地域編集のこと

第34回

「言葉」より「その言葉を使った気持ち」を想像する。

2021.08.11更新

最近、SNSなどで散見される揚げ足とりな風潮についてモヤモヤすることが多い。そのままエスカレートすれば言葉狩りになってしまいかねない、ちょっとした言葉尻をつく空気が広く蔓延してしまっている気がしてとても辛いのだ。

そこで、他人の言葉に対する向き合い方の一つの例として、僕自身が編集者として大切にしていることを話しておきたいと思う。そもそも地域編集がテーマのこの連載。編集と名がつく以上、もう少しテキスト編集のテクニカルな部分と、地域でのフィジカルなアクションがリンクする部分についてもお伝えできればなあと思っていたから、ちょうど良いかもしれない。

さて、例えば「奥さん」「ご主人」なんて言葉が持つ社会通念を、指摘をもって炙り出す意味というのは確かにあって、「だから私はそういう言葉は使わない」という宣言主張は良いと思うのだけど、それが行き過ぎてしまって「だから使うな」という態度になるのはいかがなものだろう? 通念的であればあるほど、人はみなそれが常識的なふるまいだと信じてその言葉をつかう。ゆえにその無自覚さとそこから生じる問題について指摘するにとどめ、強く責めたり、無闇に正そうとするアクションはやめた方がよいのではと思う。

どちらがどうということではないが、夫をたてるべきという考えのもと意識的に「うちの主人が」と使っているのと、なんとなく慣習的に「うちの主人が」と使っているのかは大きく違う。だから僕は、違和感のある言葉に出会ったときに、「その言葉を使った理由はなんですか?」と聞く。

そのことなしに、一方的に「そんな言葉を使われてガッカリです」と、こちらの無闇な期待を押し付けたり、「そんな言葉は使わない方がいい」と、頭ごなしに告げて、こちらのモノサシで相手の言葉をはかってしまったりするのは、それこそ相手を無自覚に傷つけてしまう。

「言葉そのものではなく、なぜ、その言葉を使ったのか? という気持ちを想像する」チカラは、編集者にとって、とても大切な能力だと思う。

✳︎

僕は以前、編集制作していた『Re:S』という雑誌で、旅取材中に偶然出会った人たちの言葉をできる限りそのまま伝えたいと思い、掲載連絡はするものの、文章確認は一切取らずに雑誌をつくっていたことがある。(新聞記事などは即時性が求められるので当たり前にそうだけれど、雑誌では基本的にありえない)いま思えば、なんとも危険且つ、驕ったつくり方だろうと思うところもあるけれど、知らぬが仏。若さというのはそういうものなのだと当時を思い返してはゾッとしながら強引に納得している。

とはいえ僕も、まったくの最初からそうしていたわけじゃない。行き当たりばったりな旅のなかで突然取材がはじまっていく僕の編集スタイルは、取材対象も身構えていない(構えようがない)から、とてもナチュラルに大切なことを話してくれる。ゆえに、その学びと気づきを、自分が感じた驚きのままに読者にシェアしたいと強く思っていた。しかしそこで、念のためにと原稿チェックを回してしまうと、内容に関して変更はないのに、話し言葉そのままの口語体が固い文語体に直されて返ってくることが何度もあって、その都度、人ってそんなふうに喋りませんよね? と説明しては、結果修正せずにそのままで掲載するということを繰り返した。その結果、このラリーは不毛だから、思い切って見せずに掲載すればいいんじゃないか? と思ってしまったのだ。

それはそれで、現場で記事になることを脳みそフル回転で想像しなきゃいけないし、本人を目の前にその場でしっかり事実確認を取って帰らねばだし、相当大変だったけれど、そのおかげでとても大切な力が身についたような気がしている。しかし念のために言っておくと、いまは僕もずいぶん大人になったし、時代も時代なので、掲載文章はしっかりお見せして確認を取っている。(たまに取らないことあるけど)

こういうことを話すと、よく勘違いされるのだけれど、かといってテープ起こしした原稿をそのまま掲載しているわけではない。当たり前だけど、それではあまりにも読みづらいから、記事として編集していくのだけど、その際の「直し」と「活かし」のさじ加減に、編集者としてのプロフェッショナルが存在する。

そこで重要なのが、先述の「言葉そのものではなく、なぜ、その言葉を使ったのか? という気持ちを想像する」チカラだ。

現場で拾ったボリューミーな言葉を限られた文字数の記事に変換していくとき、多くのライターや編集者はそれを要約しようとする。しかし要約は多くの場合、取材対象の意思を歪めたり、文章からその場の空気を消去してしまったりする。だから僕は、要約してしまうくらいなら、とても誠実な態度と責任を持って言葉そのものを変えてしまう。その時に重要なのが、もう一度言う。

「言葉そのものではなく、なぜ、その言葉を使ったのか? という気持ちを想像する」チカラだ。

そこを間違わなければ、取材対象の気持ちと離れた表現にはならない。また、その時その瞬間実際に浮かんだ言葉の語彙を超えて、より的確な言葉で表現することだってできる。それが編集者から取材対象の方への最大の御礼とギフトだと僕は思う。

✳︎

そういったテキストベースのスキルやノウハウが、地域編集の場面においても活かされると僕は信じている。それぞれの地域で暮らす人たちは、決してうまく語れなくとも、その胸の内に強い思いや情熱が確かにあって、それはそのまま言葉としてアウトプットされるわけではない。態度や行動や姿から感じるものをもとに、次の一手を想像し行動すること。それがとても重要だと思う。

地域編集というフィールドのなかで僕がそれを出来ているかと問われると正直まだまだ出来ていない。だけど、雑誌編集者として培ってきたそのスキルは必ず活かされるとそう信じて、チャレンジを続ける。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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