地域編集のこと

第30回

アップサイクルな編集について考える

2021.04.05更新

リサイクルやリユースではなく、古く不要になってしまったものに新しいアイデアを加えることで新たなものへと生まれ変わらせるアップサイクルが地域編集の考え方のベースではないかと考えている。

いま僕が手がけている「にかほのほかに」という施設は、秋田県にかほ市で3年前に閉校した小学校がベースになっている。人口減に伴う統合により、学校としての機能は果たせなくなってしまったけれど、そこに新しいアイデアを加えていくことで、この建物がさらに長く生き続けてもらうことを願って取り組んでいる。

一方で僕が普段住む神戸の風景をはじめ、都会を見ていると、見事なまでのスクラップアンドビルドだらけ。これらのアクションに通底するのは「開発」という意識だ。たとえそこに「再」をつけて「再開発」と呼んだとしても、開発は開発だ。リユースでもリサイクルでもなければ、アップサイクルでもない。ただただ壊して新しいものを建てる。こんな時代にあってなお、ここまで開発が止められないのは、もはや病のようなものかもしれないとさえ思う。

僕は岩手県盛岡市の町が好きでたまに訪れるのだけど、盛岡の友人に「盛岡は程よく古いものが残ってていいよね」と言ったら、「みんな、お金なくて建替えもできないから残ってるだけだよ」と言われた。もちろん、その友人は全てがそうだと言っているわけではない。君のようなよそ者が勝手に考える綺麗な物語とはまた別の、その土地の事情という名の物語がそこにあるんだよと教えてくれたのだ。僕は自分の安易な想像が恥ずかしくなったと同時に、こうも思った。

よいもわるいも、仕組みや状況は、人々の「意思」を超えるのだな、と。

いま僕が取り組んでいる廃校の利活用だって、裏を返せば、壊してまたつくるようなお金がないからだ。つまりお金がないことが、我々にアップサイクルのチャンスをくれているとも言える。だから僕たち編集者が考えるべきは、新たな考え方の提示というよりは、仕組みや状況を編集していくことにあるのではないか? こんな時代にあって、個々人としてアップサイクルの重要性を否定する人はほぼいないだろう。しかしそれが、会社などの法人格になったときに様子が変わる。いま手元にあるそれはもう捨てて、より多機能で便利になった新製品を買ってくれと主張する。それが資本主義だ。

東京に代表されるように、都会ではいまだに再開発が繰り返されている。これはどう考えても時代錯誤だ。表面上はSDGsを掲げながら、もっと言えばそれを隠れ蓑にして会社や組織はさらに巨大化しようとする。個人では達成できないものを実現させる力がチームにはあるけれど、チームの人数が増えることから、その達成目標が数値になってしまった途端に、その組織の目の色は変化してしまうもの。

振り返ると、そういう人をたくさん見てきたなあと思う。

突然だけれど、これは前述の「にかほのほかに」のコンセプトムービーだ。

秋田県にかほ市の名産である、ブルンスウィックという小さく可愛らしい品種のいちじくをキャラクターにしたアニメだけれど、1分ほどの映像なので良ければ見て欲しい。

ここで表現しているメッセージは、一見、いまの時代にフィットするように作られた新しい考えのように思えるかもしれないけれど、実はこれはアップサイクル編集だ。

というのも「にかほのほかに」を整えようと旧小学校のなかを掃除しているときに、埃を被った大きな額を見つけた。そこに、平成19年(2007年)に制定されたという『にかほ市市民憲章』なるものが書かれていた。

以下、転載する。

『にかほ市市民憲章』

わたしたちは 鳥海山と日本海に象徴される雄大で美しい自然にいだかれた 歴史と文化の香り高いまちに住む にかほ市民です。
一人ひとり の夢が実現できる 豊かで元気なまちをつくるために この憲章を定めます。(平成19年4月1日制定)

一 郷土を愛し 人と自然が調和した 潤いのあるまちをつくります
一 伝統と文化を重んじ 敬いの心が通いあう 温もりのあるまちをつくります
一 視野を世界に広げ 共に知恵を出しあい 学びあうまちをつくります
一 働く喜びにあふれ 生き生きと 活気に満ちたまちをつくります
一 希望と未来を語りあい 進んで参加する 市民協働のまちをつくります

僕はこれらの文言にとても感動した。これは、いま目指すべき「コモン(common)=共同」や「シェア(share)=共有」の考え方そのものだと思った。こんな素敵な言葉が15年前に制定されていた。しかし、埃をかぶってしまっていた。だから僕はこの憲章をアップサイクルしたいと思った。

アニメーションを制作してくれた九嶋くんというクリエイターに、最初に送った簡単な構成案を公開する。


**************

にかほのほかに のロゴ

※ロゴを引いていくと
いちじくの木に実る、いちじくいちをだった。

そんないちをが語り出す。

ひともいじちくも
不揃いなものだよ。
※木から収穫されていく形も大きさもバラバラな、いちじくいちをたち。

ひともいちじくも
揺れて迷って生きていく。
※左右に揺れたり転がったりする、いちじくいちをたち。

ひともいちじくも考えも
変化するのは当たり前。
※煮込まれて甘露煮になっていく、いちじくいちをたち。

そんなわたしたちが
たがいに意見を言い合ったり

あたらしい考えに触れて
考え込んだり

悩んだり

思いついたことを行動してみたり

仲間をみつけたり

にかほの未来にむけて
様々なチャレンジをしていくための施設。

小さなお子さんがいるお母さんも
※あかちゃんいちじくと一緒にコーヒーを楽しむ姿。

地域のことを愛している若者も
※緑でフレッシュないちじくたちが、リノベーション作業をしている姿。

自分たちの知恵をプレゼントしたいシニアも
※甘露煮ないじちくが、ラジオDJをして情報発信している姿。

それぞれがそれぞれを否定せずに
認め合いながら対話できる場所。

にかほの思いを
にかほのほかにも届けよう。

「にかほのほかに」。


**************


これは、僕なりの新しいにかほ市民憲章でもある。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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