら入っていくことの意味がわからなかった。

しかしカツキさんは、サウナ=サウナ室ではない、という実はおじさんたちだけが知り得ていた情報を、まずは水風呂の大切さをもって伝えてくれた。近年のサウナ文化の発展の源を辿れば、ここに行き着くことは間違いない。

実際にカツキさんはサ道の表紙デザインなどを通して意識的に、サウナ=赤(サウナ室)なイメージを、サウナ=青(水風呂)に変化させた。

さらには、日本独自に発展した商業サウナへのリスペクトを前提に、サウナの本場、フィンランドにおけるサウナの精神性や作法を組み込もうとするチャレンジングなサウナ施設を、漫画はもちろん、さまざまなインタビューなどをとおして後押しした。

そうやって志の高い施設のオーナーを後方支援することで、サウナブームをチームプレイで実現させていったその裏回しの素晴らしさよ。

とにかく、そうやってカツキさんがわかりやすく提示してくれた、サウナ文化の魅力をフル活用させてもらって、僕はいま、

サウナ施設を編集している。

✳︎

ではなにゆえ、秋田県にかほ市にサウナを作ろうと思ったのか? 端的にいうと、上述のとおり、最高なサウナ体験には水風呂が欠かせないからだ。

全国からサウナーが訪れる人気サウナ施設の特徴は水風呂にあることが多い。サウナ界で最も有名であろう静岡県の『サウナしきじ』の水風呂は、富士山の天然水が天井から降り注いでいる。最近人気の熊本県の『湯らっくす』は、阿蘇の天然水が同じく天井から降り注ぐ。また富山県で根強い人気の『スパ・アルプス』は、まさにアルプスの天然水が、僕のホームサウナの一つ『神戸クアハウス』は六甲のおいしい水が注がれる。これら上質な水を全身で感じるべく、サウナーたちはその土地までやってくる。僕もその一人だ。

もうお分かりだろう。秋田県にかほ市はとても水が豊かな町なのだ。2236メートルの高さを誇る鳥海山と日本海に挟まれたにかほ市は、名瀑や湧水など、豊かな「水」を感じられる場所がたくさんある。また、にかほの名産である、夏の岩牡蠣や秋のいちじく、その他、美味い米や日本酒を育むのももちろん「水」。鳥海山の伏流水がこの町の暮らしのベースとなっている。

にかほに通うようになって約10年が経つけれど、そんなにかほの「水」がこれまで、ことさらにPRされている姿をみたことがない。控えめというよりは、当たり前すぎてその魅力に気づきづらいのだろう。

鳥海山の伏流水が地下水や川となって日本海に注ぎ、それが今度は、対馬暖流にともなう水蒸気いっぱいの季節風となって、やがて鳥海山に大量の雪や雨を降らせる。それが再び浸透して地層に溜まり、長い年月をかけて湧水や川となる。にかほ市は、そういった「水循環」がとても象徴的な町なのだ。

そんな、にかほの水循環の素晴らしさを誰よりも強くわかりやすく伝えてくれる人は、ひょっとしたらサウナーのみなさんでは? と、ある時考えた。

鳥海山の麓にある小学校の敷地内で、雄大な鳥海山を眺めつつ、その伏流水を全身で体感してもらうことで、その水のチカラはもちろん、にかほの水循環の恵みのありがたさを知ってもらい、単なるサウナの良さではなく、にかほの風土のチカラそのものを力強く伝え広めたい。それゆえに僕はいま、

サウナを編集している。

ということで、僕がいまどんなサウナづくりを目指しているか。次回からこの連載でそのビジョンをシェアさせてもらいたいと思う。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • 高橋さん家の次女 第2幕

    序 〜怒られの人〜

    高橋 久美子

     話題沸騰中の高橋久美子さんによる書籍『その農地、私が買います』の続編が、本日よりスタートします!「実家の畑をソーラーパネルにしたくない」。その思いを胸に、故郷の農地をめぐる複雑な事情とご自身の奮闘ぶりを赤裸々に綴ってこられた高橋さん。書籍発表を経た今、地元で、東京で、どんな声を聴き、何をしようとされているのでしょうか? 「続編を」というたくさんの声にお応えして、「高橋さん家の次女」第2幕がついに開幕します!

  • 斎藤幸平×タルマーリー(渡邉格・麻里子)対談 コモン再生は日本のグローバルサウスで芽吹く(前編)斎藤幸平×タルマーリー(渡邉格・麻里子)対談 コモン再生は日本のグローバルサウスで芽吹く(前編)

    斎藤幸平×タルマーリー(渡邉格・麻里子)対談 コモン再生は日本のグローバルサウスで芽吹く(前編)

    ミシマガ編集部

    『人新世の「資本論」』(集英社新書)がロングセラーになっている斎藤幸平さんと、『菌の声を聴け』(ミシマ社)の著者タルマーリー(渡邉格・麻里子)の対談が実現しました! パンクロック、食、気候変動、マルクス、脱成長コミュニズム・・・。実践と理論を通じて、これからを生き延びるためのコモン再生の方法を探るエキサイティングな対談の一部をお届けします!

  • 『その農地、私が買います』、多彩な反響が続々!!『その農地、私が買います』、多彩な反響が続々!!

    『その農地、私が買います』、多彩な反響が続々!!

    ミシマガ編集部

     発売から約1カ月、高橋久美子著『その農地、私が買います 高橋さん家の次女の乱』は、感想をくださる方々の老若男女の幅や、どの角度から興味を持ち心を動かしてくださったかという切り口の多彩さが、際立っているように感じます。たくさんの媒体の方に取材いただくなかで、あらためて見えてきたこと、そして本書の魅力を、編集ホシノからお伝えします。

  • 『辛口サイショーの人生案内DX』刊行記念 最相葉月さんに訊く!「人生案内」の職人技 (前編)『辛口サイショーの人生案内DX』刊行記念 最相葉月さんに訊く!「人生案内」の職人技 (前編)

    『辛口サイショーの人生案内DX』刊行記念 最相葉月さんに訊く!「人生案内」の職人技 (前編)

    ミシマガ編集部

     先日ついに『辛口サイショーの人生案内DX』が発刊しました! 多種多様なお悩みに対する最相さんの回答は、「どうやったらこんな答えを編み出せるのか?」と思ってしまうものばかり。「誰かの悩みに触れつづけると、どんな感覚になるのだろう?」という問いも湧きました。とにかく、舞台裏が気になってしかたがありません。 そこで、新人スミが最相さんご本人にインタビューさせていただきました! 「人生案内」の職人技を垣間見れば、本に収録された回答も一層おもしろく読めること間違いなし。貴重なお話の数々を、2日間にわたってお届けします!

この記事のバックナンバー

01月11日
第37回 サウナ施設を編集する その1 藤本 智士
12月11日
第36回 地域編集者としての街の本屋さんのしごと。 藤本 智士
11月07日
第35回 サーキュラーエコノミーから考える新しい言葉のはなし 藤本 智士
10月08日
第34回 編集視点を持つ一番の方法 藤本 智士
09月04日
第33回 編集力は変容力?! 藤本 智士
08月11日
第32回 「言葉」より「その言葉を使った気持ち」を想像する。 藤本 智士
07月12日
第31回 「気づき」の門を開く鍵のはなし 藤本 智士
06月07日
第30回 ポジションではなくアクションで関係を構築する。ある公務員のはなし。 藤本 智士
05月13日
第29回 散歩して閃いた地域編集の意義 藤本 智士
04月05日
第28回 アップサイクルな編集について考える 藤本 智士
03月06日
第27回 惹きつけられるネーミングのはなし 藤本 智士
02月06日
第26回 比べることから始めない地域の誇り 藤本 智士
01月08日
第25回 フィジカルな編集のはなし 藤本 智士
12月09日
第24回 地域おこし協力隊を編集 藤本 智士
11月05日
第23回 まもりの編集 藤本 智士
10月08日
第24回 編集にとって大切な「待つこと」の意味 藤本 智士
09月05日
第23回 「にかほのほかに」のこと 03 〜ラジオからはじめる地域編集〜 藤本 智士
08月09日
第22回 「にかほのほかに」のこと02 〜DITとTEAMクラプトン〜 藤本 智士
07月07日
第21回 「にかほのほかに」のこと01 〜ロゴの編集〜 藤本 智士
06月11日
第20回 オンラインサロンとせいかつ編集 藤本 智士
05月10日
第19回 編集スクール的オンラインサロンの姿を求めて 藤本 智士
04月06日
第18回 「三浦編集長」が編集の教科書だと思う理由 藤本 智士
03月09日
第17回 根のある暮らし編集室 藤本 智士
02月05日
第16回 三浦編集長に会いに 藤本 智士
01月11日
第15回 「トビチmarket」を編集した人たち 後編 藤本 智士
01月10日
第14回 「トビチmarket」を編集した人たち 前編 藤本 智士
12月14日
第13回 「トビチmarket」 藤本 智士
11月17日
第12回 書籍から地域への必然 藤本 智士
10月19日
第11回 書籍編集と地域編集 藤本 智士
09月08日
第10回 編集⇆発酵 を行き来する。 藤本 智士
08月17日
第9回 編集発行→編集発酵へ。 藤本 智士
07月16日
第8回 編集発酵家という存在。 藤本 智士
06月14日
第7回 いちじくいちのこと 06 藤本 智士
05月16日
第6回 いちじくいちのこと 05 藤本 智士
04月10日
第5回 いちじくいちのこと 04 藤本 智士
03月14日
第4回 いちじくいちのこと 03 藤本 智士
02月13日
第3回 いちじくいちのこと 02 藤本 智士
01月18日
第2回 いちじくいちのこと 01 藤本 智士
12月15日
第1回 「地域編集のこと」その前に。 藤本 智士
ページトップへ