地域編集のこと

第20回

オンラインサロンとせいかつ編集

2020.06.11更新

 3年前の出版ツアーを機に、自分が培ってきた編集スキルをより広くシェアしたいという思いと、全国各地のみなさんの悩みをオンラインで一緒に解決していけないものかと考えた僕は、その答えを探しに愛媛県松山市でオンラインサロンを営む、大木春菜ちゃんのもとへ向かった。待ち合わせ場所の『レモンソルト』という喫茶店(その名の通りレモンソルトの瓶詰めが並びレモンスカッシュが絶品だった)にやってきた春菜ちゃんは、あきらかに3年前よりも逞しく変化していて、僕はその瞬間にもう来てよかったと思った。(前回の記事はこちら

藤本 出会ったときはまだオンラインサロン始めてなかったよね?

大木 してなかったですね。

藤本 やろうと思ったのはどうして?

大木 下の子が生まれたのがけっこう大きくて。下の子にハンディがあるので家でできることないかなっていうのがあったんです。そのときは夫も会社員で。いまは夫が会社を辞めて、結局私がフルで動けるようになったので、そこに固執することはなくなったんですけど。でもせっかくなのでオンラインサロンに入って勉強をし始めたら、途端にネット系の仕事が増えたんです。愛媛の人たち、ネットに弱い人が多いので。それで、もしかしてこっちのスキルを磨いたら役に立つかもと、SNSの活用とかを積極的にやり出したら、どんどんそういうお仕事が。

藤本 確かに一時期、春菜ちゃんが「発信のお手伝いしますよ」って熱心にPRしてたね。ちなみにオンラインサロンは、はあちゅうさんのサロンに入ってたんだっけ?

大木 はい。はあちゅうサロンにも入ってたんですけど、もう一つ、同時期にWordPress(※ワードプレス)のコミュニティが運営している「WordCamp 男木島」(2018年)っていうイベントの実行委員にも入っていました。それも、私にとってはサロンみたいなものでした。

※インターネット全体における30%がWordPressで作られているとも言われるほど多くの人に支持されているオープンソースのホームページ作成ソフト

藤本 はあちゅうさんのサロンと、WordPressのコミュニティって、だいぶ性質が違いそう。

大木 そうですね。空気感とかは、ほぼ真逆だったかもしれないです。はあちゅうサロンは、テーマが「サロンメンバーのなかから、スターをつくる!」だったので、メンバーの個性が強くて、若い人も多いし、勢いもすごくて。その勢いにちょっと疲れてしまって、いったん退会してた時期もありました。でも、はあちゅうさんはもちろん、メンバーのSNSの活用や自己ブランディングの仕方がすごく勉強になりました。入っていたのは短期間だったんですけど、とにかく濃厚でしたね〜。今でも一部のメンバーとは仲良しで、私のサロンにも、元はあちゅうサロンのメンバーがたくさん在籍してくれています。

藤本 そうなんだ。

大木 WordCamp男木島の方は、イベントを成功させるために全員が完全ボランティアで関わるチームで、メンバーのITスキルが凄すぎるんで、正直、私に何ができるのかが分からなくて、最初はちょっとお客様気分だったんですけど、うまいこと巻き込んでくれて。イベント運営を「ジブンゴト」に変換してくれたんですね。メンバーみんなが大人だったのかも・・・とにかく、さすがITスキルがすごいんですよ。今、私のオンラインサロンで使っているSlackも、この活動で知って便利だな〜って思って使い始めたんです。

藤本 やっぱり実体験って大事だね。そういう体験を経て、自分でもサロンをやってみたいと思った?

大木 そうですね。その2つのコミュニティの中間というか、自分らしいものを作りたいなっていうのはあったかもしれないです。でも実際つくるとなると、怖くて。

藤本 怖いよね。よくジャンプできたね。

大木 なので最初はちっちゃいところから始めたんですよ。いまはないんですけどCHIPっていうファンクラブアプリを使って。私は手帳の講師をしてるんで、毎日自分の手帳をアップしたら誰か見たい人いるかなと思って、月額200円くらいで始めたんです。そのときに10人位いらっしゃったんですけど、200円でこのくらいだったらサロンはもっと減るだろうなと思ったし、実際にコミュニティに入って、コミュニティ運営ってめっちゃ大変っていうのがわかってたので、ちょっとどうしようかなと。

藤本 運営の大変さを僕も想像してしまうなあ。

大木 そうなんですよね。いろんな人がいらっしゃるので。

藤本 そこは僕もめちゃめちゃ不安。なのに、よく始めたよね。

大木 地方にいるので、仕事を一緒にやってくれる仲間を探したかったっていうのも大きくて。

藤本 あ〜、それもまたリアル。僕がサロンを始めたいと思ったのも、一番はそこかも。いろんな地方にお邪魔して思うことなんやけど、都会に比べて、地方の人たちは「チームプレイ」に馴れてないなあって思う。

大木 そうですよね。

藤本 僕は自著でも「編集力とは理想のビジョンをメディアを活用して現実にしていくチカラ」とか書いてるけど、1人ではビジョンをカタチに出来ないから、チームプレイは欠かせない。だから、逆に言うと仲間づくりをうまくやれてる人たちは、いろんな壁を乗り越えていけてるなって思う。

大木 手が足りないときとか、一緒にやれる人がいたらと思うんですけど、なかなか出会えなくて。

藤本 チームプレイが苦手って地方における結構致命的な弱みやけど、逆に言えば、そこさえチェンジ出来れば、農産物の豊富さとか家賃の安さとか、都会で暮らすより、よっぽど豊かな暮らしを体感しやすいから、地方にいながらにして仲間を増やすっていう春菜ちゃんのアクションはすごく真っ当やなって思う。

大木 ありがとうございます。実際サロンのメンバーさんに仕事をまわそうと思うと、かなり難しいっていうのもわかったんですけど。

藤本 そうかー。

大木 「デザインできます!」「発信のお仕事できます!」と言ってもらったとしても、それぞれのスキルLVって仕事を見てみないと分からないですよね。メンバーのスキルをお試しするためにも、低料金で私のウェブマガジンのインスタグラムの画像作成をしてもらったり、デザイン仕事の下書きをつくってもらったりもしたんですけど、お試しだから安い金額でしかお願いできないし、なんだか自分が「摂取している」ような気持ちになってしまって・・・。そのうち、仕事の応募をしても、手が挙がりづらくなってしまったのでサロン内で募集するのは辞めました。その代わり、メンバーを個人的にスカウトして、コミュニティ運営を手伝ってもらったり、YouTubeのBGMをつくってもらったり、そういうことはできてます。逆に、メンバーからお仕事いただいたりも!

藤本 なるほど。

大木 私のサロンは、「編集」という名前こそついていますが、サロンメンバーに編集者はほんの少ししかいなくって。みなさん会社員だったり、主婦だったり、さまざまな暮らしをしているんです。どちらかというと、自分についてもうちょっと深めていきたい人が多くて。「自分を知るためのワーク」とか、お題を出して取り組んでもらう方が、みんな楽しそうだなと気づきました。だから、誌面の編集というより、自分自身の内面の編集に力を入れています。

藤本 勉強になるなあ。ちなみに月額いくらだっけ?

大木 2500円ですね。

藤本 すごいなあ。

大木 ある程度のお金を払って入ってもらう方が、いい人たちが集まってくれるかもと。自分の思いに共感してくれる人で、2500円を突破して来てくれる人なら、大丈夫なはずだと思って。ちょっと怖いけど、現時点での私に興味を持ってくれる人がいたらうれしいな、一人でもいたらいいか、くらいの気持ちでやったんですよ。

藤本 うー勇気いる。

大木 でも実際はCHIPでやったときよりも申し込みがたくさん来てびっくりしました。最初は30人くらいでやれたらと思っていたのが、定員を45人まで増やしたり。いまは落ち着いて24人とかなんですけど、私の場合は、一人ひとりとコミュニケーションをとりたかったので40人以上は私が覚えきらんと思って。あと、なんのプラットフォームを使うかとかもすごい悩みました。

藤本 結局はCAMPFIREにしたんだっけ?

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大木 CAMPFIREを使って申し込んでもらって、Slackでコミュニケーションをとるっていう感じです。メンバーのメンツを見ていて、すごくおもしろいなと思うんですけど、やっぱり私に興味があって来てくれたり、私の発信を見て入ってくれるので、根っこが一緒な人が多いんです。実はまさに今日、サロンのなかで一人、横浜から愛媛に移住してきてくれた人もいるんですよ。

藤本 今日?! すごい。

大木 オフ会を愛媛でするって言ったら、青森から来てくれたりとかも。

藤本 へえー。でも基本は愛媛の人が多いんだよね?

大木 半分くらい愛媛で・・・でも正直、愛媛の人がこんなに入ってくれるとは思ってなかったんです。最初はツイッター上のお友達がワっときてくれたんですけど、案外愛媛の人が多くてびっくりでした。「オンラインサロンってよくわからんけど、面白そうやけん入ってみた」って。

藤本 愛媛以外の人はどこが多いの?

大木 バラバラですね。なぜか青森出身が3人もいたりとか。九州もいるし。

藤本 そもそも面識があった人たちというわけでもなく?

大木 最初は面識ある人がほとんどでした。春菜ちゃんが面白そうなことやってるから、のぞいてみようみたいな。オンラインに強くなりたいから、ちょっと様子見てみようとか。あとは案外、「編集」っていうワードに惹かれて入ってくれる方も多かったです。

藤本 それこそ、はあちゅうさんのサロンに入ってた友達も?

大木 最初はほぼそのメンバーでした。

藤本 そうか、それも大きかったんやね。馴染みがあると参加しやすいもんな。サロンの受付のプラットフォームにCAMPFIREを選んだのはなぜ?

大木 CAMPFIREは会社の気質みたいなものが好きだから選んだんですけど、最初は名簿管理の仕方など、仕組みを覚えるまでが大変でした。はあちゅうサロンのときがCAMPFIREだったので馴染みもあったんですけど、名簿管理してる子が友達だったんでめちゃくちゃ大変っていうのは聞いてたんですよ。だけどコツを掴めば大丈夫です。

藤本 いまはnoteとかでもサロンっぽく使えたりするよね。
 
 noteのサークル機能

大木 そうですね。サロンメンバーだけでやりとりできるようになってたりとか、そういう機能が追加されてますね。だけどやっぱり私はサロンのなかでチャンネル分けをしたくって、Slackに関しては、チャンネル分けできるのがいいなと思って使ってます。
 
 Slack

藤本 僕も普段、業務ごとのSlackつくって進行管理とかやってるから、Slackをベースにするのがいいかなと思ってる。ただ運営管理の部分としてどういうプラットフォームを使うといいのかなっていうのは迷ってて。


大木
 規模感にもよるんですけど、自動決済システムがあればBASEでもいいと思うんですよ。

 BASE

定期購入の仕組みさえクリアできたら特にCAMPFIREみたいにオンラインサロンに特化した仕組みを使わなくても。普段のやりとりはSlackに移行するので。あとは、100人以下とかであれば名簿もまだ管理しやすいですし。はあちゅうサロンのときは200人以上とかいたので、既存の仕組みを使わないと厳しかったかなと思うけど。ただBASEは継続をやめるときにオーナーに言わないといけない。私はちょっと敷居を下げたかったんで、ましてや知り合いが多いから気軽に抜けられるようにしたかったんですよ。そう思ってCAMPFIREにしたんです。無言で抜けられるので、注意書きに「無言で抜けてください、私には一切気を使わないでください」って書いて。なので、出たり入ったりしてくれてるんですよね。

藤本 それはいいなあ。僕も気を使われたくないからそうしようかな。逆に、最初からいままでずっといる人も結構いらっしゃるの?

大木 けっこう残ってくれてますね。

藤本 いま何年目だっけ?

大木 1年と少しかな。つながりも強くなってきました。サブスクの魅力かなと思いますけど、逆に1ヶ月しかいなかった人も覚えてるし、向こうも気にしてくれてて、ずっと仲良くやれるのは楽しいですね。仲間が増え続けてるような感じで。

藤本 具体的なことばっか聞いちゃうけど、Zoomとかも使ってるよね?

大木 はい、使ってますね。

藤本 Zoomとかリモートのアプリ使うにあたって、通信環境とか機材の準備なんかは地方のかたでもスムーズにやれてる?

大木 全く問題ないですね。スマホで参加したりとか、Zoomしたことない人でもURLクリックするだけでできるので。初心者の人はミュートしてると声が聞こえないよっていうことくらい教えてあげれば全然大丈夫です。私も最初は心配してたんですけど。アーカイブも残せるから参加できなくても損な感じもなくて。

藤本 そうか、あんまり気にしなくてもスマホ環境ぐらいはあるもんね。ある意味テクノロジーの進化の恩恵だな。どんな地域にいても、というか逆に地方にいるほうがアドバンテージがある感じさえする。

大木 そうですね。Slackがわかりづらいっていう方がたまにいましたけど、慣れてしまえば。

藤本 具体的な日々の負荷って、どんな感じ?

大木 そうですね。ほかのサロンにいたときに、すごく時間とられちゃったんですよ。それに気をつけなきゃってすごく思って。

藤本 そのときは参加者として?

大木 そうですね。なのでオーナーになるならなおさら気を配らないといけないなと。うちは仕事をまわさないと一家が大変なので、うちの夫にもやるなら時間決めてやってねって言われてたんですけど。いまはどのくらいやってるかわからないくらい息をするようにやってるので、あんまり負荷にはならないようになりました。

藤本 たしかに少なくともオーナーにとって、生活の一部になってなきゃだね。

大木 実際やってみないと加減がわからないんですよね。

藤本 確かに。最初に描いてても変わってくんだろうな。変えられるっていうのがまたいいとこでもあるし。

大木 そう思います。

藤本 実は今回、オンラインサロンのことについて春菜ちゃんに聞きたいと思ってやってきたんだけど、逆に僕から一つ伝えたかったことがあって、それは春菜ちゃんが掲げている「せいかつ編集」っていう言葉のこと。

大木 はい。

藤本 いまミシマガで「地域編集のこと」っていう連載をしているんだけど、この連載をはじめたのは、そもそも自著『魔法をかける編集』で編集って言葉の意味をもっと広義にしたいっていう思いがあって、ありがたいことに、徐々にそうなってきたと思うんだけど、同じくもう少し早い段階で広義に認知されてた「デザイン」って言葉が、グラフィックデザイン・ファッションデザイン・コミュニティデザインと、つまりデザインの前に〇〇がつくことで、うまくカテゴライズされてるのと違って、編集ってそれがあまりないなあと思ってて。だから編集をより広義にしていく過程として、同じく〇〇編集っていうふうに編集の前に◯◯がつくようにしていくことって大事だなと。そう思ったときに、春菜ちゃんが掲げている「せいかつ編集」っていう言葉は、ひとつの発明だなあって思ってて。

大木 うれしい。

藤本 「せいかつ編集」って、それこそ僕が思ってる編集の概念を言い当てられてしまってるくらいハッとする言葉で、嫉妬するくらい、すごくいい言葉。そういう、それぞれの〇〇編集みたいなものがあるといいねっていうのが、サロンにおいても言いたいんだよなあ。

大木 あーうれしいです。というか、なるほどです。

藤本 リアルな場の編集もこれまで以上にやりながら、でも、オンラインだからこそやっていける編集みたいなこととか、その組み合わせとかいろいろ考えたい。今日はほんと勉強になった。ありがとう。

大木 こちらこそありがとうございます。

藤本 あ、ごめん。最後にもうひとつだけ聞きたい。最初迷ったと思うけど、2500円っていう価格はそれで妥当だったと思う?

大木 そう思いますね。上げすぎると返さなきゃっていう気持ちが強くなるし、安いと何やってるかわからなくなるし、仕事に影響が出てもいけないので。そのへんは夫が経営をしてるので夫にも相談しつつ。2500円くらいだったら頑張ったら出せるし、気軽すぎないんじゃないかなと。あと、私の場合はちょっとした裏話とかも書くので、誰でも入られたら困るなっていうのもあったんで。絶妙な金額でしたね。

藤本 気軽さと本気度とのバランスだね。

大木 そこはけっこう大切かもしれないです。私も他にもいろいろ入ってみたりしたんですけど、金額でだいぶメンバーのキャラが振り分けられるというか。安ければ安いほど、ちょっと変わった人が多く入ってきちゃうイメージ。だから私のなかで2500円はちょうどいいなっていう気がします。一方で高額サロンは、メンバーの「ここでみんな何かを得たい!」っていう意識がすごく強い気がしますね。インフルエンサーが運営するオンラインサロンが「宗教だ!」とか「摂取だ!」ってSNSで炎上しているのもよく見かけますが、それはメンバーの期待と、オーナーの供給に差が生まれちゃったのかなぁって思います。

藤本 人が増えるとリスクもつきものだよね。やり方としては何が正しいわけでもないし。

大木 募集の文言でみんな集まってくるので。それを読み取ってくる人は、いい感じの人が集まると思う。

藤本 そうだなあ。募集の文言大切。そこしっかり頑張ってみる。ほんとありがとう。

 ずいぶんと現実的なやりとりになったので、同じくサロンをはじめてみようかなと思っている人には参考になったんじゃないだろうか。それがデジタルであれアナログであれ、雑誌や本ではなく「場所」というメディアを編集するスキルを身に付けたいと思っている僕にとって、オンラインサロンの運営はやはりとてもいい気がしている。

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 りスクール(Re:School)

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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