地域編集のこと

第15回

「トビチmarket」を編集した人たち 後編

2020.01.11更新

 「トビチmarket」について話してもらった前回につづき、後編は彼らの会社「○と編集社」について。チームが生まれ動き出す瞬間のワクワクと、建築設計に携わる人たちが地域編集をすることの必然を感じる二人の会話をシェア。


代表理事/赤羽孝太さん(38歳)
理事/奥田悠史さん(31歳) インタビュー

藤本 ちなみに「○と編集社」はどういう経緯でいつ生まれたの?

赤羽 設立は2018年10月なんです。そもそも僕が「Studioリバー」っていう個人の設計事務所を辰野町に借りていて、1年8ヶ月くらいかけながら、のんびりリノベーションしたんですね。あ、もともと僕は辰野町出身なんですけど、神奈川でシェアオフィスを構えていて、その辰野バージョンをこっちで作りたいって思って。そんなとき、冬の寒い時期に奥田くんと出会ったんですけど、その頃奥田くん車中泊してて。マイナス20度の日に車中泊って言うから、とりあえず「うち来る?」って言って。さらにいまシェアオフィス作ってるから、できたら使ってよっていう話をして。じゃあ「使います!」みたいな。

奥田 そのときは辰野町にはなんのご縁もなくて。

藤本 え? じゃあ奥田くんは何で辰野に来てたの? そもそも奥田くんが三重県の名張市と二拠点でやっているようなことは聞いてたけど。

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奥田 そうなんです。隣の伊那市で森関係の仕事をしてたんで、名張と長野を行き来してて。で、どうせ家を借りるなら、アパートより一軒家とかがいいなと思ってたんですけど、なかなか、そういう相談ができる人がいなくて、とりあえず辰野あたりでアパート借りようかなと思ってたところで赤羽さんに出会って。

赤羽 その頃、ちょうど行政の方と一緒に、辰野の空き家関係のことをやってたので、使わなくなった小学校の教員住宅を奥田くんに紹介して。そういう取り壊す可能性があるような物件って幾つかあるんですよね。でも奥田くんのように二拠点生活だったら、急に取り壊すことになってもすぐ動けるので、そういう人限定でストックしてる物件に奥田君を。

藤本 うまく充てがったんだ。

奥田 そしたらトイレに穴しかなくて。

赤羽 あっはっはっは!!

奥田 便器もない。

赤羽 便器もないからそこは奥田くんに工事費用を出してもらわなきゃいけなかったんですけど、そもそも家賃が1万円なんです。だから20万円くらいに工事費用を抑えられると、一年で割ればそれでも家賃2万いかない感じになるので、そういう提案をして。

藤本 赤羽くんは建築施工できるから、そういう提案ができるのは強みだね。NICE編集だ。

奥田 そうですよね。でも最初の2ヶ月くらいはトイレが使えなかったので、チャリンコでコンビニまで行って安いもの買ってトイレ借りて。

赤羽 マイナス20度で車中泊したサバイバーだから、それくらい。携帯電話が充電できて喜んでたよね。

奥田 もう最底辺からなんで、電気使える! みたいな。一つひとつがうれしい。いまはもうふつうに引っ越したんですけど。

赤羽 あ、でもそうそう、会社をつくろうと思って僕が声かけた大きいきっかけは、奥田君が名張でやってる「ハラペコ里の市」っていうマルシェあるじゃないですか。たまたまあっちに行く機会があって、あのマルシェにすごく感動したんです。

藤本 僕もいきました。いいイベントだよね。

赤羽 本当に。最近、プロデューサーとかディレクターとかって増えてるじゃないですか。でも僕は「実(じつ)」がない人が好きじゃなくて。彼はあのマルシェを200回とかやってるわけですよ。

藤本 もはや「実(じつ)」しかないくらいの。

赤羽 ははは。プロデュースがないんじゃないかってくらい。でもあの市を見たときにすげーな。本物だなと思って。

藤本 そうか車中泊してるところにいきなり出会ったわけじゃなくて、まず名張で会ったんだね。

赤羽 そうですね。三重から帰ってきて翌週くらいに、「実は法人作ろうと思ってるんだけど、一緒にやってくれないか?」って告白してみたら、「いいっすよ。やりますやります」って。

藤本 ところで社名は誰が考えたの?

奥田 誘われた日に焼肉屋で「こういう感じだよねー」みたいな。

赤羽 わかるわかるー! みたいな。

奥田 その場で名前を決めて。そこから、ちょっと逆転なんですけど、赤羽さんがやりたいビジョンみたいなことを聞き出していって、こういう会社にしましょう、こうしたらいよね、みたいなので。

藤本 奥田くん、いい編集者だなぁ。

奥田 そこに新しいメンバーが入ってきたりして、いまは5人ですね。

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赤羽 今1人産休であまり関われてない子がいるんですけど、その子は僕と同時期に地域おこし協力隊だった子で、3年間ずっと活動してたので、最初その子と法人をつくろうとしてたんですよ。でも、それは僕たちが行なっていた行政関連の事業の受け皿法人だったので、どこか違和感があって。行政からの仕事しかとらない法人ってちょっとどうなの? と。それで奥田君と出会って、継続して行政の業務も引き受けながら、民間事業も走らせたいなと。でも、民間事業を走らせるのはなかなか難しいんで、行政で受けた仕事の売り上げをすべてこちらに投資する。過剰投資をして、3年目でこのフェーズに行く、みたいなビジョンを描いて。なので奥田君は主に民間事業主体で動いてもらって、僕は継続事業のことをやりながら民間事業との連携をはかる。

藤本 その継続事業の部分が、赤羽くんの本業っていうか建築設計の部分だよね。

赤羽 そうですね。

藤本 そういう風に建築系の人が街場に関わっていくことって自然なことじゃないですか。それが少し前までは、建築設計意匠デザインとかの文脈から「まちをデザインしていく」みたいな言われ方をされてきたように思うんだよね。だけど僕はその意味するところって、「まちを編集する」ってことだよな〜とずっと思っていたので、今回のトビチマーケットも含めて、そういう編集者的な仕事をやっているのが設計デザインを事業主体としている会社で、しかもその法人名が「◯と編集社」っていうのが、すごいおもしろいなと思った。

赤羽 僕の設計事務所は、最近はもう設計しない設計事務所になってしまいまして。うちの嫁が東京で同級生と設計事務所を主宰してて。圧倒的に設計能力と手の速さと経験値があるんですよ。だから僕の変なプライドは捨て去って、設計が必要だったら嫁の会社と組むようにしてます。パートナー契約してるので。僕の得意なところは、ローカルでのご縁を中心とした営業と現場調整と・・・

奥田 大工ですね。赤羽さん、ほんとめっちゃ大工やってる、最近。

赤羽 頭は奥田君に任せて。言語化は奥田君がピカイチなので。

藤本 なるほど。いいメンツが揃ったね。

奥田 さらに最近、8年半チャリで旅してたチャリダーが入ったんですよ。

赤羽 だからいずれはチャリで少し離れたところも回りやすくなるといいんですけどね。最近出てきたイーバイクとかまで使えるようになると、10キロくらい離れた町のはずれの素敵なパン屋さんとか、そういうところもトビチ商店街の店主になれるから、急に経済圏が拡がる。

藤本 そういうテクノロジーの進化はどんどん来てほしいよね。

奥田 そうですよね、いいですよね。

藤本 組織から個人へ。都会から田舎へ。っていうのがテクノロジーの根本的思想だと思うから、これからどんどん地方はテクノロジーの恩恵を受けて変化していくと思う。

赤羽 ほんとおもしろくなっていきそうです。

藤本 チャリダーの仲間じゃないけど、誰が仲間になるかで見えてくる世界もどんどん変わるしね。

赤羽 そうなんですよ。

藤本 こういうことやりたいから誰かやれる人こないかな〜って言ってても、なかなか来ないんだよね。それよりも、なにかしらの職能を持ったやつが突然現れて、そこからあたらしい何かが始まるっていうのが常だと思う。

赤羽 サービス受けたい人、受動的な人にとってみるとなかなか地獄みたいな町ですけど。いろんな意味でまだスポンジみたいにすっかすかなんで、何かやりたいっていう人にとってはすごくハードル低くてチャンスに溢れていて、競合がいなくてブルーオーシャンでやりたい放題みたいな町なんで。

藤本 最高だね、辰野。おかげで辰野町の魅力を認識しました。ほんとにありがとう。片付け中なのに引き止めてごめんね。

赤羽・奥田 いえいえ、ありがとうございます。

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藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

編集部からのお知らせ

Re:Standard Pop-Up Store 旅する「りすなお店」&藤本智士さん出演トークイベントが岐阜県と島根県で開催されます!

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 Re:Sプロデュース商品を中心に、旅する編集者・藤本智士がセレクトする「旅に便利なアイテム」や「日々の暮らしがまるで旅になるアイテム」を販売する『りすなお店』のPOP-UP STOREが全国を巡回!
 普段はオンラインでしか買えない商品たちをぜひ手にとって、お買い求めください。
今回のPOP-UP STOREのテーマは「Let's share!」。

パーソナルな心地よさもよいけれど、共有するからこそ味わえる喜びを提案します。


①Re:Standard Pop-Up Store 旅する「りすなお店」 @KAKAMIGAHARA STAND (各務原市)

会期:2020年1月17日(金)〜2月2日(日)
   ※木曜休
営業時間:10時〜19時 ※土日は21時まで
会場:
KAKAMIGAHARA STAND (岐阜県各務原市那加雲雀町10-4)

***

トークイベント:「イメージを形にする編集のチカラ」

出演者:ゲスト・藤本智士 モデレーター・オゼキカナコ
日時:2020年1月17日(金)
   19:00 受付開始
   19:3021:00 トークイベント
   21:30 閉店
参加費:¥1000 + 1drink order 当日、会場で現金にてお支払いください。

オゼキカナコ
ライフスタイルショップ「長月」オーナー
一般社団法人かかみがはら暮らし委員会 理事
お店をやりながら、コミュニティや暮らしを楽しくする活動をしています。
ミニマルな暮らし、野食、テクノロジー、社会的マイノリティに関する活動などに興味があります。
趣味は知ること、考えること、伝えること。noteで実践中。

イベントの詳細・トークイベントのお申し込みはこちら


Re:Standard Pop-Up Store 旅する「りすなお店」 @artos Book Store(松江市)

会期:2020年1月26日(日)~ 2020年2月9日(日)
期間中のお休みはartos Book Storeさんのカレンダーをご確認下さい。
営業時間:11時~19時 最終日は17時まで。
会場:アルトスブックストア (島根県松江市南田町7-21)

***

トークイベント:「藤本編集長と三浦編集長の地域編集のはなし。」

出演者:藤本智士、三浦類
日時:2月1日(土) 18時~
参加費:1,000円

定員に達し次第受付終了となります。受付状況は店舗へ直接ご確認ください

三浦 類(みうら るい)
 1986年愛知県名古屋市に生まれ、いろんなところで育つ。(株)石見銀山生活文化研究所/群言堂 広報として石見銀山大森町のローカルフリーペーパーでもある企業広報誌『三浦編集室』(旧『三浦編集長』)をつくる。会社の事業内容や商品ではなく、本拠地である石見銀山の暮らしを大切にする理念の発信を通して、これからの地域社会のあり方や若者の生き方を考える誌面づくりを目指している。2019年、5周年を機に誌面をリニューアルしたばかり。現在年4回のペースで2万5千部を発行、全国60カ所以上で配付中。趣味はフラメンコギター。

イベントの詳細・トークイベントのお申し込みはこちら

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