地域編集のこと

第19回

編集スクール的オンラインサロンの姿を求めて

2020.05.10更新

 新型コロナウイルス感染がここまで拡大していなかった2月。僕はある一人の女性に会いにいくために愛媛県の松山へむかった。彼女との出会いは3年前。松山市で開催したトークイベントのスタッフとして様々に立ち回ってくれた彼女の名前は大木春菜(おおきはるな)。松山でフリーの編集者をしていると言った。そこから何度かメールのやりとりくらいはしていたのだけれど、いよいよ彼女に会いに行かなければと思ったのは、彼女が1年前にはじめたオンラインサロンについて話を聞きたかったからだ。

 ちなみに彼女は二人のお子さんを持つお母さんで、旦那さんが主夫として家にいてくれることをベースに(それがまた素敵だ)、編集者としてとてもよい仕事を続けていた。そんな彼女が突如(だと僕には見えた)オンラインサロンをはじめたその理由が知りたかったことと、実は僕自身もオンラインサロン的な編集スクールを始めたいと考えていた。

 オンラインサロンと聞いて、イメージされるのは、西野亮廣さんのエンタメ研究所や、箕輪さんの箕輪編集室、さらにはホリエモンさんや、本田健さんなど、ビジネス系の方のサロンなどだろうか。有名なサロンはたくさんあるし、また個人的に近しい人たちも、自分たちが前向きになれる、ほどよいコミュニティをオンラインサロンの仕組みを使って、とても上手に運営しているのをみたりして、なるほどなあ、良いなあと思っていた。

 しかし、その多くは情報の集積地である東京をベースとした運営(参加者は地方の人も多いと思うけれど)で、そこがそもそも自分とは環境が違っている気がした。その点、春菜ちゃんがやっているサロンは、松山という地方の町からの発信で、且つ数十人規模のメンバーでとても幸福に運営しているように見えたし、それが僕の理想にとても近いと感じた。

 ちなみに僕が、オンラインサロンをやりたいと考えたのは、それこそ春菜ちゃんと出会った『魔法をかける編集』の出版ツアーの経験が大きい。半年間で全国62箇所をまわるという無謀なツアーをなんとか完遂できたのは、各地でイベントを主催してくれた人たちのおかげで、その全てのみなさんが僕にとっては広義な意味での編集者=この連載に沿って言うならば「地域編集者」だった。

 僕はその経験を経て、地方にはなんと優秀な編集者がたくさんいることかと、あらためて驚いたと同時に、とても多くの学びを得た。トークイベントという構造上、僕が何かをみなさんに伝えるーおこがましいけれど、敢えて言うならば「教える」という立場だったにも関わらず、僕はあまりに多くを学んだ。体力的には相当きつかったものの、自分にとっての学びがあまりに大きく、充実していたからこそ最後まで完走できたんだと思う。

 イベントを通して、あたらしい編集者と出会うことで、それぞれの悩みを聞き、そこから、環境の違いや土地柄がもたらす問題を知り、また、その解決について共に考え、アイデアを出し合う時間がいかに豊かだったか。おそらく僕はその時間をこそ愛していた。だからイベントツアーを終えた後も、あの時間をもっと深められないものかと考えていた。

 そして、その手段がオンラインサロンなのかもしれないと思った。

 ここで、春菜ちゃんとの対話をお届けする前に、そもそもいま僕が考えているサロンについて書いておこう。

 名前は「りスクール(Re:School)」。これがそのロゴだ。

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 Re:School(りスクール)は、僕の会社名の「Re:S(りす)」に掛けているのだけれど、社名の「Re:S」がRe:Standardの略であるのに対し、このサロン名の頭にある「R・E・S」は、Regional Editor School(地域編集スクール)の頭文字だ。

 この連載を見てくださっている方には言うまでもないけれど、雑誌編集や書籍編集で培ってきたスキルが、現在、僕のなかで活かされているのは、ほぼすべて地域編集の領域だ。そこで「地域編集」を真ん中に据えたオンラインスクールをやれないかと考えたのだ。

 上述の出版ツアーで、全国各地に、壁にぶつかり、悩み、悶々としながら地域編集に立ち向かう人たちがいることを知った。その人たちの近くに、その悩みを共有したり、相談したりする人がいればよいのだけれど、もしそういう仲間がいないのならば、問題解決のための編集について一緒に考える場所としてのサロンをつくりたいと思っている。個々の疑問や悩みが、意図せず他者にとっての学びとなることは、僕自身、出版ツアーで身をもって体験した。

 以下に、りスクールが大切にしたいと思うことを3つまとめてみる。

1)「学ぶ」から「学びあう」へ。
Re:Schoolは、Regional Editor Schoolでありつつも、僕の活動の旗印であるRe:Standard=あたらしい"ふつう"を提案する。という考え方が根っこにあるのも事実だ。そこで僕がいま考えている「学び」のあたらしいスタンダードは、「教える→教わる」のベクトルが一方向ではないもの。ただ受動的に「教えを請う」のではなく、自分の行動や言動が他者の学びにもなるという自覚から「学びあう」ことを大切にする、そんなスクールにしたい。

2)「編集力」を身につけよう。
つくづく僕は「編集」という考え方やそのスキルに救われてここまで生きてきたなと思う。コロナで大変な世の中でなお、大き過ぎない不安のなか前を向いていられるのは、どんな状況であれ、いまあるものを活かしていくという「編集」の根本原理が僕のなかに息づいているからだ。自分の暮らしを自分の手で編集しつくりあげていく。その楽しさと頼もしさを一緒に身につけていきたい。

3)「地域編集」から学びあう。
これまでの世の中における「編集講座」的なるものはみな、「雑誌編集」がベースだった。いわゆる編集ライター講座といった、書籍や雑誌などのテキストメディアをベースにした編集技術の取得ではなく、自分たちが暮らす町を編集していく「地域編集」の考え方をベースに、自身の暮らしや生活の編集力を身につけ、どんな困難を前にしても、強く前を向けるチカラを持つことを目指す。

 これがいま僕が考える編集スクール的オンラインサロンの姿だ。


 これまでは経済格差や不平等を拡大させる側面もあったテクノロジーの進化だが、オンラインサロンに限らず、昨今のリモートワークを支えるzoomをはじめとした、痒い所に手が届く様々なアプリやインターネットサービスなどの進化は、いよいよ不平等拡大のピークを超え、あらゆる格差をなくす方向へと向きはじめているように思う。

 言わずもがなインターネットの普及は、都会ゆえのアドバンテージをどんどん減らしている。これまでは都会でしか経験できないと思っていたことが、地方で暮らしながらも経験できるということを、コロナ禍におけるさまざまなリモート化で、実感している人も多いのではないか。これはとてもポジティブな現実だ。

 この流れが進めば、これまで「囲い込み、制限する」ことで富を得ることが基本だった世の中が、「解放し、共有していく」ことでほどよい富が得られる社会へとチェンジしていくんじゃないかとすら思う。僕がオンラインサロンをやりたいと思ったのも、限られた情報を限られた人のなかで囲い込みたいからではなく、有益な情報を、それを求めている人に気持ちよくシェアできそうだからだ。

 そんななかにあって、大木春菜という一人の女性編集者がはじめたオンラインサロンの試みは、新型コロナウイルスがもたらす新しい世界の小さくも大事な扉の一つなんじゃないかと、そう思って僕は松山に向かった。

 次回は彼女との対話をお届けしたいと思う。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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