地域編集のこと

第7回

いちじくいちのこと 06

2019.06.14更新

「いちじくいちのこと 05」はこちら

 今年もまた「いちじくいち」の時期が近づいてきた。4年目の今年はどんなふうに進めていくべきか、その指針として、僕は秋田の仲間たちに今年の運営テーマを伝えた。それは「地元のみなさんと一緒にやる範囲を増やす」ということ。何か事をはじめる時に、ある強い意思が全体を牽引していくのはとても重要なこと。その意図をしっかり伝え、仲間と共有していくことが出来なければ現場は困惑し、細かなトラブルが後を絶たなくなる。けれど、その強い意思も有効に機能するのは最初のうちだけだ。そろそろ地元の人たちの意見や行動が良い意味で混ざり混沌としはじめた方がいちじくいちはさらに面白くなるはず。

 イベントは生き物だし、そこに関わる人や、まわりの状況によってさまざまに変化していくのは当然のこと。そう考えた時に、そろそろ僕という個人の強い意見が邪魔になる。だからと言って完全に身を引くのも無責任なのだけど、本当はそこに未練なく完全に手放すことができれば一番いい。最近よく言われるサステナブル、持続可能なものにしていくということは、手にあるバトンを渡していくことに他ならない。

 いますぐそれが出来るとは思えないけれど、4年目を迎えるにあたって、そういうフェーズに移行していける気がするのは、昨年、僕のなかでとても大切な目標が達成できたことが大きい。それは「動員数を減らす」こと。

 昨年のいちじくいち開催前、僕はいろんなところで「今年は動員を減らしたい」と話していた。しかしそれを言う度に「この人は何を言ってるんだろう?」という顔をされた。当然だと思う。だけど、僕は一年目の動員数5000人が、二年目6000人に増えた時に感じた「次は7000人だ!」みたいな、本質とは違う無闇な増加思考にNOと言いたかった。

 確かに動員数というのは、とてもわかりやすい評価軸なので、僕もめちゃめちゃ利用する。しかし「いちじくいちが」補助金を使わず、自分たちの出せる範囲の資本と、クラファンを活用した民間ベースのあらたな資金源にこだわってきたのは、まさにこのためで、僕は、自治体主催イベントなどにありがちな本質とは違う、5,000とか10,000とかっていう動員数評価から、距離を置きたかった。

 しかしだ。認知の増加とともに動員はきっと増える。念のために言うけれど、それは別にわるいことでもなんでもない。むしろとてもありがたいことだ。しかし、僕は前述のとおり、動員が減ることでより充実する状態。つまり動員数が減って良かった! と喜ぶ、そんな姿をみんなと共有したかった。少子高齢化人口減少がすすむ日本で、数値を闇雲に増やそうとするのは不毛だ。数字は減っても豊かだという実感を得ることにはとても大きな意味がある。とはいえ、ただ動員数が減ればいいわけではないのはもちろんだ。その分、来てくださった人の満足度や幸福度を上げることを一番に考えた。

 だけどこれは相当な難題。だって積極的にお客さんを減らす努力なんておかしすぎるし、そもそもお客さんの数なんて正直コントロールできない。だから言っていることと矛盾しているけれど、僕らは当然のごとく、たくさんお客さんが来てくれるように3年目もPRの努力をした。そして実際また多くの人が来てくれた。けれど、動員数は2年目に比べて見事1000人ほど減った。それはなぜか? 秋田に来るはずのない台風がやってきたからだ。

 イベントの前週に日本各地で猛威を振るった台風24号が過ぎ去り、ひと安心していたところに、今度は秋田に進路をむけた25号が発生した。実は秋田は台風が到達する前に大抵、温帯低気圧に変わるため、ほとんど台風はやって来ない。だからまさに不意打ちのような台風の接近だった。

 毎年二日間ある「いちじくいち」。初日は天候の心配をよそに見事な快晴。しかしちょうど2日目に直撃予報が出ていたため、1日目の来場者はこれまで最高を記録。そしていよいよ2日目、直撃をおそれていた台風は案の定温帯低気圧に変化したものの、それでも夜中から朝にかけてのモーレツな雨風で、結果、二日間合わせての来場者数は2年目から約1000人減、それでも5000人を超えるお客さんが来てくれたのだから、あらためてありがたい。

 ということで僕たちは動員数を減らすという目標を見事に達成! お客さんのご意見も概ね満足度の高いものになった。それもこれも、無事何事もなかったから言えることではあるけれど、台風接近のおかげだった。これでひとまず「目指せ一万人!」みたいな、無闇な右肩上がり圧を抑えることができたように思う(それでもまあ言う人いるだろうけど)。

 数値というのはものすごく便利だけれど、数値を求めてくる相手は、基本的に現場にいなかった人だ。自らが現場を体感していたらそれが2000人だろうと5000人だろうと、そこにたいした意味はない。また、それ以前に僕は、来てくれたお客さん一人ひとりを来場者数5000人と括って表現することに、いつも後ろめたさを感じる。お腹に子どもを抱えてやってきてくれたあの子や、飛行機の欠航にめげず仙台経由でギリギリの時間にやってきてくれたあの子。たった2時間の滞在のために長距離バスに乗ってやってきてくれたあの子や、クラウドファンディングはよくわからないからと現金書留で12,900円(きっとイチジクという語呂合わせだ)送ってきてくれたあの子。それら一人ひとりが僕にとってあまりに尊くありがたい。

 公的な予算を使うということは、=そんな一人ひとりの思いや熱量を差し置いて、動員数や売上高といった数値に向き合わなきゃいけないということでもある。僕はそれがわるいと言っているのではなく、それはそれでとても自然で当たり前なことだから、自治体から予算をもらっておきながら、数値以外を見てくれと主張するのには無理がある、ということが言いたい。だからこそ、僕は僕なりのやり方であたらしいイベントを編集している。それが「いちじくいち」なのだ。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

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