地域編集のこと

第26回

比べることから始めない地域の誇り

2021.02.06更新

かつては地方取材あるあるだった「うちの地域にはなにもないから」という言葉を、最近はずいぶん聞かなくなった。これは純粋にとてもいいことだと思う。

かつて秋田県庁のみなさんとともに『のんびり』(2012年〜2016年)という名前の雑誌をつくっていた。

47都道府県すべてに配布されるフリーマガジンで、四年間、毎号毎号、全力で取材に取り組み、それこそ、いまもう一度あれをやってくれと言われても「無理!」と即答できるほどに30代最後から40代前半の体力と精神力を100%注いだ雑誌づくりだった。

それだけに反響も大きく、僕が当時一番危惧していたことは、『のんびり』を見て秋田に来る人がいるに違いないということだった。秋田県のオフィシャルな媒体として、本来それはとても良いことなのだけれど、僕は不安で仕方なかった。それは、「のんびり」片手に、実際に秋田駅までたどり着いた人が、僕たちがやっていた突撃取材よろしく、町の人に声をかけ、「初めて秋田に来たんですけど、どこかおすすめの場所ありますか?」なんて聞こうものなら、

「秋田さ、なにもねえがら、このまま新幹線乗って青森まで行け」

などと言いかねないと思ったからだ。


あれから8年以上経って、そういう心配をしなくても良くなったのは、なんだか個人的にはとても感慨深い。

そもそも、僕のような余所者があえて、暮らしていない土地のメディアの編集長をする意味は、その土地の日常のなかに当たり前に存在しているスペシャルを炙り出すことにある。地域に誇りを持つことのはじまりは、いつだって他と比べることにある。余所者がやってきて、ここの酒は、どこどこの酒と比べてこう違っていて美味いですよ。この風景は、どこどこでみた景色と匹敵するくらい美しいです。と、比較対象を明確にし、その差異について説明してくれるからこそ、わかるものがあり、そこで初めて自信を持つことができる。

これまで僕は、そんなことを言ったり、書き残したりすることが、編集者の大きな役割の一つなんだと思ってやってきた。例えば、「街道をゆく」の司馬遼太郎だったり、「奥の細道」の松尾芭蕉だったり、秋田であれば菅江真澄だったり、旅人且つ文筆家・編集者の先人たちの役割も、きっとそうだったに違いない。

けれど、僕が最近やっていること、書いていること、を思い返すとなんだかそれが変化してきていることに気づいた。

これまでは前述のように、いかに誇りを持ってもらうかに注力していたのが、最近は「みなさんが作る果物はとっても甘いけれど、糖度の高さ=美味しいなんでしょうか?」とか、「さすが著名な建築家さんによるオシャレで立派な建物だと思うけれど、人の気配が感じられないってことは、この土地に馴染んでないってことかもしれないですね?」と、漠然と信じているみなさんの誇りに疑問を投げかける言葉が多くなっている。

つまりは、数値やネームバリューのような相対価値的な誇りから、その土地の個性が土台となった絶対価値的な誇りへと、誇りの質を変化させようとしていることに気づく。

だからいま地域編集者にとって必要なことはいよいよ「答え」ではなく「問い」だ。
「ここの◯◯は、どこそこの◯◯と比べて、こういうところが違っていて美味しいです」というような「答え」は、すぐに誇りを持ってもらいやすいけれど、それはどこまでいっても自分の実感ではない。一方、「ここの◯◯は、ほかの◯◯と比べて、なにが違うんですか?」という「問い」を置いて帰ることで、その土地の人が自分の頭で考えたり、行動したりしてくれれば、それは体感を伴った、本当の誇りになるはずだ。

以前から、生産量日本一だから美味しいわけじゃない。とか、売り上げ一位は美味しさ一位というわけでもない。などと言い続けてきた僕だけれど、それはつまるところ、「美味しさ」という言葉に現れるような、文化や嗜好の多様性によって変化する数値化できないものに向き合ってほしいからだ。だからいま地域編集者としてやるべきことは、安易に相対化することなく自信を持ってもらうこと。つまりは、比べることをやめてみませんか?と伝えることなんじゃないかと思って、僕はいま立ち止まり考えている。

「比べることから始めない地域の誇り」。
地域編集者として、しばらくここに立ち向かってみたい。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

編集部からのお知らせ

2/17(水)18:00~ 藤本智士(Re:S)× 三島邦弘(ミシマ社)× 福島暢啓(MBSアナウンサー)「編集者って何してるん?」開催となります!

神戸と秋田を行ったりきたり、「ローカル」の視点から編集の新しい可能性を見いだす藤本さん。京都と東京を拠点とする「ちいさな総合出版社」を運営しつつ、単行本と雑誌「ちゃぶ台」を編集する三島さん。ふたりの共通点は編集者であること、関西に住んでいること。そんな「編集者」となって20年を超える二人が、そもそも編集者って何するの?を語り合います。「え、自分そんなことしてたん?」「その取材の仕方ありなん?」などなど、同じ肩書きとは思えぬ話から、コロナ禍での発見や取り組みといった「今」と「これから」の話まで。ぶっつけ本番で、二人が話したいこと、聞きたいこと、をお届けする90分!

ーーMBSちゃやまちプラザHPより

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