第88回
イベントの編集
2026.02.09更新
先週一週間ほど、大雪の青森県に滞在していた。とはいえ、災害級に雪が降り続ける青森市ではなく、太平洋寄りで少しばかり雪が少ない十和田市。しかしそんな十和田でさえ、滞在中はとんでもない降雪量で、まさに雪の山小屋に閉じ籠るような心地だった。そのおかげで溜まっていた原稿がやけに進んだ。
宿泊させてもらったのは、以前本連載でも紹介した『TSUNDOKU BOOKS』という本屋さん。もちろん本棚の前に布団を敷いていたわけではなく、その2階に泊まらせてもらった。TSUNDOKUの2階は『cozy』と名付けられた宿になっている。
TSUNDOKU BOOKS店主の長嶺さんは、もともと東京で編集者として仕事をされていて、訳あって地元十和田に戻ることになり、自らの経歴を活かしながら、街のためになる仕事をしようと書店を開くことを思いついた。だからといって編集の仕事をやめるわけではなく、ある程度そちらの収入も見込みつつだが、十和田で町の本屋として生活できるほどの収入を得るのは難しいだろうと長嶺さんは予想した。
そこで、宿の運営を事業計画に盛り込み、書店の2階を宿泊施設にするべく、しっかりお金をかけてリノベーションしたのだ。だからとてもよい宿。それこそぼくは、前回滞在させてもらった際に寝室のマットレスの快適さに惚れこんで、自宅に同じものを購入したくらい。こういう、調度品に手を抜かないところが、編集者だなと思う。
さすがにこの季節は、少々寒いのが難点だけれど、それもまた雪国の生活を味わえてわるくない。もちろんエアコンもしっかり完備しているので、暖房をかけておけばいいし、長嶺さんも「この時期はあきらめているので、しっかり暖房かけてくださいね」と言ってくれる。だけど、つい電気代はいくらになるのだろうと考えてしまう僕。だからといって暖房を止めるわけでもないのだが、寒さよりも電気代が気になるというのが冬場のちょっとした弱点かもしれない。
TSUNDOKU BOOKSは営業をはじめてもうすぐ2年という新しいお店だが、当初の予想に反してとても本が売れている。僕の本もすでに何冊売ってくれたかわからないほどだ。それだけ街の人たちに望まれていた場所なのだろう。よい意味で当初見込みとはずれたことから、2階の宿の営業がどんどん後回しになっていたものの、いよいよその営業を本格始動させようかというタイミング、冬真っ只中のオフシーズンということも含めて、1週間ほど泊めてもらえることになったというわけだ。
せっかく長期滞在させてもらう間に、長嶺さんのインタビューを録ろうと、あらためて取材をさせてもらったり、長嶺さんが新たに始めた出版レーベルから一緒に本を出そうと、その企画について考えたり、充実した日々を過ごすなか、折角だからと長嶺さんが提案してくれて、滞在半ばに急遽トークイベントを開催することになった。
イベントタイトルは「イベントのつくりかた・運営のしかた」。
それも今日告知して明日開催という過去最高に急すぎる展開だったけれど、お店のスペース上、15名ほどの定員だったこともあってすぐに満席になった。しかし15名とはいえ、今日の明日で即定員いっぱいになるんだから、長嶺さんの地域の人たちに対する影響力はすごいものだなとあらためて感心する。
さて肝心の内容だが、昨年末に僕が企画し、宮城県の仙台で開催したZINEイベント「BOOK TURN SENDAI」について、自身も出店してくれていた長嶺さんが、主催者の僕に直接質問をしていくというもの。十和田入りする前から、いろいろと質問があるとは聞いていたけれど、それを居酒屋などで個人的に聞いてしまうより、イベントにして街の人たちとシェアしてした方がいいんじゃないかと考えるところが、実に編集者的だなあと思う。編集とは個人的な思いに社会性を持たせるチカラがあるのだ。そこに僕はおおいに共感したから、二つ返事で了解したけれど、それ以前に泊めてもらっているのだから、まあ、なんだってやる。
以下は、長嶺さんが実際に個人のInstagramだけで、急遽告知したテキストの引用。
2025年12月、仙台で初開催され、わずか5時間で約3,700人が来場した本のイベント『BOOK TURN SENDAI』。
その企画・運営を手がけた編集者・藤本智士さんが
いま十和田に滞在しています。
個人的にじっくり「イベントのつくりかた・運営のしかた」を聞こうと思っていたのですが、......それは、さすがにもったいない。
ということで!
TSUNDOKU BOOKSにて
少人数のプチトークイベントを開催します。
来月2月10日(火)開催予定の「十和田まちなか夜市(仮)」にも関わっている、編集者/TSUNDOKU BOOKS店主の長嶺が、BOOK TURN SENDAIと夜市の話を行き来しながら、イベントづくりや運営の裏側についてお話を伺います。
イベントの裏側、人が集まる場の設計、「続いていく企画」って何が違うんだろう?
肩の力を抜いて聞きたい1時間です。
さすがの編集。
参加費は500円〜の投げ銭制にしてもらった。それで十分だ。
直前告知にもかかわらず、面白そうだとやってきてくれた、みなさんの熱量は実に高く、進行が長嶺さんということもあって、なんだかいろいろと喋り倒してあっというまに60分どころか90分がすぎていた。
BOOK TURN SENDAIというイベントをどう組み立てていったかについて、お客さんを前にあらためて話すことで、さまざまを再認識して、僕自身もとても整理されたから、このイベントで話したことをベースに、TSUNDOKU BOOKSのレーベルから『イベントの編集(仮)』として出版しようという話にまで転がって、まったくもって、いい流れだなと思う。そして、こういう流れを生むことこそが、編集の醍醐味なんだよなとも思った。
突然のイベント告知も含めた、地域の人たちの巻き込み方しかり、長嶺さんの地域編集力をみせてもらったよい体験だった。
さて、どんな一冊が出せるのか、自分でもいまから楽しみだ。
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