地域編集のこと

第69回

弱さの集合体の強さ
「REPORT SASEBO」のこと。

2024.07.10更新

 久しぶりの新著『取り戻す旅』の出版ツアー的に日本全国でお喋りをして回っている。昨夜は長崎県の佐世保市にある「RE PORT(リポート)」というカフェでトークイベントを開催してもらった。今回僕を佐世保に呼んでくれたのは、カフェRE PORTのある佐世保港近く、万津6区と呼ばれる地域で、カフェのほか「RE SORT(リゾート)」という宿も運営し、まちの編集を続ける、一般社団法人REPORT SASEBO(以下:リポート)のみなさんだった。

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 最前列右で静かにピースしてるのがリーダーの中尾大樹くん。

 以前から知り合いだった、長崎の友人で編集者の、はしもとゆうき(KUMAM/くむ・あむ)ちゃんが紹介してくれたのだけれど、リポートの在り方や進み方が、僕にはとてもフィットしたので、そのことを伝えたくて、佐世保の海を眺めながら筆を取っている。

 リポートの理事を務めるメンバーは、それぞれ、公務員、タクシードライバー、ホテルプロデューサーなど、それぞれに別の仕事を持っている。すなわち、みんな副業としてリポートに関わっている。なかでも代表理事の中尾くんのほか、主要なメンバーのうちの2人が佐世保市役所の職員だというから面白い。

 公務員は副業できないと思い込んでいた僕は、なんだかそれだけで驚いたけれど、日本全国の自治体を見渡せば、「職務専念義務」「信用失墜行為禁止」等に反しない限り、ゆるく許可されているところも多くある。そもそも実家の家業を手伝うということで、田んぼの作業をするなど、地方にはさまざまなグレーゾーンが存在していて、そのグラデーションに白黒つけようとすること自体が不毛。当然ながら、彼らは日々それぞれの仕事を全うし、さらにこの町をよくしたいと踏ん張っていて、なんかもうそれだけで泣ける。

 そんな彼らだから、パッと見、中途半端に見えたり、本気じゃないと思われたり、全力で取り組んでいないように見えたりすることもきっとあるだろう。けれど僕は彼らのそんな副業ゆえの弱さこそが、良さであり、強みなんだと心底思う。

 例えば今回のトークイベントも、理事の一人である大丸勇気くんが、昔から僕の本をよく読んでいてくれたことから、なんとかイベントにしようと奮闘してくれて、決定から開催まで二週間もなかったにも関わらず、サクッと概要や構成をまとめてくれたのだけれど、当の本人は僕と入れ違いで神戸入りするという(仕事だからもちろん仕方ない。てか、それなのにここまで組んでくれて逆にありがたすぎる)前代未聞な展開で、残されたメンバーが当日を取り仕切る連携プレイ。この絶妙にゆるやかでおおらかな展開が、僕は最高に素晴らしいなと思った。

 こんなふうに、勢いと情熱をベースにしながらも、どこか力を抜きつつ物事を進められるからこそ、リポートは成り立っていて、それゆえ、良い意味の緩さと弱さを抱えた理事たちが集まっているのだと思う。僕は元来「強み」を提示し合うチームビルディングが苦手。あくまでも自分の経験の話で、これが正解だというつもりは微塵もないけれど、僕にとって最高なチームづくりは、「弱み」の集合だ。

 僕が主宰する地域編集を学び合うオンラインコミュニティ「Re:School(りスクール)」では、入会条件の一項目目に「自分の弱さや苦手意識を明らかにできる人」というのを掲げている。こういうのができない。こういうところが足りない。苦手。不安。といった弱みの開示ができる人としか、僕は仲間作りがうまく出来ないのだ。これが出来る! 私の強みはここです! という主張強めの人は、結局個人プレーに走りがちだから、おおらかに物事をすすめていくことが難しい。本当はそういう人だって、たくさん弱みを抱えているはずなのに、そこを差し置いて、強みを活かし合うことを前に出す関係って、僕はなんか怖い。

 「ほんとダメだなあ」「まとまんないよねえ」とか言いながら、それでも見切り発車した先に、想像もしていなかった景色が立ち現れてくる、そんな景色を共有できるチームこそが、僕はいいチームなんじゃないか。そういう意味で、リポートは最高に良いチームだと思う。

 彼らのホームページに、こんな一言がある。

私たちが大切にしているのは、右と左、白と黒の間にあるグレーゾーン。そして、複雑なものを複雑なまま受けとめるふところの広さ。
〜略〜
本業(A面)と副業(B面)、行政と民間、ビジネスと生活そんな一見相対立する2つの世界の間のグレーゾーンにこそ、社会を前に進める可能性があると本気で信じているのです。

 このテキストを読んで僕は一層彼らが愛しくなった。まったく同感だからだ。効率化という名のもとで、グレーが黒か白かに振り分けられるたびに、解像度は高くなるのではなく、低くなってしまうことに世の中はもっと気づくべきだ。彼らが白と黒を再び引き寄せ、グレーで曖昧にしていくことは、街の解像度を上げていることに他ならない。しかもそれを全身全霊、本気で取り組むのではなく、あくまでも副業的に、ゆるやかに、けれどしなやかに、取り組んでいくことで、佐世保の町は明らかに変化している。

 RE PORTの拠点である、万津6区(よろづろっく)は、三ヶ町、四ヶ町、五番街と続く、佐世保市の港湾地区の六つ目の町として、彼らと周辺の若手事業者が中心になって提案した新たな呼び名だという。2021年の秋、そこにセブンイレブンがオープンした。その際、セブンイレブン側から店舗名を「セブンイレブン万津6区店」としたいと申し出があったそうだ。ホテルに戻る前に立ち寄ったら、確かに、万津6区店と書かれていた。彼らの行動が、まさに一つの街を生み出している象徴的なエピソード。

万津6区

 全力投球できない弱さを抱えた、副業ベースな半端ものの集合体だからこそ、叶えられることがある。生産性や効率を武器に「ガンガンいこうぜ」もいいけれど、「いのちをだいじに」のコマンド選択で、世の中を変化させていくことができるのが、編集のチカラなんじゃないか。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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