地域編集のこと

第1回

「地域編集のこと」その前に。

2018.12.15更新

 昨年、自著『魔法をかける編集』を出版。その記念ツアーとして、半年間で日本全国62箇所をまわったのは、既存の書籍流通の仕組みのなかで初版部数6000部程度の本を届けるのにはいろいろと無理があると感じたからだった。

 ずいぶん少なくなっているとはいえ、それでも全国に12000軒以上あるという書店に6000部の本を配本するというのは、とても難しい。初版から何万部と刷れるような本であれば既存の流通網を活かしてドーンと配本できるかもしれないけれど、全店わずか1冊ずつにしても数が足りない6000部をどこにどう置くかは、テクニックとフィロソフィーが必要だ。正直これは大きな出版社ほど苦手。従来の出版ビジネスのスキームに合っていない。版元のインプレスさんは、よいもわるいも大きな出版社。そのチカラを活かすにはもっと部数が必要だった。

 ちなみに『魔法をかける編集』は、「編集」という、およそ一般の人たちには関係ないだろう技術が、実は誰でも使える身近なものだということを伝えたくて書いた本だ。ゆえにマスメディアの中心から遠い地方の方たちにこそ、届ける意義があると思っている。兵庫県に住みながら、さまざまな地域の、さまざまな事柄に編集を施してきた自分なりの知見を、各地のみなさんとシェアしたい。そんな思いが僕の筆を走らせた。

 発売日当日、Amazonの出版・マスコミカテゴリーで1位となったのをみて心底嬉しかった。しかし、そこからしばらくの期間、ずっと1位をキープしているのをみて、晴れ晴れと嬉しかったはずの気持ちに雲がかかりはじめた。これは裏返すと、書店を覗いてみたけれど売ってなかったからAmazonで買ったという方がたくさんいらっしゃるということじゃないか? つまり、届けたいと思った肝心の地方の人たちにお届けできていない証なんじゃないか? と。

 どうしても気になった僕は、営業さんに配本先を教えてもらった。予想通り、僕の本をたくさん入荷して店頭に平積みしてくださっていたのは、東京を中心とした都会の書店さんばかりだった。僕はあまりのショックに立ちくらみがした。しかし仕方がない。決して出版社や、ましてや書店さんがわるいわけはない。そういう仕組みなのだ。僕の本がそこにフィットしていないだけだ。つまりこれは僕の責任だ。そこで僕は、事前に決まっていた出版記念イベントの数を増やすべく、全国の友達に電話をしてまわった。当初2箇所だったイベントは、あっという間に15箇所。それでも足りないと不安に思ったけれど杞憂だった。スタートしてしまえば、来てくださったお客さんが「うちの町でも」と言ってくださったり、ブログに設置したメールフォームから依頼してくれたりして、気づけば62箇所にまで膨らんでいた。

 結果、半年の間にのべ2570人の方に、お話をさせてもらうことができた。ちなみに『魔法をかける編集』は990冊も売れた。同時に出版したもう1冊の新刊と合わせると1539冊。さらに既刊を加えるとなんと動員数の2570を超える冊数が売れた。来てくれた人たちの数以上に本が売れるなんて、これは本当にすごいことだと思う。

 しかし僕がこの出版ツアーで得たものは、これら数字で計れるものだけじゃなかった。北海道から沖縄まで、さまざまな地方をまわって得た気づき。それは、地方のみなさんの想像を超える切実さだった。それをわかった上で本書を書き進めていたつもりだったけれど、それでも僕はその切迫感を低く見積もっていたのかもしれない。ストレートに言えば、僕はこの書籍のタイトルを間違えたと思った。

 編集という魔法のチカラをとにかく早く、広く、伝えなければと思ったけれど、地域に住む人たちはもっとリアルで具体的な問題に必死に立ち向かっていた。その解決方法を知りたくて、僕のイベントにやってきてくれたのだ。だから僕はいまこう思っている。

 『魔法をかける編集』をアップデートする。

 いま僕が抱えている現在進行形のプロジェクトや、その時点では書けなかったことなどをしっかり加筆して、そしてタイトルも変えようかとすら思う。それではもはや『魔法をかける編集』ではなくなるんじゃないか? と思う人もいるだろう。だけど僕にとってはあくまでもアップデートなのだ。辞書が改訂を重ねていくというよりは、スマホのOSがアップデートされていくことに近い。そのアップデートがもたらす様々な仕様変更が出てくるだろうけれど、それもこれも進化だ。リリースしたアプリがレビューを参考にアップデートされていくように、僕の話を聞きに来てくれた人たちに向けて、僕は自著をより使えるものに進化させたい。

 そんな話を編集を担当してくれたミシマ社の三島くんに話したら、まずはそれをミシマガジンで書いてくださいと言われた。それは願ったりかなったりだ。加筆したいことをこの場を借りてアウトプットしていくことで、フィードバックをもらいつつ、自著のアップデートに備えようと思う。

 なんども言うけれど、僕が考えていた以上に、地域が抱える問題は切実だ。全国各地の会場に来てくださった、地方行政関係者や地域おこし協力隊の人たち。そして地域メディアの編集者の方々。そして地域で活動するさまざまな商店主の方。みなさんそれぞれに、昭和〜平成に敷かれたレールではない、少子高齢人口減少時代にフィットするやり方を求めている。

 まずはこの連載から、地域編集の具体的事例や、そのチャレンジのリアルな意味と結果を伝えていきたいと思う。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • 『小さき者たちの』いよいよ発刊!!

    『小さき者たちの』いよいよ発刊!!

    ミシマガ編集部

    2017年刊の『うしろめたさの人類学』と2021年刊の『くらしのアナキズム』では、エチオピアでの長年のフィールドワークをもとに、私たちが前提としている考え方の枠組みを外して、日常の暮らしを通して社会を変えていく可能性について綴られた、松村圭一郎さん。『小さき者たちの』では、初めて、生まれ育った故郷である熊本をテーマに執筆されました。「はじめに」で、松村さんは本書での試みの意図を、下記のように綴られています。

  • 一冊の本ができるまで~新人全力レポート(1)

    一冊の本ができるまで~新人全力レポート(1)

    ミシマガ編集部

     こんにちは。ミシマ社新人のオオボリです。本日よりなんと月一連載を務めさせていただくことになりました! その名も「一冊の本ができるまで~新人全力レポート」。つたないながらも新人による全力レポート、楽しんでいただけたら嬉しいです! どうぞよろしくお願いします!

  • 『幸せに長生きするための今週のメニュー』刊行記念  ロビン・ロイドさん、中川学さんインタビュー

    『幸せに長生きするための今週のメニュー』刊行記念  ロビン・ロイドさん、中川学さんインタビュー

    ミシマガ編集部

    先日ちいさいミシマ社から発刊した『幸せに長生きするための今週のメニュー』。アメリカ出身の民族楽器奏者、詩人のロビン・ロイドさんと、京都のお寺の住職兼イラストレーターの中川学さんによる日英併記の詩画集です。  自然の移りかわりや、日常のささやかなよろこびを丁寧にすくい上げるロビンさんの詩と、中川さんの温かく想像力がかきたてられる鉛筆画がやさしく心に届き、折に触れて読み返したくなる一冊です。

  • 魚屋の息子

    魚屋の息子

    前田エマ

     家の近所に、同級生の家族が営んでいる魚屋がある。たまに買いに行くと、心地よい明るさのお母さんが「美容室で読んだ雑誌に、エマちゃん載ってたよ〜」と声をかけてくれる。バレーボールとかハンドボールの選手だったのかな、と思うような、快活でショートカットが似合う素敵な女性だ。私は「ありがとうございます。うれしい〜」と言って、刺身の盛り合わせをお願いしたり、南蛮漬けにするアジを捌いてもらったりして、あたたかい気持ちで家に帰る。住宅街に文字通りポツンと現れる個人商店で、駅からも遠いのに週末には長蛇の列ができる。この店の次男と私は、小中学校が同じだった。

この記事のバックナンバー

01月08日
第51回 ボトムアップな時代の地域編集 藤本 智士
12月07日
第50回 フックアップされることで知る編集のチカラ 藤本 智士
11月08日
第49回 イベントの編集 藤本 智士
10月08日
第48回 仲間集めの原点 藤本 智士
09月05日
第47回 「のんびり」のチームづくり 藤本 智士
08月07日
第46回 弱さを起点とするコミュニティ 藤本 智士
07月07日
第45回 チームのつくりかた 藤本 智士
06月08日
第44回 編集のスタートライン 藤本 智士
05月06日
第43回 サウナ施設を編集する その5 藤本 智士
04月09日
第42回 サウナ施設を編集する その4 藤本 智士
03月12日
第41回 サウナ施設を編集する その3 藤本 智士
02月12日
第40回 サウナ施設を編集する その2 藤本 智士
01月11日
第39回 サウナ施設を編集する その1 藤本 智士
12月11日
第38回 地域編集者としての街の本屋さんのしごと。 藤本 智士
11月07日
第37回 サーキュラーエコノミーから考える新しい言葉のはなし 藤本 智士
10月08日
第36回 編集視点を持つ一番の方法 藤本 智士
09月04日
第35回 編集力は変容力?! 藤本 智士
08月11日
第34回 「言葉」より「その言葉を使った気持ち」を想像する。 藤本 智士
07月12日
第33回 「気づき」の門を開く鍵のはなし 藤本 智士
06月07日
第32回 ポジションではなくアクションで関係を構築する。ある公務員のはなし。 藤本 智士
05月13日
第31回 散歩して閃いた地域編集の意義 藤本 智士
04月05日
第30回 アップサイクルな編集について考える 藤本 智士
03月06日
第29回 惹きつけられるネーミングのはなし 藤本 智士
02月06日
第28回 比べることから始めない地域の誇り 藤本 智士
01月08日
第27回 フィジカルな編集のはなし 藤本 智士
12月09日
第26回 地域おこし協力隊を編集 藤本 智士
11月05日
第25回 まもりの編集 藤本 智士
10月08日
第24回 編集にとって大切な「待つこと」の意味 藤本 智士
09月05日
第23回 「にかほのほかに」のこと 03 〜ラジオからはじめる地域編集〜 藤本 智士
08月09日
第22回 「にかほのほかに」のこと02 〜DITとTEAMクラプトン〜 藤本 智士
07月07日
第21回 「にかほのほかに」のこと01 〜ロゴの編集〜 藤本 智士
06月11日
第20回 オンラインサロンとせいかつ編集 藤本 智士
05月10日
第19回 編集スクール的オンラインサロンの姿を求めて 藤本 智士
04月06日
第18回 「三浦編集長」が編集の教科書だと思う理由 藤本 智士
03月09日
第17回 根のある暮らし編集室 藤本 智士
02月05日
第16回 三浦編集長に会いに 藤本 智士
01月11日
第15回 「トビチmarket」を編集した人たち 後編 藤本 智士
01月10日
第14回 「トビチmarket」を編集した人たち 前編 藤本 智士
12月14日
第13回 「トビチmarket」 藤本 智士
11月17日
第12回 書籍から地域への必然 藤本 智士
10月19日
第11回 書籍編集と地域編集 藤本 智士
09月08日
第10回 編集⇆発酵 を行き来する。 藤本 智士
08月17日
第9回 編集発行→編集発酵へ。 藤本 智士
07月16日
第8回 編集発酵家という存在。 藤本 智士
06月14日
第7回 いちじくいちのこと 06 藤本 智士
05月16日
第6回 いちじくいちのこと 05 藤本 智士
04月10日
第5回 いちじくいちのこと 04 藤本 智士
03月14日
第4回 いちじくいちのこと 03 藤本 智士
02月13日
第3回 いちじくいちのこと 02 藤本 智士
01月18日
第2回 いちじくいちのこと 01 藤本 智士
12月15日
第1回 「地域編集のこと」その前に。 藤本 智士
ページトップへ