地域編集のこと

第11回

書籍編集と地域編集

2019.10.19更新

 そろそろ本連載タイトルでもある「地域編集」について、まっすぐ考えていきたい。というのも、これまで僕は「地域を編集する」という言葉に、「まちづくり」に似たシムシティ的、神視点を感じて、自分からは積極的に使う気持ちになれなかった。しかし、少子高齢化、人口減少が進むなかでなお、いまだに経済成長を望むばかりな昭和平成の価値観が幅を利かせる現状に、あたらしいものさしを提示するべく、いよいよ「地域編集」という言葉を周知させねばと思いはじめている。「まちづくり」という言葉は、まだ僕のなかでおこがましさが拭えないけれど、「地域編集」はもう少し地面に近い言葉のように思う。この連載で書き続けてきたように「編集」とは、とても泥臭いものだ。

 2017年に自著『魔法をかける編集』を出して以来、僕はずっと「編集」という言葉を拡張させるべく活動してきた。その成果なのか、はたまた世の中の変化なのか、徐々に「広義な編集」が認知されはじめてきたように思う。ならばそれを確かなものにするべく、ここで僕はさらに「編集」には大きく二つあると唱えてみたい。1つ目は、従来のテキストベースな二次元的「書籍編集」。そして2つ目は、場づくりやものづくりに関わっていく三次元的「地域編集」だ。それぞれに使う筋肉は違うけれど、使う脳みそはとても近い。この両方を「編集」と呼ぶことの意味は、ともに、あたらしいモノを生み出すのではなく、あたらしい価値を生み出すところにある。

 すでに在るモノから、いまの世の中に必要なあたらしい価値を見出していく。 そこに頭と体を使うのが「編集」だとすれば、双方に欠かせないのが「取材」だ。書籍や雑誌編集における取材の意味はわかるけれど、地域編集における取材には違和感を感じる人もいるかもしれない。しかし、そもそも編集を施す素材がなければ編集しようがないのだから、それが地域編集であっても、まずは取材をとおしてその材料に出会い、向き合うことからスタートするのは当然だ。

 ただ、何年も編集者として仕事を続けていると、編集依頼を受けることから、意図せず、編集対象との出会いをもらうことがある。僕はその場合でも必ず取材をする。取材をすることで、その案件を自分ごとにできるかを測るのだ。

 先日も、NHK神戸の知り合いから、来年、阪神・淡路大震災から25年を迎えるにあたり、一緒にコンテンツを作れないだろうか? と相談を受けた。神戸で育ち、いまも神戸に事務所を構える僕にとって、阪神・淡路大震災はとても大きな出来事だ。しかし、あらためて当時のことを思い出そうとするものの、おぼろげな記憶しかなく、それよりも、東北の震災や熊本の震災のさまざまばかりが思い出された。僕のなかの強い震災体験は、大学生の頃の阪神・淡路大震災よりも、もう少し大人になってから体感した、東北や熊本の震災だということに気づいた。

 そこで僕は、神戸の震災について僕より切実さを持った人たちに話を聞きたい。つまりは取材したいと申し出た。ここにおける取材は、記事や番組のようなアウトプットが決まったものではない(ちなみに僕の取材はこれがとても多い)。にもかかわらず、お二人の方が僕に時間をくださることになった。お一人は、阪神・淡路大震災のとき、赴任まもない大阪から単身神戸に入り、壮絶な現場を前に必死で報道の使命を果たし、いまも災害に関するドキュメンタリーをつくり続けているNHK神戸プロデューサーのEさん。もう一人は神戸にある「人と防災未来センター」で20年以上防災に向き合い続けているディレクターのHさん。

 Eさんは、自分がこれまで何を伝え、何を伝えられていないかを答えてくださり、25年が節目と言われることの意味について教えてくれた。またHさんからは、日々の暮らしの充実こそが一番の防災であるという考え方を教わり、僕がそこに携わっていくことの意味を強く感じることができた。おかげで僕はいま自分ごととして、NHKのみなさんとともに、このプロジェクトに取り組んでいる。

 ぼくの編集は、いつもこうやってはじまる。取材は編集対象との出会いだけでなく、自分が編集することの意味を知ることにもつながるのだ。そこをわかってもらった上で、あらためて僕の仕事をみたとき、僕のやっていることの秘密に気づいてもらえるかもしれない。それをハッキリと言葉にするならば、僕は地域編集のはじまりとして書籍編集をしている。それが、僕がいま力を注いでいる秋田県の仕事で言うところの「のんびり」であり、「なんも大学」である。書籍編集をもって得たモチベーションが、僕を地域編集に向かわせる。この循環で僕は生きている。

藤本 智士

藤本 智士
(ふじもと・さとし)

1974 年兵庫県生まれ。編集者。有限会社りす代表。雑誌「Re:S」編集長を経て、秋田県発行フリーマガジン「のんびり」、webマガジン「なんも大学」の編集長に。 自著に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』(共に、リトルモア)。イラストレーターの福田利之氏との共著に『いまからノート』(青幻舎)、編著として『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)などがある。 編集・原稿執筆した『るろうにほん 熊本へ』(ワニブックス)、『ニッポンの嵐』(KADOKAWA)ほか、手がけた書籍多数。

編集部からのお知らせ

【展示情報】

shashinten2.jpg

のんびり写真展『あこがれの秋田』
会期:9月29日(日)~10月27日(日)
場所:秋田県立美術館

 藤本智士さんが編集長を務め、2012~16年に発行された秋田県のフリーマガジン「のんびり」で掲載された写真を紹介する写真展です。県外の写真家が撮影した風景や郷土芸能の写真など、紙面に載り切らなかった作品も含め約150点を展示!
 私も先日おじゃましてきたのですが、錚々たる顔ぶれの写真家さんたち、そして「あきたこまち」特集の臨場感あふれる展示など、発見いっぱいのめちゃくちゃ楽しい展示でした。まだの方はぜひご覧いただきたいです!!(イケハタ)

詳細はこちら

おすすめの記事

編集部が厳選した、今オススメの記事をご紹介!!

  • 伊藤亜紗さんと村瀨孝生さんの往復書簡が一冊の本に! 『ぼけと利他』まもなく書店発売!!

    伊藤亜紗さんと村瀨孝生さんの往復書簡が一冊の本に! 『ぼけと利他』まもなく書店発売!!

    ミシマガ編集部

    こんにちは! ミシマガ編集部です。今週木曜日の9月15日、いよいよ『ぼけと利他』が発刊します! 『ぼけと利他』刊行のきっかけとなったのは、2020年7月18日に開催されたMSLive!「ぼけと利他~時空を超えるお年寄りたちに学ぶ」でした。出演は「宅老所よりあい」代表の村瀨孝生さんと、美学者の伊藤亜紗さん。

  • 『偶然の散歩』まえがきを公開します

    『偶然の散歩』まえがきを公開します

    ミシマガ編集部

    いよいよ9月15日(木)に、森田真生著『偶然の散歩』が書店先行発売となります。(公式発刊日は9月22日(木)です。)本書は、森田さんが2017年から2022年にわたって、日経新聞の「プロムナード」などに寄稿したエッセイ全40篇を収録しています。

  • 『ちゃぶ台』次号は10号! こんどの特集は「ボゴボゴ」!?

    『ちゃぶ台』次号は10号! こんどの特集は「ボゴボゴ」!?

    ミシマガ編集部

    こんにちは、ミシマガ編集部です。現在、『ちゃぶ台9』の特集「書店、再び共有地」に、読者の方々よりたくさんのご感想のおはがきをいただくなど、大きな反響をいただいています。取材記事で登場する「共有地」の本屋さんに、「記事を読んで行ってみました」というお声もいただいていて、すごく嬉しいです。

  • メンバーが選ぶ、小田嶋隆さんの本と言葉

    メンバーが選ぶ、小田嶋隆さんの本と言葉

    ミシマガ編集部

    小田嶋さんはこれまでにもミシマ社から3冊の本を発表され、また、数々のイベントにも登壇くださいました。本日のミシマガでは過去の著作に加えて、いますぐ読める豪華な対談記事をご紹介します!20代の若手メンバーが痺れた小田嶋さんの言葉とは・・・?

この記事のバックナンバー

09月05日
第47回 「のんびり」のチームづくり 藤本 智士
08月07日
第46回 弱さを起点とするコミュニティ 藤本 智士
07月07日
第45回 チームのつくりかた 藤本 智士
06月08日
第44回 編集のスタートライン 藤本 智士
05月06日
第43回 サウナ施設を編集する その5 藤本 智士
04月09日
第42回 サウナ施設を編集する その4 藤本 智士
03月12日
第41回 サウナ施設を編集する その3 藤本 智士
02月12日
第40回 サウナ施設を編集する その2 藤本 智士
01月11日
第39回 サウナ施設を編集する その1 藤本 智士
12月11日
第38回 地域編集者としての街の本屋さんのしごと。 藤本 智士
11月07日
第37回 サーキュラーエコノミーから考える新しい言葉のはなし 藤本 智士
10月08日
第36回 編集視点を持つ一番の方法 藤本 智士
09月04日
第35回 編集力は変容力?! 藤本 智士
08月11日
第34回 「言葉」より「その言葉を使った気持ち」を想像する。 藤本 智士
07月12日
第33回 「気づき」の門を開く鍵のはなし 藤本 智士
06月07日
第32回 ポジションではなくアクションで関係を構築する。ある公務員のはなし。 藤本 智士
05月13日
第31回 散歩して閃いた地域編集の意義 藤本 智士
04月05日
第30回 アップサイクルな編集について考える 藤本 智士
03月06日
第29回 惹きつけられるネーミングのはなし 藤本 智士
02月06日
第28回 比べることから始めない地域の誇り 藤本 智士
01月08日
第27回 フィジカルな編集のはなし 藤本 智士
12月09日
第26回 地域おこし協力隊を編集 藤本 智士
11月05日
第25回 まもりの編集 藤本 智士
10月08日
第24回 編集にとって大切な「待つこと」の意味 藤本 智士
09月05日
第23回 「にかほのほかに」のこと 03 〜ラジオからはじめる地域編集〜 藤本 智士
08月09日
第22回 「にかほのほかに」のこと02 〜DITとTEAMクラプトン〜 藤本 智士
07月07日
第21回 「にかほのほかに」のこと01 〜ロゴの編集〜 藤本 智士
06月11日
第20回 オンラインサロンとせいかつ編集 藤本 智士
05月10日
第19回 編集スクール的オンラインサロンの姿を求めて 藤本 智士
04月06日
第18回 「三浦編集長」が編集の教科書だと思う理由 藤本 智士
03月09日
第17回 根のある暮らし編集室 藤本 智士
02月05日
第16回 三浦編集長に会いに 藤本 智士
01月11日
第15回 「トビチmarket」を編集した人たち 後編 藤本 智士
01月10日
第14回 「トビチmarket」を編集した人たち 前編 藤本 智士
12月14日
第13回 「トビチmarket」 藤本 智士
11月17日
第12回 書籍から地域への必然 藤本 智士
10月19日
第11回 書籍編集と地域編集 藤本 智士
09月08日
第10回 編集⇆発酵 を行き来する。 藤本 智士
08月17日
第9回 編集発行→編集発酵へ。 藤本 智士
07月16日
第8回 編集発酵家という存在。 藤本 智士
06月14日
第7回 いちじくいちのこと 06 藤本 智士
05月16日
第6回 いちじくいちのこと 05 藤本 智士
04月10日
第5回 いちじくいちのこと 04 藤本 智士
03月14日
第4回 いちじくいちのこと 03 藤本 智士
02月13日
第3回 いちじくいちのこと 02 藤本 智士
01月18日
第2回 いちじくいちのこと 01 藤本 智士
12月15日
第1回 「地域編集のこと」その前に。 藤本 智士
ページトップへ