地域編集のこと

第42回

サウナ施設を編集する その4

2022.04.09更新

サウナ施設を編集する その1サウナ施設を編集する その2サウナ施設を編集する その3

 今回、地下水を汲み出すことに加えてもう一つ、僕がこだわったことがある。それは男女共用のサウナとは別に、女性専用のサウナをつくること。サウナと言えば、まだまだおじさんの文化なイメージが強いけれど、それは、日本のサウナが湿度を無視したドライサウナをベースに広まったことにある。

 本場と言われるフィンランドのサウナは、熱せられたサウナストーンに水をかけることで(ロウリュと言う)、大量の蒸気が発生し温度というよりは湿度がグングン上がる。人間は水分という媒介を通してはじめて肌で熱を感じるゆえ、ロウリュをすると温度は上がらなくとも一気に体感温度が上がるのだ。

 この蒸気たっぷりなサウナ室こそが味噌なのだが、上述のとおり、日本のサウナの多くは湿度が低く温度はめちゃ高いドライサウナが主流だった。サウナ室内の温度計が100度を超えているのをみて、「100度超えたところに人間が入れるわけないでしょ! きっと温度計がぶっこわれてるんじゃない?」と思った経験はないだろうか。それは、湿度が低いから熱く感じないだけで、つまりはカラッカラの乾燥室に入るようなもの。それはきっと当然のごとく、お肌にも喉にもよろしくない気がする。

 しかし僕がいまつくろうとしているサウナは、薪をくべてサウナストーンを熱し、そこにロウリュをすることで湿度を上げていく薪ストーブサウナ。だから、「サウナ室苦手!」と思っている女性の人たちにも、どうか体験してもらいたいという気持ちが強い。

 最近はスーパー銭湯的な施設の女湯にもサウナが設置されていることが多くなってきたけれど、肝心の水風呂がなかったり、ととのい椅子が置かれていなかったりと、男湯に比べて中途半端な施設も多い。また、たまに女湯でもきちんとととのえる良いサウナがあると思えば、主(ぬし)と呼ばれる、常連の女性がサウナ室に鎮座されているパターンも多いと聞く。男性ほどにサウナの楽しみ方が普及していないからこそ、その良さを知る女性がその幸福を邪魔されたくないと、新参者に睨みをきかせるのだろう。

 そういうこともあって、僕が編集する、にかほのサウナには女性が一人(MAX3人)で他人の目を気にせず貸し切れるサウナをどうしてもつくりたかったのだ。しかしながらこれもまた、サウナ経験の少ない人たちにとっては理解しがたく、現場でこの思いに共感してくれる方がいなかったことから、どうしてもその必要性が、かかる費用と天秤にかけられてしまっていた。もう、こういうときは、どうしたって押し切るようなカタチになってしまうから、側から見ると、またもや僕がワガママを通そうとするように映ってしまって辛かった。でもそれは仕方のないこと。前回の記事にも書いたけれど、それぞれが、それぞれの立場におけるプロフェッショナルを全うしようとしているからで、このやりとりに誰もわるい人はいない。

 そもそも、僕の頭の中にあるビジョンをそっくりそのまま相手に伝えるのはどうしたって無理がある。人は実際に目の前でそれを見ないことには、体感として理解したり納得したりできないもの。だからこそ、こうやって押し切るようなことになってでも、自分の思いを貫かないといけないときもある。だけどそのことが一層僕を奮い立たせるのだ。

 そんなふうに僕の思いを優先してもらった以上、そのイメージを実際に具現化させなきゃという気持ちが一層強くなるし、その責任は実際重い。しかし僕は「これもすでにサウナのようなものだ!」と思うようにした。この状態は言わば、自分で自分の情熱に薪をくべているようなもの。そしてその熱は、ただただ温度を上げるだけでは相手に伝わらない。ロウリュという方法を使い、水という媒介のチカラを借りて湿度をあげてこそ、はじめてその熱量に気づいてもらえる。すなわち僕一人の熱源だけで物事はうまくいかなくて、何事にもこのロウリュの役割や蒸気の存在が重要なのだと思う。

 その存在こそが僕にとっては、チームクラプトンのメンバーだった。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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